
ビューティ賢者が
最新の業界ニュースを斬る
ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、ビジネスにおける「直感力」の重要性について。
寺山イク子/オリエンタル代表/江戸川大学 客員教授/JCPA(日本コスメティックプロフェッショナル協会)顧問
(てらやま・いくこ)2012年から江戸川大学の「ビューティビジネス」で教鞭に。在籍した多くの世界的ラグジュアリービューティ企業の経験や実績から“ビューティ・ジェネラリスト”として活動中。趣味はソーシャルアストロロジー
【賢者が選んだ注目ニュース】
ファッションでの“機能性”をコスメで置き換えるとすれば「成分」となるだろうか。美容医療周辺の活性化という背景もあり、メジャーなのは「ビタミンC」「AHA」「ヘパリン類似物質」「ナイアシンアミド」「レチノール」と、挙げればキリがない。コスメ製造過程において有用性や安定性などの試験と並び、大変重要な「官能評価」(英語:Sensory Analysis/Researchなど)がある。Sensory(センサリー)はSenses(ヒト感覚)から由来した語で、主に五感(嗅覚、味覚、触覚、聴覚、視覚)をものさしに用いて、商品の機能や品質を評価・判定する方法である。この試験で国別の嗜好差分析をすることもあるので、特にグローバルな商品開発には欠かせない。
欧米でセンサリー評価(Sensory Evaluation)の研究は専門的で、官能評価に特化した調査会社やコンサルタントが結構あり、データ収集が盛んで分析専用ソフトも人気だ。ヒト感覚は優れたセンサーで、五感や体からの感覚であらゆる情報を得ており、そこからどのように表現するのかが心で感じとる「感性」となる。「肌と心はつながっている」のが常識である美容業界において、感性を磨くには五感を研ぎ澄ますのが大事なのだが、機能といえる“成分”と“感性”は両輪でバランスが必要だというのが一般的な見解である。
一方で、主成分が植物由来のナチュラル系と解釈されるブランドは「効果実感があるのか?」と、機能、つまり「成分」での弱さを問われてしまう印象がある。しかし植物は薬としての役割も果たし、植物学者は重宝されてきた。草冠(くさかんむり)に楽(らく)と書いて「薬(くすり)」と読む漢字が何よりも、その真実を物語っている。植物の成分は基本「毒」である。身を守るための成分だから強くパワフルな面があるのだが、日本ではなぜか植物は全体的に「やさしい」とか「穏やか」などのイメージが先行し、偏って見えている気がする。それが“なんとなく”を引き寄せているのならば、そろそろ見識を改めるべきだと思うのだが、どうだろう。成分の抽出方法や分析などで技術革新が進めば、期待が膨らむ領域だ。
もっと過去にさかのぼって歴史をひも解くと、ヒトが生きていくために植物をうまく育てる必要があり、それには天体や気候を深く知ることが不可欠であったので、天体観測する“天文学者”は非常に貴重であり、またリスペクトされた。天文学者から派生したのが占星術師、つまり占いへとルーツがつながる。人気の占星術師たちは、こぞって五感を澄まして直感力を磨くのに、いろいろ努力を重ねるという。
目に見えない能力を呼び起こすには
現代のような「月の満ち欠け」を全く把握せぬ民を統治していた時代の新月の話を一つ。「あと9回、太陽が沈んだのち、月は消える」と言われ、実際に消えてしまったなら?そう、民はそれを“予言”と信じ、心をつかまれたに違いない。そこで主従心理が働き、心のコントロールが可能となる。こうして天文学者や植物学者等は権力と共に、国を動かし政治を司ってきたのだ。占星術と植物学もしくは医学は、同じ部類で学問でもあったし、限られた人たちの情報であったが故、重宝されてきたのだ。不老不死を願う薬・酒・コスメなどの処方が門外不出であったのは必然であろう。「宇宙(cosmos)を把握する者、国をも制す」時代。ちなみにコスメティクス(cosmetics)は一説によると宇宙(cosmos)に由来している。
経験上、明言できるのは数字を作れる美容部員は間違いなく感性が高くて直感力があるということ。売れる商品は瞬時にピン!とくるらしい。感覚や感性、直感力といった目に見えない能力をスピリチュアルと片付けてしまうのは簡単だけれど、侮ってはいけない。昨今のスピリチュアルの風は、人間の本能の目覚めといえるのではないかとも思う。人間に元々備わっている能力を呼び起こし鍛錬すればよい。体幹を鍛えるのと同様に。その力を高めるにはアートに触れ芸術を楽しむのが良いと思う。頭が柔軟になって世界の見え方が変わり、人生の豊かさが増すはずだ。最近、ファッションかいわいはアートと急接近している様子だが、芸術は直感力や感性といった能力を最大化させ共感力を生む。世の中のさまざまな事象に共感し、彩りをもたらすはずだ。
石橋ファウンダー(通称・バッシー)は、とにかく現場第一主義。そして決断力が強く即決できる速さがあった。これは直感力の極みだ。成功の秘訣を伺うと「なんとなくフィーリングで」とおっしゃっていたのは照れ隠しというか、才を包み隠す体の良い言葉にしか聞こえなかった。時代の半歩先を嗅ぎ分けてブランドを構築されていた。数々のヒット要因は、長時間費やした鍛錬と経験に裏付けられた直感力と勝手に思っているが、石橋さん、世界を周遊して自分が世に送り出したブランドをあちこちで見てみたいとおっしゃっていた夢、ぜひともかなえてほしい。
