ファッション
特集 ミラノ・コレクション2025年春夏

人工知能に負けない「トッズ」に勇気をもらい、「グッチ」のパパラッチ撮影に向かう

2025年春夏のウィメンズ・コレクションも、ニューヨーク、ロンドンが終わり、いよいよミラノ。朝9時から夜9時、時には夜10時まで、2人で最大1日20件の取材をしながら、合間合間で原稿を送り合い、コレクション取材のドタバタを日記でお送りします。DAY4はストライキの影響で、トラムや地下鉄が全面ストップ。大渋滞の悪条件下でも、くじけず取材に向かいます。

「トッズ」は、AIラーニングと一線
ノウハウを蓄積した職人にオマージュ

木村和花「WWDJAPAN」記者(以下、木村):「トッズ」はマッテオ・タンブリーニ(Matteo Tamburini)クリエティブ・ディレクターの2シーズン目ですね。会場には60人の職人がずらりと並び、アイコンシューズ “ゴンミーニ“を製作していました。前回も同じ職人によるプレゼンテーションの演出があったと記憶していますが、「トッズ」=職人技を来場者に印象付けようとしているのでしょうか。ランウエイには、手綱のようなものを握った巨大な手の彫刻を設えました。ここでもタンブリーニ=クリエイティブ・ディレクターは、手仕事に目を向けていることがわかります。

序盤は洗練されたリラックスパンツにフラットサンダルのルック。タンブリーニ=クリエイティブ・ディレクターは肌の露出ではなく、カジュアルかつ軽い生地使いでリゾート感を演出します。時折りフィールドジャケットなどのミリタリーの要素を取り入れながらも、ミニマルな雰囲気にまとめ上げました。

後半は、レザーのクラフツマンシップを披露。レザーで作るコート類はしなやかなドレープを描きます。これらのコートは、前シーズンも登場しましまよね?「グッチ」のサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)同様、「大事なことは、繰り返し伝える」系ですね。

村上要「WWDJAPAN」編集長:テーマは、「職人知能」。もちろん「人工知能(AI)」に対して、手作業の温もりと、AIラーニングとは全く異なる蓄積を続けてきた職人のノウハウを称えるコレクションです。今季のミラノは、デジタル時代に対して、もう一回立ち止まって、対峙することを説くブランドが多いですね。

だからこそ、マッテオは自身のデザイン性よりむしろ、素材と、そこから洋服やバッグ&シューズを生み出す職人技に比重を置き、結果「トッズ」らしいクワイエット・ラグジュアリーに辿り着きました。ハリのあるコットンのプルオーバーシャツ、レザーで作るアノラック、ハリコシとシャリ感のある素材で作ったハイウエストのジャケットなどは、いずれもデザインは控えめですが、ゆえに素材の特性を生かしているように見えました。きっと、着る人の日常着として大活躍することでしょう。そして、蓄積してきたノウハウがいかんなく発揮されているから、賢そうに見えます(笑)。これ、すっごく重要です。このあたりも「職人知能」、英語では「アーティザナル・インテリジェンス」と銘打った理由でしょうか?

バッグでは、「トッズ」からもホーボーが出ましたね。最近、新作として見る機会が増えました。アイウエアケースもカワイかったな。

マックスマーラ(MAX MARA)」や「トッズ」は過去、周りのブランドやトレンドに踊らされて右往左往した時期がありましたが、しっかり自分達の立ち位置を確立したようですね。

その後の「ヴァレクストラ(VALEXTRA)」も、今季は職人の手仕事にフォーカスしていましたね。植物タンニンを用いた手なめしのバッグは、鉱物タンニングよりも柔らかな風合いが魅力。2度染めのクロコダイルバッグは、ゆえに模様がハッキリと描かれ、ラグジュアリー感満載です。

新作は「ヴァレクストラ」らしい、プロダクトデザイン的アプローチのホーボーバッグ。曲線と直線がうまく同居しており、トレンディながら独自性のある一品に仕上がりました。

ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」は、Y2K時代に思いを馳せ、遊び心あるフレッシュなコレクションを発表しました。アクアやブルーはパールのように冷たくも甘く輝き、クールなシルバーを組み合わせると、気分は2000年ごろのフューチャリスティックです。大ぶりのスパンコールやリボンのディテールを加え、レトロガーリーならぬフューチャーガーリーなムードに仕上げました。どうしてもグラマラスなイメージが強いけれど、「ジミー チュウ」のガーリーも悪くないですね。

スポーツマックス(SPORTMAX)」の詳細は上の記事に任せますが、トレンド感満載の「スポーツマックス」が戻ってきて、編集・記者としては非常にありがたいです(笑)。「2025年春夏のトレンドは?」と聞かれたら、「とりあえず、『スポマ』のショーをみてください」って返しちゃいそう。ピュアホワイトのカラーパレット、オーガンジーを使ったレイヤード、フリンジのようなビーズワーク、変形サファリジャケット、オーガンジーのようなハイゲージのリブニット、パステルカラーに染めたオーガンジーをレイヤードして楽しむ色のグラデーション、酷暑対策のようなシンプルなブラックドレス……。全部がトレンド。11月に発売するトレンドブックの参考にしたいと思います!

どんどん参りましょう。「ジャンニ キアリーニ(GIANNI CHIARINI)」は、アンダー10万円の手頃なバッグが主流ですが、レザーとラフィアを組み合わせたり、スエードを幾何学模様でパンチングしたり、異なる色のステッチワークを加えたり、フィルクッペのようなファブリックを採用したりと創意工夫に富んでいましたね。定番の型を、素材の工夫でアップデートしています。

ジャンヴィト ロッシ(GIANVITO ROSSI)」は、笑っちゃうくらいカラフルなジャングルの世界でしたね。

木村:草木の生い茂った展示会場内では、アッパーに蝶々が止まったようなミュールや、ライオンの立髪をイメージしたオープントゥーサンダル、虎柄のパンプスやバッグなどなどが葉っぱに隠れてディスプレイされていて楽しい展示でした。夏らしいビタミンカラーはファッションでもトレンドですが、ジャングルの生き物たちが大集合の「ジャンヴィト ロッシ」で足元から取り入れるのもありですね。デザイナーのジャンヴィト・ロッシさんにも、コメントいただきました。

木村:続いて向かった「MCM」の展示会でも、海の生き物たちが大集合でした。シーズンテーマは「アンダー・ザ・シー」。アイコンのヴィセトス柄と珊瑚礁のイラストを組み合わせたり、漁網をイメージしたというレザーカットのショルダーバッグなどが登場。ヒトデやタツノオトシゴ、海亀などのキャッチーなチャームも目を引きました。今回アクセサリーブランドでは、チャームの提案が豊富ですね。われわれは見逃してしまいましたが、ドゥオーモ大聖堂でK-POOPダンサーも交えたフラッシュモブのパフォーマンスもあったようです。

村上:一言で言えば、「若いな」って感じ。極彩色だったり、ストリートなスタイルだったり、どの世代に向けてアプローチしているのか?がよくわかります。ただ、欲を言えば2010年代のラグジュアリー・ストリートからは少しアップデートして欲しいかな。バッグは、正直少し硬さ、カクカクしたカンジが気になります。もっと柔らかい風合いとか、曲線的なシルエットを取り入れると、大人にも支持が広がりそうです。

ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」は、涼しげなリネンにフォーカス。カシミヤと混紡すれば柔らかく、反対にマニラ麻と混紡すればパリッとして表情豊か。シルクとも混紡したり、強く撚ったり、時にはリネンの花(初めて見た!)をプリントしたり。さすがは素材発のブランドだけあって、技術はもちろん、マテリアルへの愛が半端じゃありません(笑)。提案するのは、ベージュやグレー、オフホワイトなど、1トーンのスタイル。ただハイウエストな7分丈パンツや、ノーカラーやスタンドカラーのジャケットは少し難易度が高いし、民族衣装感が強かったかな。特徴ある帽子が、民族衣装感を強めてしまった気もします。

