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「RMK」や「スリー」の立役者、石橋寧が化粧品業界に提言  Vol.2「なぜメイクアップカテゴリーを軽んじる?」

PROFILE: 石橋寧/マーケティングアドバイザー

石橋寧/マーケティングアドバイザー
PROFILE: エキップにて1997年に「RMK」、2003年に「スック(SUQQU)」、08年に設立したACROでは「スリー」「アンプリチュード」「イトリン」を立ち上げ。24年3月に退任し、独立 PHOTO:KOUTAROU WASHIZAKI

――:第1回では「日本のコスメの存在感がなくなっている」という話を伺いましたが、実際“ワクワクするものがない”という声をあちこちから聞きます。

石橋寧(以下、石橋):日本の化粧品会社のトップはだいたい男性ですよね。男性だからダメということではないけれど「化粧品」という視点が欠けていると思うんです。メーカーにとっては所詮“商品”。“商いをする品”だから、いかに安くいいものを作るかということに注力している。一方、消費者にとっては“化粧品”、つまり“化けて装う品”を買いに行く。そこが分かっていないと思うんです。“優秀なマーケッター”と言われていても、基本的に化粧のことが分からない。それで女性陣に任せたりする。それはもちろんそれでいいんだけど、女性も役職が上がっていくと次第に男性化、“女心を置き去りにした女性”と化し、女心を問うのではなく、原価率や採算軸で思考する。そうして日本のメーカーはみんなスキンケアにシフトしている。

――:リピート確実なスキンケアで収益の安定性の確保を最優先しているということですね。かつてさまざまなメイクアップクリエイターと契約していた資生堂がそのほとんどを終わらせているのが残念です。

石橋:魚谷さん(資生堂グループ会長CEOの魚谷雅彦)は「世界最大のスキンケアメーカーを目指す」とスキンケアにシフト、ポーラはメイクアップの研究所や工場をほとんどなくしてスキンケアに注力、花王も「コフレドール(COFFRET D’OR)」と「オーブ(AUBE)」を年内で終了させる。いったい何を考えてるの?って思う。「化粧品」は「ケアするスキンケア」と「飾るメイクアップ」の両方があってこそ。ところが日本のメーカーは、ケアするほうにだけ力を入れている。ホワイトニングやエイジングケアにおいては、確かに素晴らしい商品はいっぱいあると思うけど、そもそも「化けて装う」ために買うわけだから、両方そろっていなければいけない。メイクアップは今や「ディオール(DIOR)」の独壇場。「どうぞ、どんどん売ってください」といって日本は何も手を打っていないように見えますね。

――:「ディオール」はルージュでさえグローバルリサーチをした上でメイクアップ クリエイティブ&イメージ ディレクターを務めるピーター・フィリップス(Peter Philips)がシェードを設計しているので、ローカルで強さを発揮しているのは納得がいきます。

石橋:6〜7年前ごろ、「スリー(THREE)」が成長していく過程でタイ限定カラーを作ったんです。タイ国内で17店舗程まで拡大し、限定カラーを作ってもなんとかいけると判断し、タイの代理店に提案したらすごく喜ばれた。なぜならそんなことをするブランドが他になかったから。そしてタイ側と相談しながら買取を条件に作って販売したら大ヒットし、翌年も作って欲しいとの依頼もあった。本来ならばそれを続ければよかったんですが、僕はその頃「アンプリチュード(AMPLITUDE)」と「イトリン(ITRIM)」を作ることに集中していて、引き継ぎがなされなかった。これも、日本企業特有の採算ベースの考え方ですね。インドやASEANはモンスーン地帯、早い話が日本同様年中ほとんど蒸し暑い。でも肌色が違うからファンデーションのシェードも変わってくる。ファンデーションの色が変われば、そこにのせる口紅やアイシャドウの色も変わる。メード・イン・ジャパンの高いクオリティーで、それぞれの国の肌色や嗜好に合ったものを提案すれば、絶対に売れると思う。それをせずに「グローバル」なんて目指さないほうがいい。日本の商品を輸出するだけで売れていたのは10年、20年前の話で、時代は変わってきている。でもそれに対応しきれていない企業が多いんですよね。

――:グローバル視点で考えれば、メイクアップが勝機になり得る。

石橋:中国のマーケットは大きいけれど、政治が絡むと方針がいきなり変わるからリスクが高い。一方インドは人口14億人の民主主義国家。これからはインドとASEANのマーケットを同じアジア人として狙うべきだと思う。インドの人に会ったら「メード・イン・ジャパンそのものがブランドで高く評価されている。あとはインド人に合うように色やパッケージをローカライズさせたら売れますよ」と言われました。インドネシアは日本と嗜好が似ている。シンガポールや香港は人口が少ないので厳しいけれど、タイは約7000万人、ベトナムは約1億人、フィリピンも約1億人、それくらいの需要はある。国は間違いなく成長しているし、若い人も多い。各国のニーズに合わせた商品を出していけば、存在感を出していけるはずだと思います。

――: そういう意味では今、「ケイト(KATE)」が頑張っています。

石橋:メイクアップは飾るものだから、クオリティー以上にパッケージも含めて高揚させる気持ちの部分が大事。口紅なら人によっては10色も20色も持っているわけだから、感性という部分がすごく大事になってくる。それが今の日本のメーカーには欠如していますね。花王が力を入れている「ケイト」は低価格でクオリティーもいいし、元々売れていたところに“リップモンスター”で火がついた。確かにアジアで今一番売れている日本のメイクアップブランドだから、それを強化するのはアリだと思う。でも1000円2000円の商品だから、将来をどうしていくのか、そこが鍵でしょう。根強い人気の韓国は、製造に約4カ月という短期でトレンドに対応している。でもスピード感がある反面、特に容器の粗悪品も多く、そこがまだまだ不十分。中国ではスキンケアにおいてはローカルブランドが出てきていますが、これというメイクアップブランドがまだなく、中国の代理店に香港で会った時に「メイクを強化してほしい」と言われました。アジアのマーケットは約65%がスキンケアで、メイクアップのウエイトは低い。ところがこれが国の成長とともに上がっている。だからメイクアップはチャンスだと思うわけです。

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