ファッション

福岡発の名店「マギークープ」が署名活動に加わった理由 「前シーズンの商品は旧作という考え方には疑問」

 5月14日に緊急事態宣言が39県で解除され、ファッション小売業も感染拡大防止に努めながら少しずつ営業を再開している。とは言え、客の間に以前のような消費マインドが戻ってくるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。ブランドやショップにとっては苦しい時が続く。そんな中で、「ユナイテッド ヌード」日本法人の青田行社長らは、「業種を限らない消費の活性化策」などを政府への要望として掲げ、署名活動を5月8日に立ち上げた。福岡発の名店セレクトショップ「マギークープ(MOGGIE CO-OP)」の三浦ふさこ社長、三浦直之オーナー兼バイヤーも、同署名活動の発起人グループに名を連ねる。イメージを大切にするセレクトショップのビジネスで、こうした活動を行うは難しい部分もあったはず。2人に話を聞いた。

WWD:「マギークープ」の現在の営業状況は?休業によって、春夏物販売の山場が飛んでしまったが?

三浦ふさこ社長(以下、三浦社長):4月8日から福岡3店、東京2店を休業していましたが、5月15日から福岡2店、東京1店の路面店は営業を再開しています。春夏コレクションはすてきなものばかりで、本来は店頭で確実に売れていくものでした。このコレクションを埋もれさせてしまうという点がすごく残念で、もったいなく感じています。店舗休業中もECは行っており、ブログなどで紹介した商品がECで売れるという流れはありました。でも、そのようにピックアップして紹介するものしかお客さまの目に触れさせることができないというのが本当に残念で。20-21年秋冬物に関しても一部のブランドからは「(コロナの影響で)生産できなくなったのでキャンセルさせてほしい」という連絡が入っています。連絡のないブランドでも同様の可能性はあるかもしれない。秋冬物も素晴らしいものばかりだったので、商品にならないということが非常に残念です。

三浦直之オーナー兼バイヤー(以下、三浦オーナー):路面店は15日に再開しましたが、どれくらいのお客さまが来てくださるか未知数です。署名活動の発起人である青田社長もおっしゃっていますが、お店を再開したから「ハイ、もう大丈夫」とはならないですよね。経済が回り始めるのはそこからまた時間がかかる。

WWD:署名活動の発起人グループとなったのはどういった考えから?

三浦オーナー:ファッション業界は、他の業界に比べて(政府への支援の要望などで)声を上げている方があまりいない。横のつながりが薄い業界だからという面はあると思います。われわれのようなセレクトショップも、取引先のメーカーやブランドとはつながりがありますが、小売業同士だとあまりつながっていない。そういった中で声を上げたい、どんどん発信したいと思っていても、「どうやって?」という部分もある。それで青田社長やセールスレップのイーストランド島田昌彦社長から署名活動の話があった際に、是非一緒にとなりました。

WWD:署名活動には政治的な部分も絡んでくる。イメージを売る商売として危惧する部分はなかった?

三浦社長:お客さまからクレームなどは全くありません。むしろ、オンライン署名サイトの賛同者のお名前に、私たちからはお声掛けしていない顧客の方の名前がどんどんあがってきて、本当にありがたいなと思っています。そういった顧客の中には、自営業で自主的な休業をされていた方もいますし、医療現場の最前線で働かれている方もいる。ファッション小売業を主体としている活動なのに、そのように賛同していただけることには感謝の気持ちでいっぱいです。だからこそ、業種を限らない経済活性化を要望として掲げて、できるだけあらゆる業種にとって公平になるようにしています。

WWD:5月11日には、青田社長らは自民党2議員と面会し、政府への要望を直接伝えた。その内容が今後補正予算などに反映されるかどうかはまた別問題だが、声を上げれば事態は徐々に動くということを感じた人は業界内にも多いだろう。

三浦オーナー:声を上げても何も変わらないだろうとこれまで思っていた人は多いと思います。だから、今回の件は業界にとっていいきっかけ。コロナショックはファッション業界に大きな被害をもたらしましたが、これまでは国もファッション小売業の実際の仕組みや流れをそんなには分かっていなかったし、金融機関にもわれわれのビジネスモデルが理解されていないと感じる場面は多かった。半年分を一度に発注する在庫の持ち方も、何度説明しても他業界と違うため(融資の相談などの際に)銀行に伝わりづらいと思ってきましたが、そういった業界特有の仕組みをこの機会に広く伝えることができるなら、ここがスタートになっていくと思う。アパレルは産業規模として小さくはないもの。われわれの産業について、政治家や省庁、金融機関の人に知ってもらういい機会になり得るのでは。

WWD:中小規模のファッション小売りは、独立独歩の意識が強く、政治に寄っていくようなことをよしとしない人がこれまで多かったと思う。

三浦オーナー:「初めて政治に興味を持った」「世界情勢や世界の中の日本を考えるようになった」といった声は周りでも聞きます。もともと僕達は選挙には必ず行っていましたが、今回のようにわれわれの業界のことを知ってもらおうと声を上げていくなら、権利であり義務としてちゃんと普段から政治家も選ばないといけないと感じています。コロナショックであらためて実感しましたが、ファッションビジネスは世の中が平和ででないと成り立たない。だからこそ、いい世の中を作ることに自分たちも参加していかなければならないと感じています。

WWD:販売機会を逃した春夏の在庫について、業界では大きな問題になっている。それらは今後どうしていく?

三浦社長:一定程度、セールはやらざるを得ないと思っています。ただ、春夏が終わったら在庫は全てキャリー品として扱うべきかは疑問です。次シーズン以降に新作として売ってもいいんじゃないかと思う。もともと、「シーズンが過ぎた商品は旧作」という考え方が好きではありません。ファッションビジネスは、「前シーズンの商品は古い」という風潮が強すぎる。シーズンが変わっても、いついつに出たいいものとして売っていきたい。常々そう思っていましたし、そういう価値観への理解が広がっていけばと思っています。

Editor’s Voice
「WWDジャパン」では、コロナショックに立ち向かうためにこれまでのファッション業界の常識や当たり前を取り払い、未来ある産業を作っていこうと動いているビジネスパーソンやクリエイターを取材しています。知恵を結集し新しいファッションビジネスを作っていくため、ご意見を press@infaspub.co.jpにお寄せください。取材希望の自推他推も受け付けております(取材を確約するものではありません)。

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