「WWDJAPAN」のソーシャルエディターは毎日、TwitterやFacebook、Instagram、そしてTikTokをパトロールして、バズった投稿や炎上、注目のトレンドをキャッチしている。この連載では、ソーシャルエディターが気になるSNSトレンドを投げかけ、業界をパトロールする記者とディスカッション。業界を動かす“かもしれない”SNSトレンドの影響力や、投稿がバズったり炎上してしまったりに至った背景を探る。今、SNSでは何が起こっているのか?そして、どう向き合うべきなのか?日々のコミュニケーションのヒントにしたい。今回は、“バズる”コスメの共通点を考える。
ソーシャルエディター浅野:コスメがSNSでバズる一番の理由は使用感の良さですが、リップやチークなどのカラーメイクアイテムではネーミングも重要です。昔からフルーツなどの食べ物の名前がつくことは多く、消費者がカラーをイメージしやすいことからよく使われています。ストロベリーやピーチ、チェリーなどは定番です。最近はブラウン系やテラコッタなど、ややくすみ系のカラーがトレンドで、ミルクティーやシナモン、チャイなどのキーワードが人気です。とくにカラーネームを設定していない場合でも、SNSユーザーが“杏仁ミルクティー”や“ストロベリーチャイ”など、キャッチーな名前をつけてバズる場合も多く、“おいしそう”なキーワードが増えています。確かに「ベージュ系」と一括りされるより、興味がわきますよね。具体的な色より、イマジネーションを働かせるネーミングがポイントです。
爆売れした「ケイト(KATE)」の“リップモンスター”も、機能性や使用感はもちろん、ベーシックなカラーラインアップを“ダークフィグ”や“ラスボス”“欲望の塊”など、個性的なネーミングにして戦略勝ちしています。ファッション業界でもこういったアイデアってあるんでしょうか?
記者村上:「美味しそうな名前」は、あんまり多くないかもですね(笑)。個性的でわかりやすく、結果支持されている代表例は、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」の“タビ”シリーズでしょうか?
ファッションの世界はむしろ、あえて難しい名前にしちゃって、“カッコ良さげだけど、とっつきにくい”という結果を招いちゃってるケースも多い気がします。代表例は、「たすき掛け」を「クロスボディ」って呼んだり、「アクリル樹脂」を「プレキシガラス」って命名したりでしょうか?前者はカッコ悪くて、後者はカッコいいから一生懸命啓蒙して、ようやく「クロスボディ」は一般的にも認知されるようになってきたのかな?
そして最近は「サヴォアフェール」ですね。概念自体が日本語には存在しない気もするので、一生懸命プロモートしています。
最近気になっているニューワードは、「アニメーション(animation)」。もちろん「マンガ」じゃないですよ。「活気づける」という意味があるので、あるブランドではバッグのサイズバリエーションを増やしたり、異素材を使ってみたりの「エクスパンション」の意味合いで使っていました。
脱線しましたが、浅野さんが言う通り、名前って大事ですよね。個人的にはビューティの世界では、「覚えやすい」「濁点が少ない」「欲を言えば機能が想像できる」名前が良いなぁと思っています。「濁点が少ない」は、肌に塗布するものに対して、あまりに濁点が多い製品名だと、私は「キレイになれる」イメージを紐付けづらいから。食べ物や飲み物の名前は、誰しもが食べたり飲んだりしたことがあるから、スマホの小さな画面でも色味を想像しやすいんじゃないか?と思います。コロナ禍頃から、抹茶、ピスタチオ、ミルクティーなどは聞く機会が増えましたよね。抹茶はフレグランスの世界でもブレイクした印象があります。
浅野:“カッコ良さげだけど……”はビューティでもよくありますね。製品数が多いので固有名詞として差別化しないといけないのはわかるのですが、とくに外資系ブランドだとスキンケアなのかメイクなのかさえわからないこともしばしば(笑)。
ヒット製品でいうと、「コスメデコルテ(DECORTE)」の“リポソーム”や「アルビオン(ALBION)」の“スキンコンディショナー”などは、覚えやすい&わかりやすいネーミングですよね。最近良いなと思ったのは、時短コスメ「サボリーノ(SABORINO)」などを展開しているBCLの新ブランド「カンソウサン(KANSOSAN)」です。ご想像の通り、乾燥肌向けの保湿に特化したブランドなんですが、ドラッグストアで思わず手に取ってしまいました。乾燥に悩んでいる人からすれば「これは私向けのアイテムだ」と一目で分かります。シンプル・イズ・ベストもまた良いのかもしれません。“おいしそうなネーミング”もそうですが、結局は消費者が想像しやすい名前が大事なんですよね。とくにSNSでは情報量が限られている上に、昨今は指を止めてもらうことさえ難しくなっているので、ネーミングは今まで以上に重要かもしれません。
村上:外資でも「ランコム(LANCOME)」の“ジェニフィック”や“クラリフィック”、「ディオール(DIOR)」の“スノー”などは、わかりやすいですよね。
「シャネル(CHANEL)」の“No1”も、読み方は「ヌメロアン」とちょっと難しいけれど「ナンバーワン」だから、「これを使っておけば、大丈夫!」というイメージが連想しやすいようです。スキンケアの新シリーズながら、スタートダッシュに大成功したと聞いています。SNSはもちろん、覚えやすくてイメージしやすい名前は、日常会話でも登場しやすいですよね。
そういえば「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」の新作バッグ“アンディアーモ(Andiamo)”は、イタリア語で「さぁ行こう」って意味で、イタリア人の日常会話では当たり前に登場する誘いの言葉だそうです。「リストランテにアンディアーモ!」みたいなカンジなのかしら?こんな名前もアリですよね。ブランド側の、ファンと構築したい関係性を想起させる良いネーミングだなぁ、と思いました。
次回は、レアスニーカーの購入可否スクリーンショット。口コミで広がるSNSマーケティングについて語ります。
