ファッション

次世代の感性でシカゴのストリートシーンをリードするジョー・フレッシュグッズ 「愛こそが一番のパフォーマンス」

 アメリカ・シカゴ出身のデザイナー、ジョー・フレッシュグッズ(Joe Freshgoods)は、「ニューバランス(NEW BALANCE)」とコラボレーションした新作“993”(3万9600円税込)発売に合わせて、インスタレーションを東京・日本橋浜町のティーハウス ニューバランス(T-HOUSE New Balance)で11月8日まで開催している。

 フレッシュグッズは現在36歳。26歳で自身のセレクトショップ「ファットタイガー ワークショップ(Fat Tiger Workshop)」をオープンすると、そのクールで自由度の高いマインドのセレクトとオリジナルアイテムを武器に、たちまちシカゴのストリートシーンのランドマーク的ショップへと成長させた。しかし、2021年に「別の夢を追いかける時が来た」と突然の実店舗の閉店を発表。すると翌年、「ニューバランス」の新プロジェクト“コンバセーションズ アモングスト アス(CONVERSATIONS AMONGST US、以下CAU)”のクリエイティブ・ディレクターに就任した。

 “CAU”とは、年間を通してブラックコミュニティーに敬意を表しながら、あらゆる人種間での新たな対話を促進することを目指した新プロジェクト。「ニューバランス」は、フレッシュグッズのトレンドを作り上げる次世代の感性と、アフリカン・アメリカンを中心とするコミュニティーへの影響力を信じる形で、彼を“CAU”のクリエイティブ・ディレクターに抜擢したのだ。

 インスタレーションために来日したフレッシュグッズに、基本的な経歴から「ニューバランス」との出合いやコラボ“993”、シカゴのお気に入りのレストランまでを聞いた。

「アフリカン・アメリカンは、本来の目的とは違った新たな視点を加えることが得意なんだ」

ーーまずは、ファッションシーンに足を踏み入れたきっかけを教えてください。

ジョー・フレッシュグッズ(以下、フレッシュグッズ):中学2年生の時、キャメロン(Cam'ron、マンハッタン・ハーレム出身のラッパー)がピンク色の服を着ているのを見て憧れたことがすごく印象に残っているんだ。彼を見てから俺もピンク色のアイテムを着たいと思ったんだけど、その当時は“ピンクは男性が着る色ではない”って風潮があったから、メンズのアイテムでピンクのものはなかなか無くてね。自分が好きなピンクのアイテムを着たいという“色”への強い思いが、俺とファッションとの最初の関係だった。それに、俺が一番得意なのは何かをクリエイトすることで、13~14歳からTシャツを作ったし、創作という行為が好きだった。それがどんどんうまくなって、今に至った感じだね。

ーー日本では、ブランドを立ち上げたり、自分のショップをオープンしたりするために専門学校や大学へ通う人が多いです。

フレッシュグッズ:何かを始めるとき、大学や専門学校に通って勉強する人たちのことはとても尊敬するけども、俺は金銭的に余裕がなかったから行っていないんだ。“Real life is my college”で、日々の生活が教育の場だったよ。

ーー自身のセレクトショップ「ファットタイガー ワークショップ」をオープンするまでを教えてください。

フレッシュグッズ:「ファットタイガー ワークショップ」の前に、アフリカン・アメリカンがオーナーを務めるシカゴのショップ「リーダーズ 1354(Leaders 1354)」で働いていた。客としてドアを初めて開けた時、俺と同じ肌の色をした人たちがショップスタッフとしてクールなアイテムを売っている光景が広がっていて、すぐに「働きたい!」と思ったんだ。働くうちに、同じようにセレクトショップをオープンしたり、ブランドを立ち上げたりしたいという思いが強くなって、2013年に26歳で「ファットタイガー ワークショップ」をオープンした。

ーー「ニューバランス」との関係がスタートしたきっかけは?また、それ以前はどのようなイメージを抱いていましたか?

