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「フェンディ」が作る“貴重な実用品”に「アルマーニ」が描く想像の旅、「スキャパレリ」のロボットドレス【2024年春夏オートクチュールまとめ】

2024年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークが、1月22〜25日に開催された。細やかな手仕事やぜいたくな素材を生かすクチュールデザイナーたちのクリエイションは、今季も十人十色。ファンタジーやアートを強く感じる作品から着る人に寄り添うコレクションまでが出そろった。

FENDI

キム・ジョーンズ(Kim Jones)は、自身が手掛けるオートクチュールが、これみよがしに華美な“コスチューム”ではなく、実際に着用する人に寄り添い、控えめで着やすいでものであることを大切にしている。それは、さまざまな職人の手仕事を結集して生み出される“プレシャス(希少価値の高い)な実用品”という考えだ。「構造と装飾」をテーマに掲げた今季は、“スカトラ” (イタリア語で「箱」の意)シルエットのベアトップドレスや流れるようなシルエットのアシンメトリードレスをはじめ、縦のラインを強調したワントーンルックを軸にミニマルなエレガンスを表現した。ボディーラインに沿うシャープなテーラリングにはスーパーキッドモヘアやクロコダイルを、“縛り”からヒントを得たノット(結び目)のハーネスでアクセントを加えたリブニットドレスにはカシミヤとビクーニャの糸を使うなど、シンプルなラインをぜいたくな素材が引き立てる。

そして、「カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が抱いていた『フェンディ』のフューチャリズム(未来主義)について考えた」とジョーンズが語るように、一見ミニマルなシルエットに加えたのは、未来的なムードを醸し出すシルバーを中心としたメタリックな装飾。その手法は、テグスのようなしなやかな繊維を使って無数のスパンコールやビーズを立体的にあしらったり、星のようにきらめくクリスタルをちりばめたり、竹ビーズを全面に縫い付けたり。ふさふさのファーのように見えるコートやロングドレスはフリンジで表現したもので、モデルの動くに合わせて鈍い光を放つ。

また、“プレシャスな実用品”という考えは、バッグやファインジュエリーにも反映されている。ジュエリーのアーティスティック・ディレクターを務めるデルフィナ ・デレトレズ ・フェンディ(Delfina Delettrez Fendi)は、有機的なフォームのリングやイヤーカフに加え、スキャンによって着用者に合わせたサイズで作られた近未来的なアイウエア“シンギュラー ビジョン”を制作。18Kホワイトゴールドとホワイトダイヤモンドを用いた同アイテムは、サングラスや眼鏡という実用品にもなれば、ジュエリーという装飾品にもなる。一方、アクセサリーを監修するシルヴィア・フェンディ(Silvia Venturini Fendi)は、アイコンバッグの“バゲット”をオートクチュールに合わせて再解釈。クロコダイルやミンクを使用したタイプやウエアと呼応する繊細な装飾を施したデザインから、ファインジュエリー同様のゴールドやダイヤモンドで仕上げたバックルが輝くスーパーラグジュアリーなモデルまでを提案する。

GIORGIO ARMANI PRIVE

今季のクリエイションの背景にあるのは、「ファッションとは、真剣に向き合うべきものだけではなく、遊び心や曖昧さを表現するもの。特にオートクチュールはデザイナーが予期せぬクリエイティビティーを発揮できる世界」だということ。常に世界のさまざまな文化から着想を得てきたジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)は、想像の旅からイメージをふくらませ、全92ルックを通して多様な女性たちの姿を描いた。

淡いピンクやグリーンから鮮やかなフューシャやロイヤルブルー、落ち着いたベージュ、黒、ミッドナイトブルーまでで彩られたコレクションは、軽やかさときらめきという「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」らしい要素を持ちながらも、いつもよりも自由で幅広いスタイルをラインアップ。特に今季は繊細な刺しゅうをのせたレース使いが目を引く。ドレスはボディーラインをなぞるスレンダーなデザインから、腰下をフレアやバルーンシルエットで仕上げたビスチエスタイル、マーメイドライン、リラックス感のあるマキシドレスまで多彩。ジャケットはコンパクトなシルエットやスリムなロング丈で作り、前にスカートパーツをドッキングしたようなシアーパンツやアンクル丈のテーパードパンツを合わせる。そこに着物風のローブやさまざまなスタイルで表現した花、ヤシの木やペイズリーのモチーフで、東洋から西洋まで異なる文化のムードを取り入れている。

SCHIAPARELLI

「スキャパレイリアン(SCHIAPARALIEN)」という「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」と「エイリアン(ALIEN)」の造語をタイトルに掲げ、SF映画のように異世界的なコレクションを見せた。ダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)が着目したのは、意外なものを組み合わせることで独自のデザインを確立してきた創業者エルザ・スキャパレリ(Elsa Schiaparelli)のアプローチ。その伝統に敬意を表し、昔から受け継がれる技術や素材と、斬新なフォームやパターン、インスピレーションを組み合わせた。例えば、ギュピールレースのドレスは、有機的なラインを描くメタルフレームを前身頃に用いることで、大胆なシルエットを表現。創業者とサルバドール・ダリ(Salvador Dali)が1936年に手掛けた象徴的な“スケルトンドレス”からヒントを得たドレスは、全体を細いシェニール糸のフリンジで仕上げている。また、ジャケットやパンツにいくつもあしらわれたベルト&バックルのディテールやカウボーイブーツ、ビーズ刺しゅうで描くバンダナは、ローズベリーの故郷であるアメリカ・テキサスのカウボーイから着想を得たもの。パソコンの基板や昔の携帯電話、電卓をクリスタルと組み合わせて作ったロボットのようなドレスや赤ん坊の人形は、SNSでも話題を集めた。

