PROFILE: 髙石あかり/俳優
俳優・髙石あかりが主演を務めるアクション映画「ゴーストキラー」が4月11日に公開される。同作の監督を務めるのは「ベイビーわるきゅーれ」シリーズなどの作品でアクション監督として活躍し、「HYDRA」(2019)で監督業にも進出した園村健介で、脚本は「ベイビーわるきゅーれ」シリーズで監督を手掛けた阪元裕吾が担当する。
ストーリーは、日々に鬱憤を抱える大学生のふみかに元殺し屋・工藤の幽霊が取り憑き、最初は反発し合っていた2人だったが、少しずつ心を開き始めたふみかは、工藤の成仏のために協力することになるが……。
主人公のふみかを演じる髙石は、「ベイビーわるきゅーれ」で脚光を浴び、近年は「私にふさわしいホテル」(24)や「遺書、公開。」(25)など話題作に次々出演するほか、今秋放送のNHK連続テレビ小説「ばけばけ」のヒロインの座を獲得するなど、今最も注目を集める俳優だ。また相棒となる元殺し屋の幽霊・工藤を演じるのは、アクションを得意とし、「HYDRA」で主演を務め高く評価された三元雅芸。本作では髙石と三元がシンクロするようなアクションを披露する。
意外なことに本作が初の映画単独主演作だという髙石に、「ゴーストキラー」の魅力やお気に入りのアクション、大好きだと語る芝居の魅力について語ってもらった。
「ベビわる」とどう差別化するか
——まずは「ゴーストキラー」のオファーがどのような経緯で来たか教えてもらえますか?
髙石あかり(以下、髙石):「ベイビーわるきゅーれ」(以下、「ベビわる」)や他の作品でもお世話になっているプロデューサーからお話を頂いたのが最初でした。その方が次はどんな作品を手掛けるのかすごく楽しみでしたし、その後に監督が園村さんだと聞いてますます期待が膨らみました。それまでアクション監督としての園村さんしか知らなかったので、今作ではどんなお芝居ができるんだろうと撮影前からワクワクしていました。
——阪元裕吾さんの脚本を初めて読んだとき、どのように感じられましたか?
髙石:これがどう映像化されるんだろうという疑問と、これはものすごい作品が生まれるなという確信を同時に抱きました。園村さんが監督で、三元さんが工藤を演じられる時点でアクションは確約されているとは思いましたが、そこに自分のお芝居やアクションがどう説得力を持って付いていけるかという不安もありました。
——本作で髙石さんが演じるふみかは暴力を目の当たりにすると恐怖で泣いてしまうし、殴ると痛みに悶えるしで、とてもリアルな感覚の持ち主ですよね。「ベビわる」を観ていただけにそれが新鮮に映りましたが、どのようにふみかという人物を作り上げていったんでしょうか?
髙石:阪元さんは「ベビわる」の杉本ちさとを当て書きに近い形で作り上げてくれて、私がお芝居で表現する喜怒哀楽もすごく近くで見て知ってくれている方。その土台の上で生まれたであろう今作のふみかもちさとに近しい部分はあるんですが、そこをどう別の人間として見てもらえるかは試行錯誤しました。どうしても「『ベビわる』製作陣が送る……」と謳われる作品だと思うので、私だけじゃなく園村監督やプロデューサーも「ベビわる」とどう差別化するかということは常に意識して話し合いながら進めていきました。
——まったく新しい主人公像だと感じましたが、皆さんの努力の賜物だったんですね。親近感のあるふみかというキャラクターには髙石さんも共感する部分があったのでは?
髙石:共感というより、格好良いなと思う部分が多かったです。襲われることや暴力に対する恐怖がある中で、一歩踏み出していくって相当な覚悟や勇気が必要じゃないですか。それを持っているふみかは自分とは違うし、だからこそすごく格好良くて魅力的な人物だと感じました。
芝居での「聞く力」
——ふみかと(取り憑いた)工藤というまったく違うキャラクターを自分の中につくり、一つのシーンで切り替えて演じるのは相当大変だったかと思います。
髙石:今までだと相手の台詞を聞いて、それを受けて演じるキャラクターはどう感じ、何をするかというやりとりを通して演技やシーンの流れを組み立てていたんです。お芝居では相手の台詞を「聞く力」ってすごく大切だと思っているので。でも今回は対相手のお芝居を自分一人でやらないといけない。例えばふみかと工藤が会話するシーンでは切り替える時間がほんの一瞬しかありませんが、ふみかが喋った後にふみかとしての余韻を持たせすぎると会話っぽさがなくなってしまいます。だからその切り替えと二つの役の見せ方は自分なりにかなり繊細に組み立てていきました。それがこの作品の肝になると思ったので。
——お芝居において「聞く力」が大事だというのはよく聞きますね。
髙石:話をすると相手がどういう気持ちで何を考えているのかってなんとなく感じとれますし、それを受けてこちらもお話ししますよね。お芝居においてもきちんと相手の話を聞いて、そこから生まれた感情を出すことは大切だなと思います。今回はその「聞く力」を自分の台詞に対して使いましたが。
アクションシーンの見どころ
——今まではアクション監督として関わってきた園村さんがメガホンをとる姿を見て、新たに発見したり驚いた面はありましたか?