フレッシュグッズ:19年の夏に「ニューバランス」の担当者がシカゴに来て、そこで話し合ってから関係が始まったね。両者にとっていいタイミングだったと思うよ。俺はもともと地域的なことに注意を払う人間なんだけど、アメリカ中北部のシカゴに住む人間としてイーストコースト(ボルチモア地区に代表されるワシントンD.C.やフィラデルフィア、ニューヨーク)のブランド、特に「ニューバランス」にリスペクトを感じていたんだ。コラボを機に、ブランドは地域に根差したものであるということをより理解できたし、違った階層にアクセスできていると感じている。

ーー今回、“993”をベースに採用した理由や、“パフォーマンス アート”の具体的な着想源はありましたか?

フレッシュグッズ:以前からステイプル・アイテムとして“900”シリーズが好きだったのもあるけど、コラボレーション時にはパートナーからの提案にも常に耳を傾けるべきだと思っていて、「ニューバランス」との話し合いの末に“993”を選んだんだ。“パフォーマンス アート”のコンセプトやデザインを考えるにあたっては、「ニューバランス」のアーカイブ広告を参考にしながら「この部分をこう変えた方がいい」や「こうしたら面白くなるかもしれない」といった方法でデザインを進めた。その中で、アフリカン・アメリカンは何でもない鉄をアートに仕立てることができたり、ハイキング用のアイテムをファッショナブルなアイテムに変えたり、本来の目的とは違った新たな視点を加えることが得意なんだけど、アーカイブ広告の中に“Made To Wear Well(着用することでパフォーマンスが向上する)”というコピーを見つけてね。「ニューバランス」の“993”はランニングシューズとして作られたけれど、現在はファッショナブルなアイテムとして着用されているし、これこそが着想源だと思ったんだ。1つのスニーカーを見ている4人の人物がいて、全員が同じスニーカーに対して違う意見を持つことーーこれが“パフォーマンス アートだ”。

ーーピンクをはじめとする淡いカラーリングを落とし込んだ意図は?

フレッシュグッズ:「ニューバランス」との協業では、さまざまな部分を“Blighten-Up(明るくする)”ことが俺の役割だ。彼らが歴史的に使用してきたグレーやネイビーではなく、俺が好きなピンクも含めた明るいパステルカラーを提案することで、これまで抱かれてきたイメージや印象を変えることができると思ったのさ。

ーーイメージビジュアルでは、世界的なアーティストと共にシカゴになじみのある“フッドスター”たちも起用していますよね。

フレッシュグッズ:「ニューバランス」との関係を続ける中で別分野の人たちと働き、いろいろな学びがあった。今回は、「ジョーの頼みなら」って思ってくれるような友人関係をベースに、俺がやりたいことをシカゴのヒーローたちに叶えてもらった。

ーーこれまでの「ニューバランス」とのコラボを振り返ると、どれもストーリーテリングへのこだわりを強く感じました。

フレッシュグッズ:自分がビジネスを始める前も後も、さまざまなブランドが発信するベーシックな広告を見ていつも飽き飽きしていたんだ。正しいパートナーと正しい予算があれば、的確かつ今まで見たことのないような広告は展開できるのにってね。「ニューバランス」とはスニーカーを通して、他の人では見せることができない俺だけのストーリーで世界を一つに結びつけることができているはず。

「“Love is the biggest performance(愛こそが一番のパフォーマンス)”だからね」

ーー東京で11月8日まで開催しているインスタレーションのテーマを教えてください。

フレッシュグッズ:俺の魂や経験を具現化したような空間としてティーハウスへ招待する気持ちと、俺がアフリカン・アメリカンを代表してティーハウスに招待されたという気持ちを表現している。俺は違う文化の間に共通点を見出しながら育ってきたんだけど、例えば日本の茶道がアフリカン・アメリカンにとっては何かを考えたときに、それがサザン・スウィートティーだと気付いた。シカゴという遠く離れた場所から日本に来たけど、俺たちはどこかでつながっているということを表現できているんじゃないかな。

ーー設置されているさまざまなオブジェクトは、どのようなチョイスでしょうか?