VIKTOR & ROLF

ユーモアあふれるクリエイションとショー演出で知られる「ヴィクター&ロルフ」のテーマは、“シザーハンズ”。ハサミを動かす音とリズミカルなビートが交じり合う中、シルエットを際立たせる黒を基調にしたコンセプチュアルなコレクションを見せた。ショーは4ルックが1組になった7つのグループで構成されており、それぞれの最初には丁寧に仕立てられたオペラコートやドレス、スーツが登場。2ルック目からはそれを切り裂いたり、部分的に切り取ったりしたようなデザインで、新たなアイテムに変わるさまを描いていく。例えば、スパンコールをびっしりとあしらったガウンは、左半分を切り取って中のビスチエドレスをあらわにしたり、スカート部分を切り取ってケープに作り変えたり。そんなアプローチには、「全ては常に流動的であり、完成されたように見えるものが新たなものへの出発点になる」というメッセージが込められている。

ROBERT WUN

香港出身でロンドンを拠点に活動している新世代クチュリエの一人、ロバート・ウン(Robert Wun)はダークでストーリー性あるクリエイションが持ち味。ブランド設立10周年を迎える今季は、自身の好きなホラー映画などから着想を得た。ガラス片を縫い付けたコートは、映画「マトリックス リローデッド(The Matrix Reloaded)」の1シーンを再現したもの。また、ドレスを着たモデルの背後からマネキンがまとわりつくルックは、アーヴィング・ペン(Irving Penn)が1949年に撮影した写真「マーガレット(Marguerites)」がインスピレーションになっているという。また、1年前に初めてパリで行ったショーでも見られた雨粒のようなクリスタルやシミのようなペイント、タバコで焦がして開けたような穴、ドラマチックなラッフルやプリーツ使いなどの象徴的なデザインは今季も健在。血しぶきを浴びたように真っ赤なビーズとクリスタルを飾ったウエディングドレスのようにショッキングな表現もあるが、丁寧に仕立てられたドレスには恐怖と美しさが同居する。

YUIMA NAKAZATO

「泡沫(うたかた)」と題した今季のコレクションは、中里唯馬が衣装を手掛けたオペラ「イドメネオ(IDOMENEO)」(2月21日からスイス・ジュネーブで公演予定)と連動。同作の舞台となったギリシャ・クレタ島で見た景色やトロイア戦争などの歴史を出発点に、戦いのための衣服の変遷を考察した。そこから導き出したのは、機能性や耐久性を軸にしたミリタリーウエアやワークウエアと、ドレープをたっぷり寄せたシルクなどの柔らかな素材やメタリックカラーのパーツを用いた装飾の融合。もろく儚い甲冑を作り上げた。ショーの演出は、「イドメネオ」の騒動演出を務めるベルギー人振付家のシディ・ラルビ・シェルカウイ(Sidi Larbi Cherkaoui)と中里の協創によるもの。ラストには、アントワープ在住のミュージシャン堀つばさによる童謡「赤とんぼ」の生演奏の中、純白のルックをまとったダンサーが血のように赤い液に服を染めながら踊る。それは儀式的で、祈りの舞のようにも感じられた。

GIAMBATTISTA VALLI

「ジャンバティスタ ヴァリ」は、今季もファンタジーにあふれている。「装飾が施されたプレタポルテのように見えるショーもあるが、私はオートクチュールらしいオートクチュールが好きだ」とヴァリが語るように、ポイントになるのは、チュールやタフタで作るボリュームのあるシルエットとクリスタルやフェザー、立体的な花の装飾。コンパクトなミニドレスやスリムなガウンに、たっぷりとしたバルーンスリーブや大きなリボン、トレーン、ロングケープを合わせることでコントラストを描いている。また、水彩画のようなフラワープリントをのせたタフタのガウンやスカートの大胆なシルエットも目を引く。

TAMARA RALPH

「タマラ ラルフ」は、以前マイケル・ルッソ(Michael Russo)と2人で「ラルフ&ルッソ(RALPH & RUSSO)」を手掛けていたクチュールデザイナーのタマラ・ラルフ(Tamara Ralph)が2022年立ち上げたブランド。「大胆な女性らしさと妥協のない強さ」をビジョンに掲げ、先シーズンからオフスケジュールでコレクションを発表している。今季のテーマは「時間」。腕時計のベルトのようなディテールやメタリックカラーに加え、バラの立体モチーフやたっぷりのフェザー、ケージのようなコルセットがフェミニンなガウンを飾り、スーツのツイード生地には細いチェーンを織り込んできらめきを加える。「オーデマ ピゲ(AUDEMARS PIGUET)」とのコラボレーションによる高級腕時計も披露した。

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