髙石:むしろあまり変わらないことに驚きました。アクション監督としての園村さんには常に優しさがベースにありましたが、監督として接した今回もその点ではまったく同じで。でも監督のチャーミングな部分は今回一層知れたかなと思います。
——演技のスイッチだけでなくアクションもこなしていて本当にお見事でした。演技面では監督からどのようなディレクションがあったんですか?
髙石:杉本ちさとと明確に差別化したいということで、本読みの段階から喋り方のトーンやテンポなど何度も何度も調整しました。でも撮影に入ってからはそのことをあまり考えず、自然にふみかという人物でいられたんじゃないかなと思います。
——大迫力かつ斬新なアクションが見所ですよね。髙石さんと三元さんがカットの度に入れ替わる格闘シーンはものすごく面白かったです。
髙石:あの入れ替わり方は園村さんの案なんです。柱とかで一瞬私の姿が見えなくなった瞬間に三元さんに変わったり。もちろん現場ではカットがかかっているんですが、映像で観たときに、こんなのどうやって思いついたんだろうって驚きました。
——ふみかの中にいる工藤が闘っているということで、男性の動きや仕草はアクションの中でも意識したのでしょうか?
髙石:三元さんのようなアクションはできるわけがないと思いつつ、少しでも寄せられるようには意識しました。とはいえ自分のアクションに精一杯で、それができていたかは分かりませんが。ちなみに闘う時の手の握り方は三元さんに教えてもらいました。
——トンネルでのローキックが素晴らしいですよね。身体の使い方が変わったことが、あのシーンだけで見事に表現されていて。
髙石:うれしい! 実は阪元さんも「あの蹴りはすごい」って褒めてくれたんですよ。ただ監督から教えてもらった通りにやっただけなので、私としては他のアクションシーンと比べてもそこまで意識はしていないんです。だから阪元さんにそのシーンが好きと言われたときも「そこなんだ!」と思いましたが、そう言ってもらえてうれしかったです。
——髙石さんが気に入っているアクションシーンはどこですか?
髙石:ふみかと工藤が激しく入れ替わりながら闘うシーンは大好きです。あとバーのシーンで連打して殴るシーンも楽しかったです。台本には何発殴るとかじゃなくただ“連打”って書かれていたので好き勝手やらせてもらいました(笑)。
——アクション撮影時のケア体制はいかがでしたか?
髙石:もともとアクション監督ということもあり、園村さんは常に身体的・精神的なケアをしてくれましたし、俳優陣ともしっかりコミュニケーションを取られていてとても安心できる現場でした。どうしても撮影中は体力も使うし大変でしたが、いろいろと監督にサポートしていただき本当にありがたかったです。
初の単独主演映画への想い
——「ベビわる」では敵として登場した三元さんが相棒になるのが面白いですよね。改めて三元さんと共演されていかがでしたか?
髙石:とにかくすごく優しい方なんです。工藤には渋さや深みと同時に純粋さや優しさ、かわいらしさもありますが、それは三元さんが本来持っているもの。役にそれが滲み出ているからこそ、私は工藤というキャラクターが好きなんです。私が工藤を演じるシーンでは、既に自分のシーンを終えた三元さんが自主的に現場に残って工藤の台詞を再現してくれたり、撮影期間中は三元さんの真っ直ぐで優しい部分にすごく救われました。
——今回が初の単独主演映画だというのは意外でした。これまでと感じ方の違いはありましたか?
髙石:撮影期間中は誰が何かを背負うでもなく、全員がまっすぐ熱量をかけてつくり上げたので特に意識はしていませんでした。ただ試写を観る2、3日前から急に“主演”という言葉の重みに怖くなりまして……。これまでプレッシャーという言葉にそれほどピンときていなかったんですが、今回少し分かった気がしました。ただ試写を観たらそんなことどうでもよくなるくらい面白くって「なんだこの作品は」と思いながらずっと笑ってました。自分が「この作品は面白い」って思えることが何よりうれしかったですし、観た後に監督が放った「すごく自信があります」って言葉にもすごく救われました。だから今は早く皆さんにお届けしたいなと思っています。
——そんな自信作ですが、改めて髙石さんの思うおすすめポイントを教えてもらえますか?
