フォーカス

出版・メディア業界がコロナ禍で見た光明と課題

 コロナ禍でデジタルシフトが進む中、多くの雑誌・メディアが新しいビジネスを模索し、新施策を始めている。しかしながら、それらの試み全てが成功するわけではないし、周りと同じことをしても生き残れない。時流を読み、新しいことにチャレンジする精神も大切だが、各媒体の“らしさ”を追求した、独自のコンテンツを生み出していくことの重要性を改めて認識すべきだろう。ここでは、出版・メディア界のニュースやさまざまな雑誌・メディアのキーパーソンたちへの取材から見えた、今後に向けての光明と課題をピックアップして紹介する。(この記事は「WWDジャパン」7月27日号の雑誌・メディア特集の記事の抜粋です)

動画コンテンツに活路 媒体の独自性がキモ

 コロナ禍で各媒体が積極的に取り組んだものの1つが動画だ。すでに動画を取り入れているメディアは少なからずあったが、コロナ禍でライブ配信を中心にさらに加速。大手出版社では、講談社の「ViVi」が“ViViモデル”を起用したライブ配信企画「ViViフェス ライブ」をスタートし、小学館の「美的」は「美的.com」「美的GRAND」3媒体の編集長たちがニュース発信をする動画企画“美的サマーニュース”を立ち上げ、「小学館アドポケット」内で公開する。集英社の「シュプール」はコロナ禍で店頭でのタッチアップが難しいビューティ業界に対する解決策として、広告メニュー「チュートリアルBeauty動画プラン」をスタート。新製品やおすすめ商品の魅力・使い方を訴求する同プランを2020年末までの実施案件限定でスタートしている。

 各社が動画に本格的に着手し始めたことで、コンテンツが多数乱立している。その中で視聴される動画とは、どのようなものなのか。動画事業を軸に拡大しているワンメディアの明石ガクト代表取締役CEOは、メディアビジネスにおいては「調達」「加工」「配信」の3つのレイヤーに分かれるとし、中でも「調達」が重要であると説く。「動画の作り方という『加工』の部分はすぐにまねをされてしまうし、逆にうまくいっているところの真似をすればいい。『配信』に関しても今や、誰もが発信できる。そんな中でファッションメディアで優位性があるなと感じるのは、ほかでは連れてこられないような、『このメディアだったら出るよ』というインフルエンサーなど。そういった人をいかに見つけられるかだと考えている。重要なのはどんな動画を作るかではなく、どんな人を連れてきて動画を作るかだ」。

「おうち時間」&「学び」の情報への需要が高まる

 自粛期間や、テレワークで効率的に仕事をすることが可能になり時間ができたことから、日常生活における「工夫」や新しいことに対する「学び」への意欲が世間的に非常に高まっている。そのような状況下で、集英社の「LEE web」での「新型コロナ私たちの工夫」といった企画や「おうち時間」系のコンテンツに加え、マガジンハウスの「ハナコ(Hanako)」による「ハナコカレッジ」、光文社の「ヴェリィ(VERY)」による「ヴェリィ アカデミー」、コンデナスト・ジャパンの「ワイアード(WIRED)」による「ワイアード ユニバーシティ」といった“学校”も多数スタートしている。特に“学校”での教育系コンテンツは、もともと予備校などでビデオ授業が行われていたように、デジタルとの親和性が非常に高い。このことは企業のウェブセミナーなどでの反響を見ても伺い知ることができる。さらには、コロナ禍で時間が取れるようになった人が少なからずいることで、学ぶことへのハードルが下がったことも要因となっているのだろう。

オウンドメディア化が加速 編集者・企業の取るべき道は?

 表は、ここ1年の雑誌・メディアの創刊(ローンチ)・休刊(休止)リストだ。これを見ると、意外にも創刊(ローンチ)が多いことに気づくが、出版社が新しいメディアを立ち上げているのかというとそうではない。休刊は基本的に出版社発の雑誌が中心なのに対し、創刊に関しては企業がオウンドメディアとして立ち上げているケースが大半を占めている。中でも「ユニクロ(UNIQLO)」の雑誌「LifeWear magazine」を元「ポパイ(POPEYE)」編集長の木下孝浩氏が手掛けたり、楽天の「アールエフ マグ」を元「ギンザ(GINZA)」編集長の中島敏子氏が手掛けたり、はたまたアーバンリサーチが自社メディアを小学館とタッグを組んで作っていたりと、編集者や出版社が絡んでいることも多い。

 この流れは当分続くのだろうか。ファッション誌やIT業界を経て、起業後はオウンドメディアの立ち上げや運営のほか、地方創生など「編集視点」で幅広く活動をしているPomaloの澄川恭子チーフ・コンテンツ・オフィサーは、企業のオウンドメディアについて「現在は、自社ブランドのブランディング向上に関与する内容であれば、自社ブランドのアイテムが必ずしも登場しないコンテンツでも配信している。ただ、今後は会員誌やPR誌、機内誌、企業が出版する雑誌など、企業専用にカスタマイズされた雑誌・メディアで、それ自体で収益を上げられるメディア=ブランドパブリッシングに変わっていくのではないか」と予測する。今後は企業のオウンドメディアが従来の出版社が発行していたメディアと肩を並べ、その裏で編集者が活躍する時代が来そうだ。