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まだ、あなたが知らないニューヨーク最新トレンド BLMが雑誌とブランドを裁くSurviving BLM

 ニューヨークのファッション業界で活躍するクリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載第10回。普段は、新しいレストランを開拓しながら情報交換する2人だが、ロックダウンが始まった3月からは、Zoomミーティングに切り替えた。6月8日から少しずつビジネスが再開しつつあるニューヨークではあるが、レストランの屋内でランチができるのは秋頃になりそう。“You’d Better Be Handsome”では、トレンドに敏感なレイチェル(Rachel)を交えて、ニューヨークのトレンドや新常識についてトーク。今回のテーマは、避けては通れない話題、ミネアポリスから全米へ、そして世界各地へと広がりを見せるBLM(Black Lives Matter=黒人の命は大切)や人種差別に対する抗議運動と、それがファッション業界にどう影響しているのか、そしてどう対応していくのかについて。

スティービー:ニューヨーク市も6月8日から待ちに待った再開第1段階に入って、街が動き出してきたけれど、毎日あちこちで抗議活動が行われているし、ムーブメントはどんどん大きくなってきている。

メイ:最初のころに暴動が起こったことで、コロナのロックダウンのときにはただ閉めていただけの店やレストランまで、ガラスを割られないように木の板を張ったりして、なんだかマンハッタンは悲しい景観よ。

スティービー:今回のミネアポリスの事件は、結果的に人種問題のティッピングポイントとなったね。今まで我慢してきたことが溢れ出したという雰囲気。沈黙は暴力とまで言われている今、当事者だけが訴えてもこれまでと同様、変革はないことにみんな嫌気がさしたのだと思う。デモに参加しているのも、ニューヨークでは黒人よりも白人が多いように見える。

メイ: 今回のことでいくら賛同してもそれは行動として伴わなければダメで、この件に関連して、これまでの行いを改めたり、責任をとって辞任に追い込まれたりするケースもある。ファッション界もかなり揺さぶられている。

人種差別の指摘を受け、
編集長ら続々辞任へ

メイ:日々、関連ニュースが入ってくるけど、雑誌のトップが辞任に追い込まれているのには驚いた。まずはコンデナストの「ボナペティ(Bon Apetite)」の編集長辞任かな。

スティービー:辞任したというか、辞任に追い込まれたアダム・ラポート(Adam Rapport)は、元「GQ」のファッションディレクターだから、食の雑誌に移ってからもファッション業界とのつながりが強い人だった。16年前のハロウィンで、プエルトリコ人を装って顔を茶色く塗ったときの写真が今回浮上。追い討ちをかけるように、「ボナペティ」のビデオチュートリアルには白人しか起用されていないといった告発が出てきて辞任につながった。

レイチェル:16年前って、今とは価値観が違ったときだし、気の毒な気もするけど、その写真をきっかけに、コンデナストにおける雇用も指摘され始めた。黒人のスタッフの人が、白人スタッフより仕事が多いのに給料が低いとか。どんどん出てきている。「ボナペティ」の料理チュートリアルは、自粛中かなりお世話になっていたんだけど、確かに白人しか出ていなかったかも?

メイ:続いて2010年に発足したブログ「マン・リペラー(MAN REPELLER)」で大人気になったリアンドラ・メディン(Leandra Medine)も辞任。ファッションショーでもいつもフロントローで、おしゃれスナップの常連だったのにね。裕福な層ばかりを相手にしているコンテンツは以前から問題視されていたけど、今回のムーブメントに対する彼女の賛同コメントに対しては、400件以上の不満不平のメッセージが。さらに「マン・リペラー」で受けた人種差別などを元スタッフが続々とツイート。同じ頃、アメリカでは人気のウェブマガジン「リファイナリー29(Refinery 29)」の編集長、クリスティーン・バーベリック(Christine Barberich)も辞任した。このウェブマガジンは、特に最近はダイバーシティーにもフォーカスしていたように外からは感じたし、ややフェミニスト的な立ち位置にあったのにもかかわらず、内部は違ったってことかな。#BlackAtR29というハッシュタグまでできてしまったらしい。こちらもマガジン生き残りのための辞任てところかな。

スティービー:「ビジョネア(VISIONNAIRE)」の創設者として、その後「Vマガジン」をやりながらも「ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)」のクリエイティブ・ディレクター、そして現在は米「エル(ELLE)」のクリエイティブ・ディレクターであるスティーブン・ガン(Stephen Gan)も、黒人スタッフやモデルに対しての差別を指摘されている。