髙石:ふみかが感じる日々のモヤモヤや鬱憤って、きっと共感できる部分がたくさんあると思うんです。だからふみかと自分と重ねて観ることで、嫌なことをたくさん発散できる作品になったんじゃないかなと。ぜひ気軽に映画館へ足を運んでいただけるとうれしいです!
俳優としての成長
——映画「遺書、公開。」にドラマ「三上先生」、「アポロの歌」と最近だけでも話題作に次々出演され、2025年ネクストブレイクランキングの女性俳優部門で第一位を獲得するなど大活躍中ですが、ここ1年間で仕事の環境は大きく変わったのでは?
髙石:去年は本当に濃密な1年で、撮った作品を挙げるだけで色が濃すぎてチカチカしそうなぐらいです。そういう作品に出会えたことはすごくありがたいと思いますし、どの作品からもいろんなことを学んで吸収させてもらいました。そこから少しずつ俳優としても広がっている感じが自分の中であるので、今後また新たな作品で広げていって……という感じにもっと貪欲にいろんな役をやってみたいと思います。
——いろんな作品に参加する中で、日々複数の役を演じ分けているのは本当にすごいですよね。役に入って、また別の現場では違う役をしてという切り替えは大変なように思えるんですが、そこはどのように気持ちを切り替えているんでしょうか?
髙石:とにかくカットがかかったらちゃんと自分に戻ってくるということはすごく意識しています。自分の中に役を残さないというか、ちゃんと自分と役の間に距離を置く。もちろんあまり遠すぎるのもよくないので、演じている間以外は適度な距離を保つようにしています。そういうオフになる時間があるからこそ、スタートの合図がかかったときには大きなバネになってより高いところへ行ける気がするんです。撮影時間以外しっかりオフにすれば、毎回気持ちを切り替えられますし。
——髙石さんはインタビューで常々「お芝居が大好き」と仰られていますよね。それが演技にも表れていてすごく素敵だなと感じていますが、その気持ちは大忙しな今も変わらずですか?
髙石:この間は「アポロの歌」の二宮健監督に、「前より一層演技が好きになっているよね」って言われたんです。自分ではそういう実感はなくただずっと好きだったつもりでいたんですが、他の人からそう見えているのがすごくうれしかったです。
——きっと現場ではすごく楽しそうにお芝居をやっているんでしょうね。お芝居のどういった部分にそれほど惹かれるんでしょうか?
髙石:説明できない何かには絶対惹かれていて…。私がお芝居をしていて特にワクワクするのが、感覚的に相手の役者さんと目が合う瞬間。それはただ単に目と目を合わせるだけじゃなく、この人は「聞く力」で私の台詞を聞いてくれているな、私のお芝居が伝わっているなというのが目でわかるんです。それが相手と互いにできている瞬間はすごく楽しいです。
——昨年には連続テレビ小説「ばけばけ」のヒロインに抜擢という大ニュースもありましたが、周りからの反響もすごかったのでは?
髙石:想像の何百倍、何千倍も大きかったです。「こんなにか」と驚きっぱなしでしたし、これから何が起こるかも未知数なのでワクワクしています。
——朝ドラのヒロインが子どもの頃からの夢だったとも語っていましたよね。朝ドラにどのような印象を持たれていたんですか?
髙石:主人公が夢に向かって進むなかで、いろんな苦悩や挫折があって。でもその苦悩や挫折も前向きに捉えて進んでくれるから、観ている私たちもつらいことや苦しいことをポジティブに変えていけるんだって思わせてくれる。そんな作品が多い印象です。だからこそ、その一員になれることがすごく嬉しいです。
——ここ最近だけでもいろんな方と共演されていますが、中でも刺激を受けた方はいましたか?
髙石:映画「夏の砂の上」(7月公開予定)で共演した松たか子さんです。先ほどお話した目のやり取りをしたときにビリビリ感じるものがあって。なんていうか……目があった瞬間、「お芝居を受け取っているよ!」という感覚がダイレクトに伝わってきたんです。とても優しい方でしたし、本当にお芝居がすごすぎて驚きました。とにかく最高でした!
——では最後に、今後トライしてみたい役や演技があれば教えてください。
髙石:私は人間味がある役がすごく好きなんです。不器用だったり、他の人からよく思われてなくても、そこで必死にもがいているキャラクターに惹かれるといいますか。だから今後は、広義的な意味でどこか欠けている役柄に挑戦してみたいなと思っています。
PHOTOS:YUKI KAWASHIMA
STYLING:KENSHI KANEDA
HAIR&MAKEUP:AYA SUMIMOTO
映画「ゴーストキラー」
■「ゴーストキラー」
4月11日公開
出演:髙石あかり
黒羽麻璃/三元雅芸
監督・アクション監督:園村健介
脚本:阪元裕吾
2024年製作/日本
配給:ライツキューブ
©2024「ゴーストキラー」製作委員会
https://ghost-killer.com