サステナビリティ

「エルメス」と協業する注目の“マッシュルームレザー”新興企業 CEOがその優位性を語る

 サステナブルファッションかいわいで今、キノコの菌製の人工“マッシュルームレザー”が空前の盛り上がりを見せている。その新境地を開いたのが「エルメス(HERMES)」と協業する米スタートアップ企業のマイコワークス(MYCOWORKS)だ。「エルメス」は、マイコワークスと開発したマッシュルームレザー「シルヴァニア(Sylvania)」を用いたバッグ“ヴィクトリア”を3月に発表、年末までに店頭に並べる予定だ。

 マイコワークスは2013年創業。サンフランシスコ近郊のエメリービルに本社と工場があり、生産量拡大のために新たな工場の建設も計画する。同社はきのこの菌糸体からレザーのような素材を作る技術“ファイン マイセリウム(Fine Mycelium)”を開発して特許を取得。ナタリー・ポートマン(Natalie Portman)らが出資する注目企業でこれまでに累計6200万ドル(約67億円)を調達。“ファイン マイセリウム”素材は独自の細胞構造によって強度や耐久性が高く手触りもよく、本質的に再生利用が可能で生分解性があるという。

 「シルヴァニア」はその“ファイン マイセリウム”素材の強度と耐久性をさらに高めるため、フランスにある「エルメス」の工房でなめしなどの仕上げが施されている。また成形などの加工も「エルメス」の職人が行っているという。エルメスの職人技とマイコワークスの最新技術を融合することで、“マッシュルームレザー”初の商品化にこぎ着けた。

 4月には、アディダス(ADIDAS)が、米ボルトスレッズ(BOLT THREADS)が運用するマッシュルームレザー「マイロ(MYLO)」を用いた“スタンスミス”を12カ月以内に発売すると発表している。

 「本質的に再生利用が可能で生分解性があり」、環境負荷が著しく低い夢のような素材ではあるが、これまでになかった新素材“マッシュルームレザー”には謎も多い。マイコワークスのマシュー・L・スカルリン(Matthew L. Scullin)CEOにメールインタビューで疑問を投げ掛けた。

WWD:“マッシュルームレザー”に注目した理由を教えてほしい。

マシュー・L・スカルリン(Matthew L. Scullin)CEO(以下、スカルリン):ブランドや消費者は、サステナビリティのために機能性を犠牲にしたりしない。“ファイン マイセリウム”素材は品質の面で妥協していないので、成長が見込める独自のポジションにあり、結果として大きな変化を推進するものだ。

ブランドはいかにサステナブルに新素材を融合していくかを考えていると同時に、プロダクトデザインの新たな可能性も追求している。“ファイン マイセリウム”技術は、基本的にオーダーメードで素材を作る。何をどうやって作っているのかについては、完全な透明性があり、これによってより高いレベルでの品質管理や効率性を実現することができる。“ファイン マイセリウム”がなぜ“素材の未来”なのかについては、当社がブランドとどのように協業しているかが最良の事例だと思う。

WWD:“ファイン マイセリウム”とはどのような技術か。

スカルリン:“ファイン マイセリウム”技術は、材料科学とバイオテクノロジーにおける飛躍的な進化であり、当社の独占的なマテリアルクラスと独自の工程に基づいている。

“ファイン マイセリウム”は、ファッションやフットウエアで使用される高機能素材の先進的なプラットフォームだ。当社が特許を有するテクノロジーは、成長過程で細胞構造が連結するように菌糸体を拡張するため、素材に高い強度と耐久性をもたらす。素材は機能性や審美性など、提携先の要望に従ってオーダーメードで生産するため、ブランドはクリエイティブ面で完全にコントロールすることができる。

当社の代表的な商品である「レイシ(Reishi)」は、高級皮革を代替する高品質かつナチュラルな素材であり、当社独自の“ファイン マイセリウム”技術で作られている。生産規模が拡大するにつれて、「レイシ」をいろいろな価格帯で生産し、さまざまな分野や用途に向けて供給できるようになる。

WWD: “マッシュルームレザー”はどのように収穫され加工されるのか。現在の菌糸の育成となめし加工に関しての協力会社は?

