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“脱マスク”で化粧品市場はどう盛り上がる?【今週のビューティ展望】

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 ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、ブランド休止と“脱”マスクによる化粧品市場の話。(この記事はWWDジャパン2023年3月20日号からの抜粋です)

【賢者が選んだ注目ニュース】
「アンプリチュード」「イトリン」ブランド休止で「スリー」に課せられた課題とは
3月13日からのマスク緩和でコーセーやポーラなどがリップ主役のメイクを提案

 ポーラ・オルビスホールディングス傘下のACROが展開する「アンプリチュード」と「イトリン」が2023年度中に休止する。この2ブランドは、ACROの石橋寧ファウンダー&ブランドアドバイザーが18年に立ち上げたブランドで、デビュー時は業界からの関心も高かった。

 石橋氏はカネボウ化粧品(現:花王傘下グループ)のエキップで「RMK」(1997年誕生、以下同)「スック」(2003年)を立ち上げ、一躍人気ブランドとして成長させてきた人物だ。07年にポーラ・オルビスホールディングスに転職してからは、ACROから「スリー」(09年)を誕生させ、前述した2ブランドを含め数々のブランドの立役者としてビューティ業界で名をはせてきた。その石橋氏が生み出した2ブランドが終了するのは残念だが、石橋氏のアーティスティックな遺産ともいえる「RMK」「スック」は、花王が大切に引き継いでいるようだ。この2ブランドは、花王が化粧品事業においてグローバルに注力する11のブランド「G11」に入っており、直近では「RMK」はやや苦戦しているものの「スック」は好調だと聞く。

 ちなみに、今年の1月に花王の化粧品事業部門長とカネボウ化粧品社長に就任した前澤洋介氏は、エキップの社長を務めていた人物だ。これまでの化粧品事業のトップは、花王出身の村上由泰氏が旗を振ってきたが、前澤氏は花王による買収(06年)前から在籍しているカネボウ化粧品の出身者である。その前澤氏が部門長になるということは、花王にとってカネボウ化粧品の人的資本を大切にしているという証明になったのではないかと感じている。また、花王の長谷部佳宏社長も、前澤氏の就任に絡めて「化粧品は大政奉還した」と言っているように、化粧品事業の中核をなすカネボウ化粧品を含め、中期的に同事業の業績を拡大させていくことへの期待もかかっている。花王の体力から見てもこれから先、「RMK」や「スック」がなくなるとは考えにくく、“石橋イズム”は継承されていくだろう。もちろんACROにおいても、これまで分散してきた投資を今後は「スリー」に集中させていくので、業績回復にも期待したい。

マスク着用の緩和で
日焼け止め市場の盛り上がりに期待

 新型コロナ対策として推奨されてきたマスク着用が3月13日から「個人の判断」に委ねられた。各社とも期待する声が大きく、株価にも十分織り込まれていると考える。ビューティ業界では、今回のマスク着用の緩和を受けて、スキンケアではなくメイクアップの打ち出しが多い。とはいえ、混雑した電車内など感染リスクが高い状況では引き続きマスクの着用が推奨されていることから、しばらくは変化が見られにくいと予想する。しかし、夏場のような暑い時期になれば、マスクをしない姿が増えてくるだろう。気温が上がりそうなゴールデンウイークあたりから化粧品市場が盛り上がってきそうだ。その中でも日焼け止め市場の活況が予測される。日経POSEYESによるとドラッグストア市場の日焼け止めカテゴリーは、22年8月以降、売り上げが2ケタ成長しており、23年の1月も前年同月比19.8%増であったという。さらにその23年1月の日焼け止めのシェアは、花王が26%、カネボウ化粧品が14%、日本ロレアルの「ラ ロッシュ ポゼ」が13.3%、ロート製薬が12.5%、資生堂が12.2%、コーセーが5.9%であり、他のスキンケアよりも大手企業のシェア寡占の度合いが強い。一方で、SPFとPAの指標に加え、昨年から新たにウオータープルーフ(UV耐水性)の表示がスタートしたこともあり、今春からその指標に対応した日焼け止めの新商品が続々と登場している。年間を通じて常用することが浸透してきた商材ではあるが、今年はマスク着用の緩和によってより大きな動きが見られそうだ。

 また、秋口には中国人観光客の本格的な回復が見込まれる。今は訪日観光ビザが「相当な高所得者」のみに発給されていることも影響し、高級腕時計やジュエリーなど高価格帯の商品の動きが顕著であるが、今後、一般の所得者も増えるようになれば、化粧品市場の動きも活発になるだろう。ただ、コロナ禍前のように中国人観光客がプレステージの化粧品を好んで買うかは不透明だ。中国で越境ECや免税店など日本の化粧品を購入できる場が増えており、日本で購入する必要がなくなってきている。また、現実的に手頃で品質が良いものを見極める力が身につきはじめていることもあり、以前のようにインバウンド需要が戻ってこない可能性もある。購入してもらうためには、19年のような戦略では通じない。日本でしか売られていない商品や限定品など、日本で“わざわざ”化粧品を買う理由を作る準備が必要だ。

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