フォーカス

「現代ビジネス」「FRIDAYデジタル」月刊1億PV達成の立役者が語る開発の裏側

 講談社はデジタルメディアの研究・開発に特化した100%子会社のKODANSHAtech合同会社(以下、tech社)を設立した。設立にはtech社の前身として2018年6月に発足した通称「techチーム」がこの2年間で実績を残してきた背景がある。(7月27日号の「WWDジャパン」の雑誌特集で掲載した記事を再編集しています)

 同チームはまず「現代ビジネス」で継続的なデジタルの改善を行い、19年8月に月間1億PVを達成。さらに同チームが一から立ち上げた「FRIDAYデジタル」も開設から約1年半で月間1億PVを達成した。その技術的知見を生かし、また講談社のメディアを横断して、さらにそれぞれを伸ばすべく設立されたのがtech社だ。「フラウ(FRaU)」「ヴィヴィ(ViVi)」「ヴォーチェ(VoCE)」といったファッション、ビューティ分野でもその知見が発揮されおり、成果を上げている。その中心人物は、同社の長尾洋一郎ゼネラルマネージャーだ。自ら編集者として携わっていた「現代ビジネス」で手探りの状態からウェブサイトを構築していた。

 当時を振り返る長尾マネージャーは「総合出版社というのは編集長の意向が強く、各編集長が社外のベンダー会社に業務委託することが多かった。いろんなベンダーと組むことは否定しない。ただ、デジタルを成長させる上で、ある程度基本的なやるべきことは決まっている。業務やコストの重複は無駄だと思った。さらに社内の自分たちが技術を持っているべき。編集者はパッケージ屋でもある。雑誌の場合はコンテンツを作るだけでなく、紙の斤量を決めるなど一連の実物のパッケージで商材を生み出す。読者がどう受け取り享受するかを考えるまでが仕事。デジタルでやりたいことだけ伝え、契約しているベンダーに丸投げでは仕事をしているとは言い難い。デジタルでどういった施策が出せるのか、パッケージで考えられる状態にしておくことが重要」と話す。

 そのような技術的なことのみならず、エンジニアと編集者のコミュニケーションの重要性も唱える。「エンジニアと編集者の両者が腰を据えて関係を築いた方がよいのではと思ったのも、会社を設立したことの理由の一つ。それぞれの立場でやりたいこと、やるべきことを理解できる通訳機能が必要だと思った。編集者はあれもこれもやりたいと言うが、それを真に受けて全てやってしまうと心理的に疲弊する。お互いが結果にも満足できるポジティブな関係を築くべき」と長尾マネージャー。実際にtech社がそれぞれのメディアと取り組む際にまずは、ユーザーに届けるべき価値は何か?何を大事にしてきたのか?という価値基準を明確にし、共有することだという。「それによってやるべき優先順位が見えてくる」。

 そもそも「FRIDAYデジタル」が1年強で1億PVを達成した時点で「techチーム」に対する期待も高まり、社内の他のメディアからも相談が来るようになっていた。女性誌やビューティ誌も手掛け、「フラウ」のウェブサイトは月間30万PVから1200万PVへと飛躍させた。「ヴォーチェ」もこの秋にリニューアルを控えている。「あまり手の内は明かせないが、ビジネス系と女性誌などメディアの特性によって伸ばし方が異なる。加えてPV増だけが媒体の伸長ではない。PVの成長には限界がある。たとえば『フライデー』は写真を軸に閲覧のしやすさ、速さ、軽さといった動作性を意識して設計している」。

 エンジニアを採用する際、講談社として採用してもいいのではという意見もあったという。「エンジニアは専門性が高い。講談社に入社した場合、人事によってほかの部署に配属になる可能性はゼロではない。そのため合同会社を設立することで評価体系を別で作り、人事プロセスを構築した。どの分野でもエンジニアは引く手あまたで、エンジニアが全員フリーランスの業務委託で来てもって、事業を拡大させていくのはしんどい。幸福な働き方ができるように契約条件もある程度柔軟に設定し選択できるようにしている。エンジニアには共感を持って参加してほしい」。

 またこのtech社が編集部門の中にあるのも大きいという。「コンテンツを技術によって届けるわれわれは、日々編集者のマインドを見ていく必要がある。当初は編集者でもある私が通訳者になっていたが、関係性を築いていくうちにエンジニアも編集側がやりたいことが分かるようになってきた。編集部も人任せではいけない。『それは違うでしょう』と言えなければ。それぞれのカルチャーが混合し、衝突し、実感しないと有機的なコンテンツにならない」。

 現在、試行錯誤しながら成功体験を積み重ねている。「いわゆる一般的なIT技術会社は、箱はあるけどコンテンツはない。一方、われわれはコンテンツを最大化させることを自分たちで考えることができる。コンテンツにおいて、長年出版社としての外部との信頼関係もあるし、クリエイターにも信頼されている。それが強みだ」。