一方、日本でつくっているサングラスが素敵なこと。15万円ほどと決して安くないけれど、クールな見た目と、明らかに他とはクオリティが違う面構えです。競合であろう「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」含めて、バッグやシューズ、サングラス、スカーフなど、 アクセサリーの開発が進んでいます。

ファンの罵声(!?にも負ケズ
屈強なガードマンにも負ケズ

さて「グッチ(GUCCI)」のレビューは上の記事を読んでいただくとして、ここでは私のパパラッチトークをさせていただきましょう。「グッチ」のショーに来場したセレブは、兵役からカムバックしたばかりのBTSジン、グループの行方にも注目が集まるNewJeansのハニ、そしてタイの俳優ガルフ(Gulf)ら。K-POPアイドルが来場するブランドのショー会場は正直“修羅場“と化すので、ジンとハニが来場する「グッチ」はまさに修羅場中の修羅場と言えるでしょう(笑)。SNS担当からは、「2人が揃って来場する瞬間が撮れたら、最高です!」という期待の声(半分指令w)。「いや、それは奇跡ではないか?」と、考えながらの会場入りです。

パパラッチは、セレブの来場動線を見極めながら、どこから撮り始めれば一番多くのチャンスに恵まれるのか?を考えるのが大事です。その上で今回、私はショー会場に到着すると自分の座席を確認してから、一旦退場。入り口でジンとハニの到着を待ちました。

幸い狙いは的中し、おそらく入り待ち・出待ちのファンからは、「アンタのせいで見えないわよ!」という罵声を10回くらい浴びた気がしますが(笑)、無事に撮影成功。ジンの席でスタンバイしていたメディアは、屈強なガードマンの返り討ちにあったそうです(笑)。

とまぁ、我々もショー取材の合間にそれなりに苦労して撮影しておりますので、ファンの皆様は何卒温かい目で見守っていただけると幸いです。そして、ちゃんとファッションショーも楽しんでね!

という修羅場を終えた後は、「プラダ(PRADA)」の展示会に伺い、夕方は日本版が誕生した「10マガジン(10 MAGAZINE)」のパーティーに。先ほどまで「グッチ」でご一緒だった、増田さをり編集長に「おめでとう!」をしてきました。増田さんのインタビューは、「WWDJAPAN.com」で近日公開予定です。お楽しみに!

さらにミラノのセレクトショップのアントニオーリ(ANTONIOLI)が、買収している「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」のインショップをオープンしたパーティにも伺い、フィナーレは「ヴェルサーチェ(VERSACE)」。

イメージは、「ヴェルサーチェ」がガーリーをやったら……⁉︎でしょうか?キーモチーフの1つは、ドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)のお気に入りという野生のバラ。淡いパステルイエローやブルーのバラが、ブラウンのシルクやコットンの上に咲き乱れ、加えてパステルカラーのジグザグニットと組み合わさります。ポピーの花も咲き乱れていましたね。

でも、スタイルはイケイケドンドンの「ヴェルサーチェ」。基本は、ボタンを1個しか閉じないからVゾーンもおへそも見えるカーディガンに、肌をなぞるシルクのひざ丈スカート。メンズ・ウィメンズともに開襟シャツでバカンス感は高めです。パワーで押し切るというより、無駄のない布づかいで開放感を高める感じかな。

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「WWDJAPAN」10月7日号は、2025年春夏ミラノ・ファッション・ウイークを総括します。今季はデザイナーらが考える「生き方」が表出したシーズンでした。個々が抱える生きづらさを出発点に、批判の目を持って疑問を呈したり、ポジティブに現実を受け止め軽やかに生きるための術を提案したりといった表現が目立ちました。

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