PROFILE: 富髙健一郎(とみたか・けんいちろう)/アッシュ・ペー・フランス社長

欧米ファッションブランドを輸入販売する「アッシュ・ペー・フランス(H.P. FRANCE)」(以下、「HPF」)は今年、創業40周年を迎えた。同社は1985年、村松孝尚氏が創業。世界中のクリエイターやデザイナーのファッションやインテリア、アートなどを輸入販売してきたセレクトショップのパイオニア的存在だ。独自の世界観のアイコニックなブランドを数多く手掛けてきたが2017年に事業再生ADRを実施、23年2月に会社更生法手続きを申請した。昨年9月には、企業再生プラットフォーマーのBrighten Japan(以下、BRTNJ)が完全子会社化。今年6月にHPFの新社長に就任した富髙健一郎氏に話を聞いた。
富髙社長は、約25年に渡り「プラダ(PRADA)」の日本法人の管理部門で活躍。退職を機に、BRTNJから声が掛かり、管理部門のアドバイザーとして参画した。同社長は、「最初は不安もあったが、『HPF』はプロの集団であり、トップダウンではなく各部門が意思を持って会社を運営するという方針に賛同し、入社を決めた」と話す。ラグジュアリー業界からの転職だが、「プラダ」での財務・業務改善の経験を生かして財務立て直しを図っている。「ラグジュアリー業界に必要な商品力とストーリー性、顧客体験の提供はセレクトショップでも同じ。オペレーションは経験あるスタッフに任せ、収益構造の強化に力を注いでいる」。
「HPF」の世界観を守りながら新しい価値を提案
新生「HPF]のコンセプトに掲げたのは、“美意識の記憶から、新しい価値をつくる”。「組織に根付いている“モノ作り”や“セレクト”“キュレーション”の美意識を未来につなげていくのが重要だ」と富髙社長。「HPF」が今まで培ってきた世界観を保ちながら、新しい価値を提供していくのが目的だ。「そのためには、『HPF』そのものを価値があるものにしていく必要がある」と続ける。そのために、市場動向を見ながら、プライベートブランドも充実させていくという。「利益率が高いプライベートブランドは魅力的だ。アーティストとコラボするなど既存のネットワークを生かしたコラボもあれば、BRTNJ傘下企業とも協業する」と話す。長年、輸入販売している「ジャック・ル・コー(JACQUE LE CORRE)」は意匠権を獲得し、生産を日本に切り替えてデザインや品質をキープしつつも手に取りやすい価格帯を実現した。
新業態「デクリック」を通して若年層にもアピール
[/caption]「ブランドの認知度アップが一番の課題だ」と話す富髙社長。創業40年を迎えた今、中心の顧客層は40~50代だ。「HPF」は、40代以上の女性には知られているが、男性や若年層の認知度は低い。「分母を増やす意味でも、それらの獲得が必要。そのため、自社ECをはじめ SNS発信の強化を図る。また、若年層にアピールするブランド発掘や新業態により顧客層の若返りを図る」と話す。昨年スタートした20~30代向け新業態「デクリック(DECLIC)」が好調だ。同ブランドは、ロンドンやパリに住む若年層の感覚を反映したファッションやアクセサリー、ライフインテリア雑貨などをセレクトし、カジュアルに楽しむ提案をしている。価格帯は、2万〜3万円とインポートにしては手に取りやすい。百貨店をはじめ、ファッションビルからも関心が高く手応えを感じているという。「『デクリック』を入り口に、ゆくゆくは『HPF』のファンになってもらいたい。時間をかけてお客さまを育てていくつもりだ」。現在、「デクリック」は、有楽町ルミネと大阪ハービスプラザエントにショップを構えている。
ブランド愛に満ちたスタッフの力を最大化する
「今後のセレクトショップに必要なことは編集力だ。『HPF』の強みは、商品そのものの面白さ、編集力、販売力、全てがそろっている点。社員は会社の大きな資産。それを最大化できる環境を作りたい」と富髙社長。上質で面白い商品を探し出すだけでなく、モノ以上の満足感を体験として届けていくことが重要だと考える。情報化が進み、唯一無二を届けるのが難しい時代だ。だが、「HPF」では長年パリやロンドンにスタッフが常駐し、現地で足を運んでクリエイターたちとバイヤーをつないできた。現地でのネットワークを生かしながら、独自のセレクトを強化していくと同時に、目利きのバイヤーの編集力で同じ商品でも独自の見せ方やスタイリング提案をしていくという。「HPF」の社員は、自社で扱うブランド愛に溢れているのが大きな特徴だ。「ブランドが大好きで、それが接客時の提案で広がり、お客さまの満足度アップや喜びにつながる」。「HPF」の原点である美意識をもとに、スタッフ全員の活躍を通して、より豊かさや幸福感を感じられる商品を届け、世代を超えて支持される存在へと成長していくという。