ファッション
連載 小島健輔リポート

ユニクロ症候群の罠 「縦売り商法」と「横売り商法」を見極めよ【小島健輔リポート】

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ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。四半世紀にわたってアパレル市場をリードしてきた「ユニクロ」。運営するファーストリテイリングのビジネスモデルは同業他社にも影響を与えてきた。ユニクロのやり方をマネようとしても、本質的な部分を読み違えているケースがある。

 アパレル業界には「ユニクロ症候群」ともいうべき流行病が蔓延して久しく、量販店衣料部門の崩壊を加速させ、多くのアパレルチェーンの経営を混乱させてきた。さまざまな手法によるPB(プライベートブランド)開発は経営とマーケティングの必然だが、それが品ぞろえの魅力を損なって顧客を離反させ業績を悪化させるとしたら本末転倒も甚だしい。そんな失策が生じるのは「縦売り商法」と「横売り商法」の本質を読み違え、相矛盾した施策が足を引っ張り合ってしまうからではないか。

「ユニクロ症候群」とは

 「ユニクロ症候群」とは「ユニクロ」の異例の大成功劇に触発され、コンセプチュアルに品目を限定した(色・サイズなどSKUは広げる)開発PBによるマーチャンダイジングを志向するもので、表面的なVMDや調達手法はそれらしく仕組んでも、補給や売り切りの在庫運用スキル、サプライチェーン総体の商流や物流(当然、金流も)、店舗システムとマテハンなど運営スキル、商圏立地と出店政策が噛み合わなければ売り上げと損益が目論見に届かず、在庫も積み上がって破綻してしまう。

 衣料品の生産が急速に海外シフトしデフレが進んだ1990年代、とりわけフリースブームで「ユニクロ」がブレイクした98年以降、量販店衣料部門もアパレルチェーンも我れ先に開発PBによるSPA化を志向したが、目論見通りに成長と収益を手に入れたケースは限られる。リードタイムの長い一括調達の開発PBにシフトするより、機動的なODM調達のPBやサプライヤーが補給を分担するジョイントPBを拡充した方が在庫回転も収益性も高かったというのが実態ではないか。

 開発PB主体の「縦売り」型SPAでは店舗在庫は最大4割程度で倉庫在庫が6割を超え(商社管理の生産地在庫を含めると倉庫在庫比率はさらに高い)、FC※1.出荷のオンライン販売が拡大すると店舗在庫はさらに圧迫される。EC比率が2割を超えるとFCを含む倉庫在庫が店舗在庫を圧迫して品ぞろえが薄くなり、欠品が多発して「縦売り」が阻害されるようになる。

 店頭ではシーズンごとに在庫が回転しているように見えても、倉庫在庫を合わせた実際の在庫回転は半分ほどに落ちる(「無印良品」を運営する良品計画の単体決算と連結決算に如実に見られる)。開発PBの在庫(倉庫在庫+店舗在庫)が2〜3回転に留まるのに対し、奥行きの浅いODM調達PBや小売業側は補給在庫を抱えないジョイントPBの在庫は開発PBの何倍も回転する一方、粗利益率はそこまでの差がなく、結果、商品資本効率たる交叉比率は後者の方が高くなるケースが多い。実際、ODM調達主体だったポイント時代ピークの07年2月期の粗利益率が60.3%と60%を超え、在庫回転も13.11回と速く、交叉比率は790.5と800に迫る水準だったのに対し、開発型SPAに転じたアダストリアの23年2月期の粗利益率は54.7%と5.6ポイントも低く、在庫回転も5.00回にとどまり、交叉比率は273.5と3分の1強に甘んじている。

 値入れは開発PBの64〜72%に対してODM調達PBはそれより4〜5ポイント、ジョイントPBは20ポイント近く低いと思われるが、一括調達売り減らしの開発PBの値引きロスは補給在庫をサプライヤーが分担するジョイントPBより10ポイント以上もかさむため、着地の粗利益率の差は10ポイント未満に縮まることが多く、値引きがかさめば逆転することさえある。販管費率を粗利益率の差より低く抑えれば、開発型よりODM型やジョイント型の方が高収益になる。

 人件費やキャッシュレスコスト、家賃がかさむ昨今、仕入れ調達では販管費を吸収して利益を残すのは困難で、同質化競合を回避するにもPBによるSPA化は不可避だが、「ユニクロ症候群」に陥っては成果が得られない。成果を上げているアパレルチェーンでは開発PBとODM調達PB、ジョイントPBなど複数の調達手法を現実的に組み合わせ、売り上げと消化回転、粗利益と販管費のバランスを取って利益を確保している。

※1.TCとDCとFC…TC(トランスファーセンター)は入荷商品を棚入れすることなく自動ソーターで高速仕分けして出荷する通過方式の物流センター、DC(ディストリビューションセンター)は入荷商品を棚入れ保管してからピッキングして出荷する貯蔵方式の物流センター、FC(フルフィルメントセンター)はECなど通販のDC型出荷センター

「縦売り商法」と「横売り商法」

 「縦売り」とは在庫を積んで同一商品を大量に継続販売するもので、補給在庫を抱えて在庫回転は遅くなるが、計画通りに販売できれば大きな売り上げが稼げる。「横売り」とは奥行き浅くバラエティーをそろえて売り切っていくもので、適品をタイムリーに供給できれば高い消化回転が望める。

 「縦売り」では過剰在庫を抱えることなく欠品なく補給できること、「横売り」では死に筋を消化して売れ筋をリレー展開(売れる要素を類似商品に引き継いで広げていく)できることがポイントで、どちらも編集陳列や店間移動を売価変更で補完する在庫運用消化スキルが問われる。「縦売り」では生産工場→生産地倉庫→消費地倉庫→店舗後方→売り場の在庫移動スキルも要で、設備投資と在庫負担を伴うから商社やサプライヤーとの商流・物流一体の長期的製販同盟が不可欠だ。「横売り」ではチームMDなど素材背景を持ったサプライヤーとの機動的な連携が要だが、サプライヤーを競わせないとタイムリーな適品調達がかなわないから、長期ではなくシーズン毎に更新する連携が主流のようだ。

 SKU毎の数量が多い「縦売り」では、初期投入分は店舗タイプ別SKUパッケージの品番毎、補給分はSKU毎のパッキンあるいはオリコンで生産地倉庫から出荷し、消費地倉庫では初期投入分は棚入れせずパッキン/オリコンのまま仕分けてスルーで店舗に運ぶ。補給分はSKUパッキン/オリコンのまま棚入れ保管し、必要数量をトータルピッキングして店別に仕分け、バンドルにまとめて店舗に出荷する。店舗の品出しも後方ストックでピッキングせず、パッキン/オリコンやバンドルのままカートに乗せて指定アドレスのラックに運ぶ。

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