レイチェル:この手のニュースはしばらく続きそうよね。他の雑誌やブランドでも、黒人スタッフは幹部であっても給料が同じポジションの白人よりも大幅に低かったなどの指摘も出ていて、米「ヴォーグ(VOGUE)」編集長のアナ・ウィンター(Anna Wintour)もこれまで黒人スタッフにちゃんと対応してこなかったとかなりたたかれているし、本人もそれについて謝罪をしている。

スティービー:さらに驚かされたのは、その謝罪について元「ヴォーグ」エディターで黒人のアンドレ・レオン・タリー(Andre Leon Talley)がインターネットラジオの「シリウスXMショー(Sirius XM show)」上のインタビューで、「アナはイギリス人で、植民地の環境から抜けられないし、抜けることはない。彼女のコメントそのものが、白人の特権だということが分かっていない」と厳しくコメントしている。先月にタリーが発表した自伝「The Chiffon Trenches」でも、アナ・ウィンターに受けたひどい扱いについて細かく書かれていたけど。

メイ:このタイミングで、「ハーパーズ バザー」は153年の歴史のなかで初めての黒人というか、白人以外の編集長の就任を発表。サミラ・ナサール(Samira Nasr)は、ニューヨークでは知られた人で、もとをたどれば「ヴォーグ」のグレース・コディントン(Grace Coddington)のアシスタントで、「エル」や「インスタイル(In Style)」「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)」などでファッションディレクターを経て就任した。キャリア的にも適任で、レバノン人の父とトリニダードトバゴ出身の母のもとに、カナダで生まれたという経歴も、ダイバーシティーが叫ばれる今、有利に動いたのかも。若返った感じも雑誌にはプラスなはず。

勝敗を分けるブランドの対応

スティービー:今回のムーブメントは、黙っていることが罪と繰り返し言われているから、ブランド側も気をつけながらも、自分たちの立ち位置をはっきりさせるためにメッセージを発信しているし、寄付も積極的に行なっている。ただ、それまでの態度や行動が伴っていないと逆に告発されてしまうという、ソーシャルメディアはまるで公開裁判のよう。

メイ:ブランドの多くは、黒人差別をなくす努力をするという声明を発表すると同時に、BlackLivesMatter(黒人の命は大切)基金をつくり、黒人差別と闘う団体に寄付をしている。例えば人気コスメブランドの「グロシエ(GLOSSIER)」は、100万ドル(約1億円)を寄付すると発表。50%は黒人差別を撤廃する団体へ、残りの50%は黒人が経営するビューティビジネスに助成金として配る。発表したのが5月30日でジョージ・フロイド(George Floyd)氏の死から5日以内と決断が早いのがポイント。

スティービー:アディダス(ADIDAS)は、これからの4年間で米国の黒人コミュニティーに対して、1億20万ドル(約106億円)を寄付すると約束。毎年50人に大学進学の費用を全額出すとも。今後、米国内での30%の新しい雇用は、黒人またはラテン系の人にするという声明も出している。

レイチェル:ソーシャルメディア上では、ダイエット プラダ(DietPrada)をはじめ、ある意味の活動家たちが、「セリーヌ(CELINE)」、サステイナブルなビジネスで知られる「リフォメーション(REFORMATION)」、全米で展開されるライフスタイル系「アンソロポロジー(ANTHROPOLOGIE)」といったブランドにおける反黒人的な文化を内部告発をもとに次々に発信しているし。それによって「リフォメーション」のCEOが辞任に追い込まれることにもつながった。

メイ:一方でナイキ(NIKE)やツイッター社は、“ジューンティーンス”と呼ばれる6月19日を記念日にすると発表。この日は1865年 に最後の奴隷制度が廃止された記念すべき日で、“フリーダムデー”とも呼ばれているらしい。行動力の早さにリスペクトが集まるわけだね。

アメリカだけの問題ではない
人種差別

スティービー:今回のことに至る前にも、黒人やアジア人に対する差別を指摘されていたブランドもあるよね。今年の頭に、「プラダ(PRADA)」が、架空の生物をイメージしたというキャラクターの人形がブラックフェイス(黒人に扮して顔を黒く塗る)表現だと批判されて問題になったのは記憶に新しい。すぐにその人形を撤去して謝罪し、今後人種差別がないようにスタッフをトレーニングすることと、ダイバーシティーオフィサーを外から雇うことを約束して終わったけど、数カ月後の今だったらそれじゃ済まなかったかもね。