スカルリン:マイコワークスは、垂直統合された唯一のバイオマテリアル企業だ。“ファイン マイセリウム”シートは、カリフォルニアにある当社の施設で生産されており、適切な状態を維持する独自のトレーで育てられている。成長の各工程でデータを取得して、各シートの構造や見た目を提携先の要望に合わせて改良するため、また一貫して安定した妥協のない品質を確保するためにそれを活用している。

「レイシ」は、提携している老舗タンナーのカルティドス・バディア(CURTIDOS BADIA)で、当社独自のなめしおよび染色技術を用いて仕上げられている。3月に発表した、「エルメス」との協業による素材「シルヴァニア」はこの工程が異なる。これも“ファイン マイセリウム”技術を用いて作られているが、素材の強度と耐久性をさらに高めるため、フランスにある「エルメス」の工房でなめしなどの仕上げが施されている。また成形などの加工も、「エルメス」の職人が行っている。

“ファイン マイセリウム”で作られた素材は、高級皮革と同様に扱われるべきだ。

WWD:スケールアップするに当たり、サプライチェーンをどう構築していくのか。

スカルリン:マイコワークス独自のトレーシステムは、無限にスケールできる。カリフォルニア州エメリービルにある当社の新施設では、トレーの運用管理が自動化されており、従来と比べて10倍の生産能力がある。今後数カ月で研究開発にさらに投資し、生産施設をもう一つ立ち上げる準備や、既存の生産施設の拡大に取り組んでいく。また社員数は現在100人を超えているが、引き続きチームを拡大していきたい。

WWD:ほかのマッシュルームレザーと比べて、“ファイン マイセリウム”素材の優位性は?

スカルリン:“ファイン マイセリウム”は全く新しいタイプの、高品質でナチュラルな素材だ。いわゆる“マッシュルームレザー”と異なり、当社が特許を有している技術で作られた“ファイン マイセリウム”素材は、独自の細胞構造によって強度や耐久性が高く、手触りもいい。当社の素材は基本的にオーダーメードで作られており、何をどうやって作っているのかについて完全な透明性がある。こうした画期的なトレーサビリティーによって、全体により高いレベルでの品質管理、一貫性、効率性が実現される。

WWD:現在の価格と今後の価格はどの程度を予定しているか。

スカルリン:当社のコスト構造は好ましいものであり、(価格帯は)ハイエンドの天然皮革と同程度となっている。

「エルメス」との協業で成し得たこと

WWD:「エルメス」と協業するに至った経緯は?

スカルリン:「シルヴァニア」は、「エルメス」との3年間にわたる協業の成果だ。両社は、強度があって長持ちする、審美性の高い素材を作るための天然の原材料を見つけたいという共通の関心があった。この協業によって、最高品質の素材をなめす専門技術と、バイオテクノロジーというツールが組み合わされた。

WWD:“マッシュルームレザー”は数週間という短いスパンで生産でき、畜産に比べても水の使用量や温室効果ガス排出が著しく抑えられる夢の素材だ。「シルヴァニア」製造における環境への負荷は?

スカルリン:“ファイン マイセリウム”素材は天然のものであり、成長過程も倹約型(時間や資源をあまり必要としない)のため、環境フットプリントが非常に低い。マイセリウムは、環境再生と炭素隔離において地球で最もパワフルな媒体の一つだ。なめし(タンニング)工程によって、その質、強度、耐久性を高めている。

WWD:「シルヴァニア」と「レイシ」の違いについて教えてほしい。量産化された場合、捨て方、リサイクル方法などどのように考えているか教えてほしい。

スカルリン:「シルヴァニア」と「レイシ」は、いずれも“ファイン マイセリウム”技術で作られている。当社の“ファイン マイセリウム”技術で作った素材を、エルメスが自社のタンナーでなめして仕上げたものが「シルヴァニア」だ。同じく当社の“ファイン マイセリウム”技術で作った素材を、当社と提携しているタンナーで仕上げたものが「レイシ」となっている。

また、“ファイン マイセリウム”素材は、本質的に再生利用が可能で生分解性がある。

WWD:現在の資金調達額は?

スカルリン:当社はシリーズBとなる資金調達で4500万ドル(約49億円)を調達した。このラウンドでは、ナタリー・ポートマンやジョン・レジェンド(John Legend)のほか、投資会社のWTTインベストメント(WTT INVESTMENT)、DCVCバイオ(DCVC BIO)、バロー・エクイティ・パートナーズ(VALOR EQUITY PARTNERS)、フンボルト・ファンド(HUMBOLDT FUND)、そして既存の投資家が出資している。なおシリーズAでは1700万ドル(約18億円)を調達しており、累計では6200万ドル(約67億円)となっている。

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