ビューティ
連載 齋藤薫のビューティ業界へのオピニオン

美容ジャーナリスト齋藤薫のビューティ業界へのオピニオン この世を去った、美容界の天才たちの主張を私たちは忘れてはいけない

「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へのオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事は「WWDJAPAN」2023年10月23日号からの抜粋です)

齋藤薫/美容ジャーナリスト

齋藤薫(さいとう・かおる):女性誌編集者を経て独立。女性誌を中心に多数のエッセー連載を持つほか、美容記事の企画や化粧品の開発、アドバイザーなど広く活躍する

美容界はかつて、2人の重要なカリスマを失った。佐伯チズさんと、田中宥久子さん……。2人とも奇跡的な遅咲きで、大ブレークをするのは60代、女性のエンパワーメントの概念を塗り替えたほどの、伝説の人たちである。くしくも同じ2003年に、“メジャーデビュー”とも言うべき転身を遂げて、それぞれが長いキャリアから積み重ねてきた全く独自の美容理論を発表し、それぞれに一時代を築いている。改めて説明するまでもないが、佐伯チズさんは「顔を洗うのをやめなさい」と言い、たった3分間の、コットンでのローションマスクを“時の常識”にした。田中宥久子さんはそれまでの常識とは真逆の力強いマッサージで顔を一回り小さくする「顔筋マッサージ」を大流行させ、当時の大物政治家の間でもひそかに共有されていたといううわさも。いずれにせよ、「佐伯式」「田中式」と冠した全く独創的な美容法が美容界を席巻する。

同時期に生きた2人のカリスマに共通していたのが、取材した時の果てしない面白さ。自らの長い経験からひねり出し、絞り出した、“誰も言わなかった理論”を絶対の正解として強く言い切る時、その大変な説得力と力強さに圧倒され、もう洗脳されるしかなかった。2人の成功は、自分の美容法に対する揺るがぬ自信からくる、強烈な押しの強さに起因しているのは間違いないのだ。

美容には、普遍的な正解があるようでいて、実はあまりない。誰かが自信満々にこうだと言い切れば、そうなってしまう。だから逆に言えば、そうした信念を持った強烈なカリスマが現れてこそ、美容は進化を遂げるし、人を救うのだ。チズさんが訴えたマスク法は、それこそ1000円の化粧水だって3万円の化粧水の仕上がりに匹敵する肌になるし、顔筋マッサージも、いうなれば10万円分くらいの美容医療に匹敵する効果を持っていた。しかし2人がこの世を去ってから、それらの主張は美容界において影が薄くなっている。このままだと忘れられてしまいそうなほど。紛れもなく正しかったから、またお金をかけずに美しくなるというサステナブルの精神にのっとっていたから、何とか残さなければいけないと、今改めて思うのである。

そして今年の8月にも、重要な人を失った。青山ヒフ科クリニックの亀山孝一郎医師である。やはり取材した時の面白さは強烈なものがあり、皮膚医学ってこんなにも興味深いものなのだと興奮した。ご存じのようにこの人は「ビタミンC博士」として名を成した人だったが、実際亀山ドクターからビタミンC効果の話を聞くと、まさに誰もがビタミンCのとりこになるほど、臨床経験をベースにした話は、とんでもない説得力を持っていた。ビタミンCを用いてニキビを治すというのが独自の治療法だったが、毛穴を引き締める話はもちろん、ビタミンCをうまく使えば、たるんだ肌がびっくりするほど引き上がり、うつもケアできるし、がんも防げるといった、ビタミンCの底知れない可能性を具体的な臨床体験を基に情熱的に話してくれた。だから何でも治せるという気概に満ちていた。赤髭先生のマインドを持ちつつ、失礼ながらオタク体質でビタミンC治療の可能性について熱く語る姿に魅了されたもの。だから残念でならない。まさに亀山式とも言うべき療法は必ず後世に残すべき。美容界は天才たちの遺産を、きちんと残していくべきと、今改めて強く思うのである。

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