サステナビリティ

アディダスのキーマンが語る “キノコの菌製”人工レザーの課題と可能性

 キノコの菌から作った“人工マッシュルームレザー”が注目を集めている。動物を犠牲にすることなく、環境への負荷も従来の動物の皮革と比較すると極めて低いことから、有力ブランドが新興企業と組んで開発を進めている。

 “マッシュルームレザー”は再生可能なキノコ類の菌糸体(マイセリウム)から作られており、約2週間で製造できる。一方、皮革1キログラムを生産するのに要する水の量は1万7000リットルにのぼり、畜産は、世界の温室効果ガス排出量の約18%を占めている。水リスクが高いエリアで行われていることも多く、現在アマゾンの森林伐採地域の70〜80%が家畜の牧草地として使用されているなど、生態系の破壊の要因のひとつになっている。また、一般的な合成皮革は布地をベースに合成樹脂を塗り、表面層を天然の革に似せているため石油由来だ。

 「エルメス(HERMES)」は米国のスタートアップ企業のマイコワークス(MYCOWORKS)と開発した「シルヴァニア」を用いたバッグを3月に発表し、今年中に発売する。アディダス(ADIDAS)もまた4月15日に、米ボルトスレッズ(BOLTTHREADS)が運用する「マイロ(MYLO)」を用いた“スタンスミス”を発表し、今後12カ月以内に商品化する予定だ。しかし、革新的技術を用いた新素材だけに量産化に向けた課題は多い。スケールアップをどうするのか、強度をどのように担保するのか、均一性をどう保つのか、使用中のケアや廃棄はどうするのか、100%バイオベースが可能か――ちなみに「マイロ」は、強度を担保するために仕上げに石油化学製品を用いているため、ドイツ規格協会に60~85%がバイオベースと認定されているが生分解はしない。

 アディダスで「マイロ」に取り組む、デイヴィッド・カス(David Quass)ブランド サステナビリティ・グローバルディレクター、ダーラン・キル=フューチャーチーム テクノロジークリエイション シニアマネジャー、ニコラ・グルーネウェフ(Nicholas Groeneweg)フューチャー・シニアマネジャー、マーティン・ラヴ(Martin Love)オリジナルズ カテゴリーディレクター、4人のキーマンに「マイロ」運用への課題とその可能性を聞いた。

WWD:「マイロ」を用いたプロダクトの拡大をどのように進めるのか?

ニコラ・グルーネウェフ=フューチャー・シニアマネジャー:近い将来、「マイロ」素材の商業化の可能性が立証されることに期待を寄せている。今後12カ月以内に“マイロ スタンスミス”の限定版第1号モデルを発売できるよう取り組んでいる。価格帯は同じカテゴリーの類似プロダクトに合わせられるよう目指している。その後、少しずつ規模を拡大しながら種類を増やし、「マイロ」をほかのプロダクトやシリーズに導入していく予定だ。

デイヴィッド・カス=ブランド サステナビリティ・グローバルディレクター(以下、デイヴィッド):アスリートや消費者のニーズに合わせて革新的なコンセプトを生み出すことは、市場におけるポジションを高め、当社のビジネス戦略の重要な要素になっている。われわれは当社のバリューチェーン全体で、サステナビリティの実現につながること――画期的で新たなテクノロジーやプロセスを生み出す技術への投資を行っている。また、デジタル化の可能性を探りながら、われわれの革新的なコンセプトの源を確保することに努めている。

WWD:「マイロ」は「リサイクルを前提に開発された素材」とオンラインカンファレンスで話していた。将来、“スタンスミス マイロ”は“フューチャークラフト.ループ(Future Craft. Loop)”のようなモノマテリアル化/単一素材化を目指すのか?

デイヴィッド:今のところは“スタンスミス マイロ”はコンセプトフットウエアで、ケミカルリサイクル(使用済みの資源を科学的に分解して原料に戻し再度活用すること)に対応させる計画はない。

ダーラン・キル=フューチャーチーム テクノロジークリエイション シニアマネジャー:現時点で“スタンスミス マイロ”はコンセプトにすぎないが、そう遠くない未来に必要なテストを実施し、リサイクル可能か、まだその段階ではないかの判断ができるだろう。

われわれの目標は“END PLASTIC WASTE (廃棄プラスチックをなくす) ”だ。そのために、2024年までに全てのポリエステルをリサイクルポリエステルに切り替えることを目指している。また、30年までにCO2排出量を30%削減し、50年までにカーボンニュートラルを実現するという、壮大な目標を立てている。この目標を実現するために、成長を維持しながら、ビジネスの抜本的な見直しを図っている。そこでまず行っているのは、どんな素材をどのように活用するかを見直すこと。次に目を向けているのは、再生や再構築が可能な“Made with nature (自然とのコラボレーション)”のプロダクトを作ること。これが“END PLASTIC WASTE” に向けたイノベーションの長期戦略となっている。

新素材「マイロ」の導入は、“Made with nature”コンセプトのプロダクトを通じて未来を築くというアディダスの大きな目標において重要な進展だ。

当社が掲げるモノ作りのコンセプト“再生のループ(Regenerative Loop)”の最終目標は、天然由来の成分から開発された素材や、研究室で開発された細胞由来・タンパク質由来の素材を用いてプロダクトを作ることだ。

WWD:「マイロ」の優位性は?

デイヴィッド:「マイロ」には農業分野から見ても土地利用面積の削減につながり、しかも14日のリードタイムで収穫できるという2つの点で環境に利点がある。また、「マイロ」は汎用性が高く、多種多様な着色や仕上げ加工が可能なので、アディダスではゲームチェンジャーとなる最新素材を使用する初のモデルにクラシックな“スタンスミス”を選択した。

WWD:規模拡大に関して現在の課題は?

マーティン・ラヴ=オリジナルズ カテゴリーディレクター:規模拡大はそれほど困難ではない。むしろプロセスの方に手間がかかる。素材からフットウエアを生み出すために、12カ月かけて開発を進めてきた。開発が完了した現在、次のステップとして、段階的に量産化の試験を行いながら、大量生産への対応とその際の品質を分析する段階に入っている。1足のフットウエアなら多くの手間をかけて神経を注ぐことができるが、今後は数百足、数千足でも均一に作らなければいけない。当然、ある程度の時間がかかる。

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