ファッション

ビンテージを軽やかに操る「ボーディ」 ウールマークプライズ受賞で波に乗る新鋭デザイナーの物作り

 ザ・ウールマーク・カンパニー(THE WOOLMARK COMPANY)が主催する「2020 インターナショナル・ウールマークプライズ(IWP)」イノベーション部門のカール・ラガーフェルド賞に、エミリー・アダムス・ボーディ(Emily Adams Bode)のメンズブランド「ボーディ(BODE)」が選出された。同賞は独創性と革新性が評価されたデザイナーに贈られる賞で、昨年死去したカール・ラガーフェルド(Karl Lagarfeld)の名にちなんで新設され、受賞者には10万豪ドル(約750万円)が贈られる。

 ニューヨークを拠点にするアメリカ人のボーディは、パーソンズ美術大学(Parsons School of Design)でメンズファッションデザインと哲学を学び、「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS」と「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」で経験を積んだ後に自身のブランドを2016年に立ち上げた。「手仕事の美しさをリスペクトし、新しい命を与える」というコンセプトのもと、アンティークのテキスタイルや工場で集めた余剰素材を使ってストーリー性のある服作りを行っている。IWPを受賞したコレクションは19〜20世紀のキルトやシルク、デッドストックのワッペン、馬用のブランケット、1930年代に稼働を終えたニット工場のステッチサンプルから着想を得たトレーサブル(追跡可能)認証済みのメリノウール・ジャカードニットなどを使っている。日本ではザ・ウールマーク・カンパニーのネットワークを通じてユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)やフリークスストア(FREAK'S STORE)、フェイ(FAYE) 、リリー デル サローネ(LILLY DEL SALONE)、ユニオン トーキョー(UNION TOKYO)、メイデンズショップ(MAIDENS SHOP)、HNWストア(HNW Store)などで12月末〜21年1月に販売される予定だ。受賞時の喜びやコレクションへの思い、日本との関係性についてをボーディに聞いた。

「チームを大きくするよりいい商品を届けたい」

——IWPに応募したきっかけは?

エミリー・アダムス・ボーディ(以下、ボーディ):デザインを学んでいた学生時代から歴史あるIWPに憧れていたけれど、当時はどこか遠い存在のように感じていたわ。でもブランドを立ち上げてから数シーズンを経て自分がやってきたことに自信を持てるようになったし、取引先とも良好な関係を築けている今が挑戦するのにぴったりのタイミングだと思ったの。

——受賞が決まった時の率直な感想は?

ボーディ:とっても感動した!IWPはカール・ラガーフェルドら数多くの有名デザイナーの才能を早くから見出していたし、そんな素晴らしい受賞者と肩を並べられて魔法のような瞬間だった。チームとともにこれまで創作に熱心に取り組み、一生懸命積み重ねてきた努力が実を結んだと実感したわ。私たちが評価されたのは、生産過程の工程で異なる要素が相互的に構成されている点じゃないかしら。具体的には、素材の製造背景とトレーサビリティ、ビジネスの透明性、クラシックでありながらイノベーションの要素も備えている点ね。

——賞金はどのように使う?

ボーディ:素材面に投資してさらにいい商品を作りたいわ。例えばメリノウール100%にしたり、トレーサビリティがより明確な素材を使用したりするとかね。今年はロックダウンを経験して、ビジネスにおいて成功とは何を意味するのかや、「ボーディ」にとっての成功とは何かを塾考したの。私たちが目指すのはショーを行ってチームを大きくすることじゃなくていい商品を届けることだから、生産面に投資しようという結論に至ったのよ。

——IWPの審査に向けて2020-21年秋冬コレクションでメリノウールを使用して何か新しい発見はあった?

ボーディ:ウールの中でも最高品質なうえに、天然繊維のため生分解性で再生可能な繊維だという魅力をより多くの人に伝えたいと思ったわ。IWPを意識したことでほかの素材についても改めて考える機会になり、繊維がどこで生まれ、どのように製造され、どんな生産者を選ぶべきかなどね。メリノウールの製造背景がとても明確だからこそ、素材を見て選ぶだけではなく、より深く考えて選択するべきなのだと学んだわ。

「日本は関係性が最も早く深まった国」

——点物や少量生産のアイテムが多い中でビジネスとのバランスをどのようにとっている?

ボーディ:一点物の商品の売り上げは全体の半分くらい。あとはデッドストックやアンティークのテキスタイルを使ってニューヨークとインドで生産しているの。ニューヨークでは仕立て屋や100年の歴史がある工場と、インドでは家族経営や女性だけが働いている小さな工場に依頼しているわ。IWPを通じてインドのウールの製造業者とつながることができたから、これからもっと多く生産ができるはずよ。これまでも製造業者や工場、サプライヤーとの関係性を強くして生産数を徐々に増やし、ブランドを少しずつ成長させてきたから今後も続けたいわ。大量生産できないからこそ顧客に特別感持ってもらえるしね。

——「ボーディ」の服を女性が着用しているのをよく見かけるが、ウィメンズのコレクションを制作する予定は?

ボーディ:今の顧客の半分は女性なのよ。日本を含め世界のいくつかの小売店は、女性顧客に向けて買い付けてくれている。だから「ボーディ」がメンズブランドだとうたう必要はないと思っているわ。ウィメンズのコレクションを作る予定は今のところないけれど、市場に参入すべきタイミングだと感じたら可能性はあるかもしれないわね。

——日本ではデビュー時から卸先が決まるなど支持を集めているがなぜだと思う?

ボーディ:日本はファーストシーズンから3か4店舗の小さな店が買い付けてくれて、関係性が最も早く深まった国の一つなの。今もシーズンごとに成長を続けているのよ。初期のころは今よりもっと限られた生産数だったのに、私たちの物作りを深く理解し消費者に届けてくれた。一点物やビンテージに扱いに慣れていたのかしら。だってイギリスのブラウンズ(BROWNS)やECのマッチズ ファッション(MATCHES FASHION)、ミスターポーター(MR PORTER)などはどのように販売すべきかを最初の数シーズンは模索していたように見えたから。今では理解してくれているけどね。

——日本の顧客の印象は?

ボーディ:日本はクラフトやビンテージへの敬意を持っているし、時間をかけて物を大切に育てることや愛着を持つ意識が強いから、「ボーディ」の価値を見出してくれたんじゃないかしら。本当は3月に初めて日本に行く予定だったのにキャンセルになってしまったから、次の機会に期待しているわ。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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