エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES、以下ELC)は経営再建を急ピッチで進めている。1月に就任したステファン・ドゥ・ラ・ファヴリー(Stephane de la Faverie)最高経営責任者(CEO)は、同社の79年の歴史の中で最も困難な局面で指揮を取る。就任から半年も経たずに旧態依然とした官僚主義を打破し、長年かけて築いた構造の解体にも着手。昨今の変わりやすいマクロ環境に対抗すべく組織にリスクを取る姿勢を求め、同社のビジネスを大きく改革しようとしている。
ヒーロー製品戦略と中国市場依存により低迷
米「WWD」のインタビューでファヴリーCEOは、「消費者志向に基づく世界最高のプレステージ・ラグジュアリー化粧品企業、これがわれわれのビジョンだ。当社の基盤は強固で、組織には変化を起こすエネルギーがあり、人々は変化を望んでいる」と述べる。同社はファブリツィオ・フリーダ(Fabrizio Freda)前CEOの下、ヒーロー製品を押し出す戦略で中国の美容ブームに乗り、株価は2022年1月に過去最高値の370.20ドル(約5万2900円)を付け、時価総額は1330億ドル(約19兆190億円)を超えた。しかし、中国市場とトラベルリテールの急落に加え、代購(だいごう、再販業者による免税購入)への過度な依存と脆弱な供給チェーンがたたり、株価は23年、42%下落。24年にはさらに約50%値下がりした。最近では、4月2日にドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が関税政策を発表した混乱の中、50.06ドル(約7100円)の安値を付けた。
ファヴリーCEOは目の前の危機に対処しつつ、中長期的な視点に立った大きな目標を見据える。「外部環境は無視できない。しかし、チームには自分達がコントロールできることに集中するよう言っている」といい、長い歴史の中で不況からパンデミックまであらゆる苦境を乗り越えてきたと強調する。「われわれはその都度強くなっているし、正しい決断を下してきた。それらは組織構造やリーダーシップ、文化に関わるもので、小さなものではなかった。そして今、さらに大きな変化を遂げようとしている」と続ける。
2月、新戦略「ビューティ・リイマジンド」を発表
同社は2月の決算説明会で、「ビューティ・リイマジンド(Beauty Reimagined)」と題した新たな戦略計画を発表。幅広い消費者にリーチすること、変革をもたらすイノベーションの創出、消費者向け投資の強化、大胆な効率化による持続可能な成長の実現、働き方の再考を行動計画の優先事項に掲げた。「成長と収益性向上に向けて断固たる行動を取る」としている。さらにファヴリーCEOは、CEO職のライバルと広く報じられていたジェーン・ローダー(Jane Lauder)前最高データ責任者兼マーケティング担当副社長が24年に実行しようとしていた「利益回復・成長計画」の大幅な拡大も発表。その中には、より競争力のある調達アプローチ、サプライチェーンの効率化、さらに5800〜7000人の雇用削減を含む。
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