ビューティ

「ラッシュ」による“ありのままを認める”ヘアサロン「ヘアラボ」 開発者に聞く、サービスと理念の接続

デイジー・エバンス/ラッシュ 化粧品・「ヘアラボ」開発者

ヘアスタイリストのキャリアを経て、2018年にラッシュに入社。ヘアケア製品の開発に注力し、イギリスで店舗内で洗髪体験ができる「The Shampoo Bar」というヘアサロンコンセプトの確立などにも尽力。23年12月に、ラッシュ初のヘアサロンビジネス「ラッシュ ヘアラボ」の立ち上げをけん引

ナチュラルコスメブランド「ラッシュ(LUSH)」はこのほど、ヘアサロンコンセプト「ヘアラボ(HAIR LAB)」を日本に初めて導入した。第1号店舗は「ラッシュ スパ(LUSH SPA)」新宿店で、ヘッドスパサービス“ボタニカルウォッシュ&スタイリング”(90分、1万2000円)をはじめとする5種のサービスを提供する。

「ヘアラボ」は2023年12月にイギリス・ブライトンで独立型サロンとして始動。鏡を隠せる配慮や会話を通じてその場で調合するハーバルリンスなど、従来のサロンのあり方にとらわれない体験づくりで、現地で支持を集めている。開発者であるデイジー・エバンス氏に、その背景や日本展開の工夫を聞いた。

WWD:ヘアサロンサービス「ヘアラボ」を立ち上げた経緯は?
デイジー・エバンス(以下、デイジー):
「ラッシュ」のヘアサロン事業参入は唐突なようで、実はブランドの原点に結びついている。創立者の1人であるマーク・コンスタンティンはイギリスでヘアサロンの見習いとしてキャリアをスタートし、その後、「ジョン フリーダ」や「ボディショップ(BODY SHOP)」など大手企業向けに商品開発をしていた。その延長線上に毛髪学者であるマークが開発する「ラッシュ」のヘアケア製品があり、ヘアサロン事業への参入も自然な流れと言える。

WWD:「ラボ」にはどのような意味を込めたか?
デイジー:
イギリス本社の製品開発施設である「ユニットワン」では、製品開発をしながら実際にスタッフの髪で使用感を試していた。研究所のようなその環境が「ラボ」であり、製品開発の過程における“目的地”のような場所だったこと、そしてこの取り組み自体が会社として実験的な要素も含むことから「ヘアラボ」と名づけた。

“バリデーション”をサロンで体現

WWD:ヘアサロンビジネスに着手する構想はいつからあった?
デイジー:
構想自体は創業時からあった。というのも、「ラッシュ」は店舗の小売り業でも実際に体験してもらうことを重視しているから。その姿勢をヘアケアに落とし込んだ「ヘアラボ」は“究極の体験”として位置づけている。

イギリスでは、ヘアサロンは「居心地の悪いもの」というイメージが一般的に強く、喜ばしいものとして受け入れられていない。しかし、イギリス・ブライトンで展開する「ヘアラボ」はその概念を覆す、ユニークなサロンとして支持を集めている。それは、接客方法や音や光を含めた空間演出で心地よい体験を提供している点に理由がある。

各技術に特化したスタッフをそろえ、スタッフ自身のヘアスタイルが多様であるため、どのようなヘアスタイルの人でも対応できる。また、サロンに来て誰もが鏡をみたいわけではないため、鏡を隠すボードを用意するなど、心理的配慮にも注力している。

また、お客さまの髪の良さを積極的に褒めるポジティブな接客を徹底し、初対面のお客さまの心を開くきっかけとしている。丁寧なコンサルテーションで心を通じた上でのサービス提供を大切にしている。

これらは、「ラッシュ」が大切にする“バリデーション(その人自体を認める行為)”の考えに基づいている。こうした取り組みが評価され、ブライトン店はグーグルで5つ星評価を150件以上獲得している。

WWD:「ヘアラボ」を日本で展開するに向け、カスタマイズした部分は?
デイジー:
今まで挙げたような配慮は日本でも大事なポリシーとして引き継ぐ。加えて、日本では職人技や専門性に対してリスペクトが強く、おもてなしの文化があることから、黒板にお客さまの名前を書いて歓迎の気持ちを表現している。

WWD:提供するサービスで特に注目してほしいものは?
デイジー:
製造拠点と開発拠点「ユニットワン」が近接していたことから、製品づくりの過程を日常的に目にしていた。そういった環境から育まれたテーラーメイドやエレメントの要素を反映し、その場でお客さまごとにハーバルリンスを調合する“ボタニカル ウォッシュ”というサービスを開発した。

ハーバルリンスを作るための原材料は全て、「ラッシュ」のヘアケア製品に使用されている。仕上げとして最後に塗布し、ブランドが持つ原材料とヘアケアの知見や効能を最大限体験してもらうサービスだ。

新宿店は全ジャンルの製品も扱っている店舗で、その中に「ヘアラボ」を併設する形を採っているが、将来的にはブライトン店のようにヘアケア製品のみに特化した独立型店舗の展開も視野に入れている。

“プロナウン”という選択肢が持つ意味

WWD:日本とイギリスで違いを感じる部分は?
デイジー:
ブライトン店ではジェンダーニュートラルなアプローチが浸透している。初めに“プロナウン(自分が望む代名詞)”を確認するなど、誰もが安心して過ごせる環境づくりを徹底している。

日本でお客さまに提供した際に、“プロナウン”を理解されていなかった。しかし、大事なのは、その意味が分かる人や必要とする人がいた時に、その選択肢があることだ。

われわれは企業として、多様性を認め、先導を切って行動に移し、人権意識を発信する姿勢を重視している。キャンペーン時のみ行動に移すのではなく、こういった普段提供するサービスにもその意思を反映している。

日本ではまだ一般的ではないが、私たちは「人を歓迎する方法」として“プロナウン”を重要視している。鏡を隠す工夫やポジティブな言葉がけと同じく、ジェンダーニュートラルの姿勢も体験の質を高めるための要素だ。

「ヘアラボ」は単に最高のヘアケア体験を届けるというだけでなく、「All are welcome, always」という「ラッシュ」の姿勢を体感する場であり、その理念を体現する場として、日本のお客さまに届くことを期待する。

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