ファッション
連載 注目若手デザイナーへの10の質問

関わる職人は250人以上 インドの伝統的なクラフトと現代服をつなぐ「カルティック リサーチ」のカルティック・クムラ

海外ファッション・ウイークを現地取材するWWDJAPANは毎シーズン、今後が楽しみな若手デザイナーに出会う。本連載では毎回、まだベールに包まれた新たな才能1組にフォーカス。10の質問を通して、ブランド設立の背景やクリエイションに対する考えから生い立ち、ファッションに目覚めたきっかけ、現在のライフスタイルといったパーソナルな部分までを掘り下げる。

今回話を聞いたのは、インド・ニューデリーを拠点に活動しながら、パリ・メンズ・ファッション・ウイークでのコレクション発表を続けるメンズウエアブランド「カルティック リサーチ(KARTIK RESERCH)」のカルティック・クムラ(Kartik Kumra)だ。米ペンシルベニア大学で経済学を学ぶ傍らインド各地の職人地域を巡り、2021年にブランドを始動した彼が核に据えるのは、「服に人間らしさを取り戻すこと(reintroduce a sense of humanness to clothing)」。毎シーズン、インドのサブカルチャーにインスピレーションを得ながら、刺しゅうや草木染め、ブロックプリントといった長年受け継がれる手仕事をワークウエアなどの現代服に取り入れたコレクションを提案している。モノ作りに関わる職人は250人以上に上り、手仕事による不均一な仕上がりや独特の風合いもブランドが大切にする人の温もりを体現する魅力になっている。

23年度「LVMHプライズ(LVMH PRIZE)」ではセミファイナリストまで残り、同年、経済誌「フォーブス(FORBES)」のアジア版「世界を変える30歳未満30人(30 UNDER 30)」にも選出。24-25年秋冬シーズンにパリ・メンズ・ファッション・ウイークの公式スケジュール入りを果たした。また24年にはニューデリーに、今年4月には米ニューヨークに店舗もオープン。インドの伝統的なクラフトを世界に発信する若き才能として、注目を集めている。

1:出身は?どんな幼少期や学生時代を過ごしましたか?

インドのデリー出身です。子どもの頃は、両親がいろいろな習い事に通わせてくれて、数学からサッカー、クリケット、美術まで、とにかく常に何かをして過ごしていました。インドでは学業へのプレッシャーがとても強く、自分が通っていた学校も特に競争が激しかったので、残念ながら勉強に多くの時間を費やしていましたね。

2:ファッションに関心をもった原体験やデザイナーを志したきっかけは?

ファッションに興味を抱いたのはかなり遅く、コロナ禍のロックダウンを経験した20歳の頃でした。それまでの自分はただの消費者で、高校や大学でスニーカーのリセールをしていたくらいです。大学の授業がすべてリモートになり、アメリカからインドへ戻ったタイミングで、「今なら失うものは何もない」と思えたことがデザインに取り組むきっかけになりました。

3:自分のブランドを立ち上げようと決めた理由は?

ブランド設立を決めたのも同じ時期で、まずインド各地のクラフトで知られる地域を6〜7カ所まわり、それぞれの異なる刺しゅうやプリントの技法をリサーチしました。その経験を通して、こうした技術を現代的なかたちで提示できれば十分にブランドとして成立すると確信しました。

4:学生時代から過去に働いたブランドまで、これまでの経験で一番心に残っている教えや今に生かされている学びは?

常に心掛けているのは、リスペクトを持って顧客を扱うことです。彼らは賢く、侮ってはいけません。かつて消費者として憧れていたブランドが、自分たちの顧客を甘く見て、魅力を失う例をいくつも見てきました。商品を売ることに頼り、革新することをやめてしまうんですよね。でも、デザイナーはミシュランの三つ星レストランのシェフのようであるべき。そこには常に創造し、興奮をもたらし、クラフトを磨くというプレッシャーがあり、顧客の既存のテイストに迎合するのではなく、次に向かう方向を示したいと考えています。

5:デザイナーとしての自分の強みや、クリエイションにおいて大切にしていることは?

世界観の構築が自分の強みになってきていると感じます。自己資金だけでゼロから立ち上げたブランドなので難しい部分もありますが、服からイメージや店舗まで、一つの美学を全てに貫くことを大切にしています。ようやく、その理想に近づいてきました。

6:活動拠点として、今暮らしている街は?その中でお気に入りのスポットは?

現在もデリーを拠点にしています。お気に入りのレストランは 和食のインジャ(INJA)、そしてインド料理のコモリン(COMORIN)とホサ(HOSA)です。生まれ育った街ではありますが、あまり住みたくはない街になってしましました。今のデリーは大気汚染が深刻で、クリエイティブなエネルギーも家族経営のビジネスに支えられていて、若者がリスクを背負って自らのビジョンを貫くような環境ではありません。

7:ファッション以外で興味のあることや趣味は?

サッカーをすることは私にとって大きな存在。仕事やスマホから完全に離れられる貴重な時間ですし、精神の安定を保つためにもとても重要です。そして英チェルシーFCの大ファンなので、チームの成績によって週ごとの気分が左右されるんですよね……ここ数年はなかなか厳しいです。

8:理想の休日の過ごし方は?

時間があるときは、旅行するのが好きです。ニューヨークに店舗を構えたことで、長めに滞在できるようにもなりました。美味しいものを食べたり、映画を観たり、街を歩いたり。それだけで、自然と仕事に向けて良い状態に入れます。

9:自分にとっての1番の宝物は?

あまりセンチメンタルなタイプではありませんが、今一番大切にしているのはアーティストのザーム・アーリフ(Zaam Arif)による作品です。一貫したビジョンと独自の表現を持っている彼の作品はとても興味深く、将来必ず大きく評価される存在だと確信しています。

10:これから叶えたい夢は?

ただ、この道を歩き続けていきたいだけです。これまでの道のりはとても楽しいものでしたし、そのまま進んでいきたいと考えています。パリでのショーを重ね、インドの職人たちと取り組み続けて、主要市場にさらに出店していく。そうした積み重ねが、自然とより大きなものにつながるはずです。

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