フレッシュグッズ:俺はヒップホップのアーティスト全般に影響を受けていて、このCDブックは今でいうインスタグラムのプロフィール画面のようなものさ。当時CDを集めることは、インスタグラムのポストを更新するようなものだった。ウォークマンは普通のグレーじゃなくクリアなものが好きで、モトローラ(MOTOROLA)やブラックベリー(BlackBerry)は本当に当時使っていた携帯だよ。ノトーリアス・B.I.G.(The Notorious B.I.G.)が表紙の雑誌は、色使いの主張も良くて一番好きな一冊だね。あと、モブ・ディープ(Mobb Deep、ヒップホップデュオ)のプロディジー(Prodigy)が大好きで、彼がキッチンでバイクに跨っている写真がお気に入りだから同じような一台を置いている。彼も「ニューバランス」と同じく、イーストコースト出身だね。壁から垂れている巨大なフラッグは、友人でエアブラシ・アーティストのPJが描いてくれた。シカゴのモールやプロム(高校生が卒業前に集まる伝統的なダンスパーティー)では似たようなものを作ることが多くて、それを写真に収めるのが好きなんだ。

ーーインスタレーションを記念したアパレルも製作していますね。

フレッシュグッズ:全10型で、そのうち4型がティーハウスのエクスクルーシブだ。このボタンシャツは、背面に両親が台所で踊っていた思い出をそのまま刺しゅうしているーー“Love is the biggest performance(愛こそが一番のパフォーマンス)”だからね。Tシャツには俺の趣味をそのまま落とし込んでいて、1970~80年代のアイテムを「イーベイ(eBay)」で探すのが好きだから、ビンテージのジョー・フレッシュグッズと「ニューバランス」のコラボTシャツをイメージした。アスレチックな感じもいいでしょ?あとは、俺らしいピンクのヴァーシティージャケットもあって、招待してくれたティーハウスや日本へのリスペクトに応えて背中に日本地図を刺しゅうしているんだ。

ーー日本でこのようなイベントを開催するのは何度目ですか?

フレッシュグッズ:友人のVERDYとのポップアップを4年前に一度したから、今回が二度目だね。俺は彼をバックアップしただけだけど(笑)、今じゃ彼はスーパースターだ。

ーー東京とシカゴでファッションの相違性は感じますか?

フレッシュグッズ:とても画一的に感じる一方で、ファッションを自由に楽しんでいるようにも思う面白い街かな。

ーーシカゴは4大スポーツ(NBA・NFL・NHL・MLB)のチームが本拠地を構えている関係で、世界的に見てもスポーツとファッションが近い距離にある街だと考えています。

フレッシュグッズ:確かにNBAのシカゴ・ブルズも、NFLのシカゴ・ベアーズも、NHLのシカゴ・ブラックホークスもあるし、MLBはシカゴ・カブスとシカゴ・ホワイトソックスの2チームが存在するから親和性は高いね。ホワイトソックスのキャップがヒップホップの定番アイテムであるように、シカゴの人々にはスポーツ・カルチャーがDNAレベルで染み付いているから、それがファッションに自然と現れるんだと思うよ。

ーー東京で気になるブランドやショップ、人物は?

フレッシュグッズ:特定なものは無いけれど、歩いていて気になるショップはたくさんあった。ステーキが好きだからステーキの店に行きたいね。

ーーでは、シカゴでお気に入りのレストランはありますか?

フレッシュグッズシカゴはアメリカの中でも2大フードシティだから、この話をし出すと2時間はかかるな……(笑)。肉が大好きだからステーキハウス「バベッツ(Bavette’s)」と、フィリーチーズステーキ・サンドイッチがある店によく行くよ。

ーー最後に、毎日見ている注目のSNSアカウントなどがあれば教えてください。

フレッシュグッズ:ステーキのアカウントかな(笑)。

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