企業が期ごとに発表する決算書には、その企業を知る上で重要な数字やメッセージが記されている。企業分析を続けるプロは、どこに目を付け、そこから何を読み取るのか。この連載では「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)の著者でもある齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、企業の決算書やリポートなどを読む際にどこに注目し、どう解釈するかを明かしていく。今回はZOZOの決算からEC事業の強みと注意すべき点を解説する。(この記事はWWDジャパン2020年9月14日号からの抜粋です)
今日はZOZOの動きを見ていきましょう。2020年3月期通期と20年第1四半(4〜6月)期の決算です。
注目すべきは、引き続きの単価の下落と、それに対する物流関係経費のインパクトです。このコロナ禍でどこもECを強化する動きが活発ですが、私はグロス(総額)ではなく、出荷1件当たりの採算に注目することが大事だと思います。
四半期ごとの出荷単価を見てみましょう(下表)。19年度第1四半期はZOZOARIGATOの影響で1回下がってまた持ち直しているので、第3、第4四半期を比べた方が適切です。すると前年、前々年と比べても、単価が下がっているのが分かります。

出荷単価、いわゆる客単価に当たる1回当たりにお客さんがいくら買ったかという数字が、第3四半期で6.3%減、第4四半期で12.5%減という落ち込みなんです。平均商品単価でも、第3、第4を見るとそれぞれ5.6%と10.7%下がっている傾向にあります。
20年3月期通期の出荷単価は8292円でした。そして、平均商品単価が3946円です。いろいろなファッション商品を扱っているのに、平均にしたら3900円にしかならない。そこまで下がってきたというのに驚きました。
20年度の第1四半期に関しても、やはり下がってます。平均商品単価が初めて3500円を切りました。この期に関しては6月が含まれるので、出店ブランドがコロナ禍で値下げを先行したのと、本セールの前倒しもあったということで、単価が下がったという説明をしています。
取扱高および出荷件数は増えているのですが、単価が下がっています。その分、セット率が上がっているかというと、ここ2〜3年はほぼ2.1程度で高止まりしている感じを受けます。ですから、単純に平均商品単価が下がっているという傾向が見られます。
出荷1件当たりの単価が下がると、物流経費のインパクトは大きくなります。
19年9月9日号でも解説しましたが、配送料や商品のピッキングコストといった荷造運賃は何個出荷しようが、1件当たり例えば500円なりが一律でかかってしまいます。1000円の物を出荷しようが、1万円の物を出荷しようが一緒なんです。1000円の商品の出荷に対して、その都度例えば500円の費用がかかるとしたら?出荷1件当たりの単価が下がることのインパクトがお分かりいただけると思います。
一方、インパクトが少なくなったところもあります。面白いなと思ったのは固定費である倉庫の賃借料です。実はここのところZOZOは未来の計画のために結構たくさん倉庫を借りていて、一時的にその家賃が負担になっていました。ところが、コロナ禍でたくさんのブランドがZOZOでの販売に注力すべく、在庫を結構集中させてきたものですから、それらの倉庫がいっぱいになるくらい商品が来たそうです。なおかつ出荷量も増えたので、出荷1件当たりの家賃は19年度と20年度の第1四半期で比べると22%も少なくなっています。
同じ物流経費といっても、例えば100に対応できるスペースに対して、この先200までやる計画ということで、一気に200を借りるんですけど、出荷量は150までしか伸びないという段階があるんです。家賃という固定費が上がるので、1件当たりで考えると単価は上がってしまいます。その増やしておいた分を、今回のコロナ禍の需要増でペイするようになったということですね。

実際に「ゾゾタウン」の通販事業だけの1件当たりの利益率を推計してみました(上表)が、17年3月期までは、出荷単価に対して、安定して10%以上あったのに、18年度第4四半期は3.2%まで落ち込んでいました。しかし、直近では9.5%ぐらいに回復しています。
利益を出すために、広告宣伝費やポイント関連費用を絞っているのも分かります。
このように、規模の拡大と共に、商品の平均単価は下がり、送料を含む物流費が上がる傾向にある通販市場では、最大手のZOZOとて、利益率を高めるのが難しくなっていることを痛感しました。
ZOZOの決算書を見ると店舗とECの損益構造の違いがあらためてよく分かります。店舗の場合は、家賃が諸々込みでも売上高の15〜20%ぐらいかかるのですが、それがまずかかりません。もちろん倉庫の賃料はかかりますが、都心に店舗を構えるほどではありません。
その代わりに荷造運賃や物流関連費用のインパクトは大きいです。しかし、全部足しても15%にはなりません。人件費も店舗では売上高の15%近くかかっていると思いますが、ZOZOの場合はアルバイトなどを含めても10%に満たないくらいです。つまり1人当たりの生産性が高いんです。ECの損益構造の方が優位に見えます。
「送料無料」は真剣に検討すべき
ただし、出荷1件当たりの採算性を考えないと、ECが拡大して売り上げが伸びているのに、儲からないという企業がたくさん出てくるのではないかと思います。EC売上高が大きくなればなるほど、経営に与えるインパクトも大きくなりますから。1件当たりいくら以上の買い上げならば、送料を無料にしていいのか。真剣に考えないと、むしろ損失となることもあるでしょう。今後、さまざまな企業で大きな問題として顕在化するのではないかと危惧しています。
さて、今後のZOZOの注目ポイントとしては、サービス事業の強化です。直近の決算発表では、業界のデジタルシフトに合わせて、いかにテナント企業に協力していくかという話をしていました。具体的にはZOZOで売っている商品が、そのブランドのどこの店舗に在庫があるかを表示させるような仕組みの提供を始めるようです。
こうしたサービス料の売り上げってイコール粗利です。開発費はかかりますが、在庫もなく、非常に収益性の高いビジネスモデルです。もちろんメインはあくまでもECの商品出荷だと思いますが、アマゾンがプラットフォームを他社に提供するビジネスで収益を確保しているように、ZOZOも今後はサービス事業に軸足を移しそうな感じがしています。
次回(10月12日号)はコロナ禍の小売りで注目していることについてお話しします。
最近気になっているのは
「ワークマンのアプローチ」
連載Vol.10(1月13日号)で取り上げた絶好調のワークマンの躍進の立役者、土屋哲雄専務が語る、同社の舞台裏がよく分かる書籍を読みました。ワークマンはもともと、低効率ながら、手堅く儲ける原石的な会社ではありましたが、革新が起こるときには、成功体験にとらわれない、異業種から参画する辣腕の顧客目線の「ヨソ者」による発想の転換が必要だということをあらためて痛感させられました。事業の強みに顧客目線の切り口でスポットライトを当てることで、まだまだブルーオーシャンはありそうです。

齊藤孝浩/ディマンドワークス代表 プロフィール
1988年、明治大学商学部卒業。大手総合商社アパレル部門に勤め10年目に退職。米国のベンチャー企業で1年勤務し、年商100億円規模のカジュアルチェーンへ。2004年にディマンドワークス設立。ワンブランドで年商100億円を目指すファッション専門店の店頭在庫最適化のための人材育成を支援。22年4月、明治大学商学部特別招聘教授就任。著書に「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)。「5月に発売した『図解 アパレルゲームチェンジャー』(日本経済新聞出版)の第4章ではワークマンのビジネスモデルの優位性をその他のチェーンストアと比較し解説しています。ワークマンは本文にもあるようにFC方式を採りますが、しくみは違えど、一般のチェーンストアでも学べる本部と店舗の関係性のあり方があります。どんな共通目標を成果報酬の対象にしたらよいのか、その答えは、FCでも、直営でも変わりません」