ファッション
連載 ランジェリー業界のゲームチェンジャー

ランジェリー業界のゲームチェンジャー vol.7 慶⼤院の仏⽂から転⾝ 中国でアワードも受賞した「マイミア」神成舞

 下着業界はファッション業界に比べるとメディア露出が少なく、またサイズの展開が多いため、在庫管理が複雑、生産工程で使用する資材が多い、生産ロットが大きいなどの理由から新規参入が難しいといわれてきた。大手の下着メーカーやアパレルメーカーによる市場の寡占によってなかなか新陳代謝が進まない印象だったが、ここ数年でD2Cブランドが増加している。また、異業職種からのデザイナー転身やSNSを通じたコミュニティーの活性化など、下着業界では30代の女性を中心に新たなムーブメントが起こっている。下着業界に新風を吹き込むゲームチェンジャーらにインタビューし、業界の今、そして今後の行方を探る。

 第7回に登場するのは、サテンとリバーレースを組み合わせた独自の世界観のランジェリーで注目を集める「マイミア(MAIMIA)」の神成舞・代表兼デザイナー。ブランドデビューからわずか1年半で上海のランジェリー資材見本市において「ヤングレーベルアワード」を受賞した後、自社ECをはじめ都内百貨店に常設コーナーができたり、地方の有力専門店で取り扱いが増えたりと販路を広げ、頭角を現している。

――コロナ禍の3〜7月に大きな変化があったそうですね。

神成舞代表兼デザイナー(以下、神成):これまでは自分をさらすことが苦手でしたが、外出自粛要請中はお客さまとの接点がなくなってしまったため、重い腰を上げてインスタライブを行いました。それを機に自社ECの売り上げが約10倍となり、届けたいところにダイレクトにアプローチできたと実感しています。ただ、地方のお客さまからは直接商品を見たいという声を多くいただきました。今後も私が地方に出向いてポップアップストアを開くことができない可能性が高いため、地方の専門店に営業をかけて福岡で2店舗、大阪で1店舗、取り扱いが決まりました。いずれもコロナに背中を押されたようなものですが、もっと早くやるべきだったと反省しています。都内では7月1日から西武渋谷店の、下旬からは西武池袋本店のランジェリー売り場に常設されるようになりました。

――自社EC、百貨店、地方の専門店で人気商品や客層に違いはあるか?

神成:百貨店のポップアップのお客さまは、95%がインスタグラムのフォロワーで、「気になっているあの商品を見たい」と来店してくださいますから、売れ筋は自社ECとほとんど変わりません。一方で地方の専門店は商品のセレクトや接客にオーナーさまの意向が色濃く反映されますから、それぞれ個性が出ます。私が獲得できない層へ広げていってくださるのでありがたいです。

――ランジェリーデザイナーを目指したきっかけは?

神成:エスモードジャポンでデザインの授業の通訳をしていたのですが、デザイナーのジョン・ガリアーノ(John Galliano)やステファノ・ピラーティ(Stephano Pilati)のチームで働いたことのあるフランス人講師の熱意と学生たちの情熱に囲まれて仕事をしているうちに、「自分もデザインをやりたい」と強く思うようになりました。今思うと、海外生活や旅で見聞きし感じたことを表現する場を欲していたのだと思います。洋服は自分の着たいものがあったけれど、ランジェリーにはなかった――それがランジェリーを選んだ理由です。

20代でも頑張れば買える“日常使いの最高峰”を目指したい

――ブランドを立ち上げた経緯は?

神成:エスモードジャポンの通訳をしながらバンタンデザイン研究所キャリアカレッジで1年間ランジェリーの基礎を学び、商品の開発に1年半費やしました。最も大変だったのは工場探しとブラジャーのパターンでした。電話とメールで日本中の工場に連絡し、やっとオーダーできる工場を見つけ、それからは工場長と二人三脚で「マイミア」のブラジャーのパターンを作り、インポートのような軽さでありながら華奢な日本人女性に合うブラジャーにすることを目指しました。28歳のとき、最初のコレクションが完成するタイミングで会社を設立し、エスモードジャポンの通訳は辞めました。そもそも起業したいとか、ブランドを立ち上げたいという気持ちはなかったのですが、自分が作りたいものを形にしようとしたところ、ブランド設立に至りました。副業という選択肢もあったかもしれませんが、ビジネスとして確立させる覚悟を決めて法人化しました。ブランドに専念したことでスピード感のある展開ができたと思います。

――ブランドコンセプトは?

神成:“服を着たあなたと裸のあなたの間の、もう一人のあなたをインスパイアしたい”というのがブランドコンセプトです。服は他人の視線がありますからどうしても社会性を帯びますが、人の目に触れないランジェリーにはそれがないし、裸以上になりたい自分になれる。身にまとう物により力を得て、今までとは違うことを感じられたり、行動できたりする力を得てほしいと思います。物作りにおいては“日常使いの最高峰”を目指しています。オートクチュールメゾンで使われているような最高品質のレースや素材を使って、品質も高いが20代でも頑張れば買えるランジェリーを提供したい。日常にある女性の人生の一瞬を演出してこそ「マイミア」のランジェリーの価値があると思っています。

――「ヤングレーベルアワード」を受賞して変化は?

神成:受賞はブランドを立ち上げてから1年半たったときでした。それまではデザインやクリエイションの仕事をした経験がなかったので、デザイナーとして表に出ることに引け目を感じて自信がもてませんでした。ただ、世界のブランドを見てきた審査員にデザインを評価されたことで、自分をデザイナーとして認められるようになりました。副賞で「パリ国際ランジェリー展」に出展でき、世界にアピールする場を提供されたのも大きいですね。最近、海外からの問い合わせも増えていますから、そのチャンスを生産的に生かさなければと思っています。

――これからの目標は?

神成:ブランドを立ち上げるときに目標にしていた、アクセスのよい百貨店での常設展開やパリの展示会出展が迅速にかなうことになりました。次の目標は、さらなるステップアップのために会社のオペレーションの効率や精度を上げて強固なチームをつくっていくことです。大きな夢としては、海外の避暑地などでポップアップストアをやりたいですね。

――下着業界はどうなって欲しい?

神成:プレーヤーがどんどん増えて欲しいと思います。洋服と同じくらいランジェリーも選択肢が増えるといいですよね。ニーズを満たすもの、問題を解決するものばかりではなく、新しいライフスタイルや価値観を創出できる多様性に溢れたランジェリーが見たいし、私自身もそれを生み出せるように頑張ります。

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

原宿・新時代 ファッション&カルチャーをつなぐ人たち【WWDJAPAN BEAUTY付録:中価格帯コスメ攻略法】

「WWDJAPAN」4月22日号の特集は「原宿・新時代」です。ファッションの街・原宿が転換期を迎えています。訪日客が急回復し、裏通りまで人であふれるようになりました。新しい店舗も次々にオープンし、4月17日には神宮前交差点に大型商業施設「ハラカド」が開業しました。目まぐるしく更新され、世界への発信力を高める原宿。この街の担い手たちは、時代の変化をどう読み取り、何をしようとしているのか。この特集では…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。

メルマガ会員の登録が完了しました。