三陽商会の杉浦昌彦・社長(左)は高校時代からの親友である松竹の迫本淳一・社長(右)の協力を得て、翁格子をコート裏地に採用した。9月18日には2人で新「100年コート」の披露会見を行った
歌舞伎「勧進帳」の弁慶の衣装に用いられている翁格子は、太い線を翁、細い線を孫に見立てており、末永い繁栄を意味する縁起物だという。そんな伝統柄を三陽商会は日本製トレンチコート「100年コート」の新しい裏地として採用した。翁格子を元に開発した「三陽格子」のトレンチコートは、国内では来年1月ごろ、北米では来年秋から店頭に並ぶ。日本の着物の柄である翁格子と英国生まれのトレンチコート。異なる文化のデザインなのに、まるで以前から存在したもののようにマッチしているのが面白い。そして何よりも、親から子、子から孫へと3代に受け継がれるよう名付けた「100年コート」のアイコンに末永い繁栄を意味する翁格子を選ぶところに、三陽商会の強い意志を感じる。
目下のところ、三陽商会は背水の陣を敷いて、企業存続のために死力を尽している。売上高の半分を占めていた英「バーバリー(BURBERRY)」ブランドのライセンス事業が6月末で契約終了。同社は、「バーバリー・ロンドン(BURBERRY LONDON)」の後継に「マッキントッシュ ロンドン(MACKINTOSH LONDON)」、「バーバリー・ブルーレーベル(BURBERRY BLUE LABEL)」「バーバリー・ブラックレーベル(BURBERRY BLACK LABEL)」を刷新した「ブルーレーベル・クレストブリッジ(BLUE LABEL CRESTBRIDGE)」「ブラックレーベル・クレストブリッジ(BLACK LABEL CRESTBRIDGE)」を今秋から導入した。7月中旬から9月中旬までのわずか2カ月間で、「バーバリー・ロンドン」の約300店のうち263店を「マッキントッシュ ロンドン」の看板にかけ替えた。これだけの多くの新店が一斉に開店するのは前代未聞のことで、1年以上前から全国の施工業者や百貨店と連携を取って念入りに準備を進めてきた。新規ブランドは時間をかけて消費者に浸透を図るのが、三陽商会のような老舗アパレルの常道である。しかし今回の新規3ブランドに関しては、早々に結果を出さなくてはならない。バーバリー事業の数字が換算されなくなる16年12月期の業績予想は、売上高が850億円、営業損益が20億円の赤字の見通し(14年12月期は売上高1109億円、営業利益102億円)。痛手を最小限に抑え、18年12月期には売上高1000億円、営業利益50億円への巻き返しを計画する。秋冬商戦が本格化する10月以降には「マッキントッシュ ロンドン」の第2弾のテレビCM、「ブルーレーベル・クレストブリッジ」「ブラックレーベル・クレストブリッジ」で初のテレビCMを放映する。過去最大の巨額な広告宣伝費を投じ、一気に新ブランドを浸透させる考えだ。
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9月19日にオープンした三陽銀座タワー
9月19日、同社は銀座8丁目の中央通沿いに旗艦店「三陽銀座タワー」をオープンした。旧「バーバリー銀座店」跡を全面改装した大型店で、9フロア436坪にポスト・バーバリーとして位置付ける7ブランドを販売する。6階には冒頭の「100年コート」をはじめ、「サンヨーエッセンシャルズ(SANYO ESSENTIALS)」「サンヨー(SANYO)」といった自社ブランドを集めたフロアを設けた。オープン前日に会見した三陽商会の杉浦昌彦・社長は「当社は13年から『タイムレスワーク〜ほんとうにいいものをつくろう』という企業タグラインを掲げている。『100年コート』はその決意の象徴だ。良い服、ずっと大事に着続けたい服を国内外のお客さまに発信していきたい」と話した。日本に流通する衣料品の国産比率がわずか3%に縮小する中、同社はいまだに国産50%を維持している。「100年コート」は今秋から始まった衣料品の国産品認証制度「Jクオリティ」の第1号商品に選ばれた。
三陽商会は戦後まもない1946年、創業者・吉原信之が払い下げになった日本軍の防空暗幕を使ってレインコートを作ったのが会社の始まりである。その後もコートの製造・販売とともに発展してきた。子会社の青森県のサンヨーソーイングは、半世紀近くにわたってコートの主力工場として高い評価を受けてきた。パーツ数が多く、工程数が200を超えるトレンチコートは、縫製技術の良しあしが最も端的に出る商品である。「100年コート」だけでなく「マッキントッシュ ロンドン」などのコートもここから全国の店頭に送り出されている。
三陽商会の「100年コート」
昨年の消費税増税以降、ファッション業界を取り巻く環境は厳しさを増している。今年はワールドやTSIホールディングスの大規模な店舗閉鎖や人員整理が発表された。昨今の衣料品不振は、長年業界をリードしてきた老舗アパレルにも及んでいる。三陽商会もこの数年間はバーバリー問題に追われ、最大ブランドを失った。だが、打つべき手は打ったというのが杉浦社長ら幹部の心境だろう。ポスト・バーバリーの新ブランド群は軌道に乗るのか。ライセンス事業の陰で長年培ってきたモノ作りの底力は消費者に響くのか。そして、この危機を乗り越えられるのか。コートの裏地の格子柄にはさまざまな思いが交差している。
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※文中の肩書き・事実関係などは2015年9月28日当時のものです