レイチェル:「グッチ(GUCCI)」も昨年、ネックの部分が黒人の口に見えるデザインのタートルネックセーターを発表して、このアイテムは“レーシストセーター”というニックネームがつけられてしまった。

スティービー:「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE & GABBANA)」がキャンペーン上で、中国人モデルにパスタを箸で食べさせるシーンが炎上したのも記憶に新しい。

メイ:自分とは異なる視点からものを見ている人たちがたくさんいるということを認識し、普段から人種差別に対する感覚を鍛錬しておかないと、気づいたときにはすでに遅し、みたいな。今はなんでもネットに載って世界中に配信されるわけだし。セカンドチャンスがもらえるとは限らない。同じようなミスを犯した政治家もたくさんいるけど……。ファッションブランドも、高いプライスを付けて付加価値を売っているわけだから、みんな厳しい目でチェックしている。

レイチェル:イタリアに限らずだけど、ブランドは世界中で売られるわけだし、そこを意識してデザインしないと危険。逆に言えば、アジアにも黒人や有色人種に対しての差別はあるし。そういう部分も指摘され始めるかも?

スティービー:そういえば「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」は落書きされたロスの店の看板を、そのままインスタグラムにアップしたり、そういう繊細なセンスは印象に残る。

レイチェル:おーって思ったのは、韓国の人気グループBTSは、ファンたちにBlackLivesMatterに寄付することを提案し、すでに100万ドル(約1億円)を集めて、このまま200万ドル(約2億円)に届く勢いらしいよ。BTSの人気は世界的だけど、そのあたりの行動力というか、リーダーシップが素晴らしい。

メイ:インスタだけで、200万人の“いいね”があるから、一人1ドル(約106円)寄付すれば200万ドルなんて一瞬で集まる。すごい影響力!

急ピッチ、ハリウッドの意識改革

メイ:テレビと映画業界も、BlackLivesMatterで揺れている。

レイチェル:衛星・ケーブルTV放送局のHBOが、映画「風と共に去りぬ(Gone with the Wind)」をプラットフォームから削除したのが話題になっている。これが人種差別的な映画だとは考えたこともなかった……。時代背景そのものが人種差別だらけだから。

スティービー: 1989年から放送されていた番組「コップス(COPS)」もキャンセルになった。毎回本物の警察が、怪しげな人を逮捕するシーンを放映していたわけだけれど、本当のところ悪いことしたかどうかも分からないのに、警察が武力を行使しているシーンを映していた。こんなに警察の暴力が問題になっている今、不要な番組であることは間違いない。

メイ:ちなみにロスの抗議運動にはいろんなセレブも参加していたみたいで、ちょっと気になった。

レイチェル:最初の方だと思うけど、ハリー・スタイルズ(Harry Styles)、ジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)、マドンナ(Madonna)もいた。みんなマスクとサングラスをしていたらそんなに目立たないから、ちょうどいいのかも?

スティービー:こんなときなのに、何もしていない黒人セレブもたくさんいるけど。政治的になりたくないのか、ビジネスに影響が出るのか、そのへんのことはもう少し時間が経ってからじゃないと分からない。

メイ/クリエイティブディレクター : ファッションやビューティの広告キャンペーンやブランドコンサルティングを手掛ける。トップクリエイティブエージェンシーで経験を積んだ後、独立。自分のエージェンシーを経営する。仕事で海外、特にアジアに頻繁に足を運ぶ。オフィスから徒歩3分、トライベッカのロフトに暮らす

スティービー/ファッションエディター : アメリカを代表する某ファッション誌の有名編集長のもとでキャリアをスタート。ファッションおよびビューティエディトリアルのディレクションを行うほか、広告キャンペーンにも積極的に参加。10年前にチェルシーを引き上げ、現在はブルックリンのフォートグリーン在住

レイチェル/プロデューサー : PR会社およびキャスティングエージェンシーでの経験が買われ、プロデューサーとしてメイの運営するクリエイティブ・エージェンシーで働くようになって早3年。アーティストがこぞってスタジオを構えるヒップなブルックリンのブシュウィックに暮らし、最新のイベントに繰り出し、ファッション、ビューティ、モデル、セレブゴシップなどさまざまなトレンドを収集するのが日課

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