ファッション

小売業の熱気を伝える エディターズレター(2020年7月22日配信分)

※この記事は2020年7月22日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

小売業の熱気を伝える

 「セシルマクビー」の全店撤退を発表したジャパンイマジネーション・木村達央社長のインタビューを読んで、平成ギャルブームの熱気を思い出した。全盛期を振り返って次のように語っている。

 「地方に『セシル』をオープンすればかなりの行列ができ、救急車が出動するような事態もあった。セールや福袋の販売時もビックリするくらいお客さまに来ていただいて、渋谷109の福袋の販売では宮益坂まで行列が続いたこともあった」

 確かに全盛期のギャル系ブランドには凄まじい熱狂があった。渋谷109の店内は毎日がイベントのように賑わい、バックヤードから運ばれた服が奪い合いになるような場面も目撃した。人気ブランドのレジはすぐにお札でいっぱいになる。よく売れるというだけではない。10代の女子高生たちがお小遣いを握りしめて、折り畳まれた千円札を差し出すため、重ねるとかさばるのだった。

 記者としては、目の前で大きなうねりが起きている現場の取材が好きだ。マルキュー全盛期の熱狂だけでなく、日本初上陸ブランドのオープンや正月の初売りセールの行列もたくさん取材した。お客さんの興奮がこちらにも伝わる。あるいは長年親しまれた百貨店の最後の営業日には別れを惜しむ大勢の人が訪れ、インタビューすれば時には涙を流しながら思い出を話してくれる。現場で目にしたディテールを細かく描写し、読者が追体験できるような臨場感のあるリポートを心がけてきた。

 ところが、デジタルの時代になって、この消費の現場が見えづらくなった。消費の大きなうねりはリアルの売り場ではなく、スマホの中で起きている。企業が発表する数字やSNSのコメントは見ることができるが、消費者の熱狂や肉声を伝えることは難しくなった。

 スポーツ記者はアスリートにインタビュー取材するだけでなく、試合などのパフォーマンスの現場も取材しているはずだ。同じように小売業を取材する記者も、ショッピングの現場をつぶさに観察したい。インタビューはインタビューで発見が多いけれど、自分の目で出来るだけ物事が動く瞬間を見てみたい。

 コロナ禍においては、人々が集まって熱気を生むような売り場の取材は難しい。でも試行錯誤が続くデジタル上では、さまざまなドラマが起きているはずだ。売り場の取材とは違った方法で、携わる人たちの息づかいや熱気を伝える方法はないか。「セシルマクビー」の記事に時代の流れを感じつつ、そんなことを考えた。

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