PROFILE: カール-フリッツ・ショイフレ

「ショパール(CHOPARD)」は今から40年ほど前、1980年代後半から90年代に始まった機械式時計ブームをきっかけに世界に拡大した高級時計の中で、もっとも成功・発展した独立系ブランドのひとつだ。現在の「ショパール」誕生のきっかけは63年、時計会社の買収による事業拡大を考えていたショイフレ家3代目の現会長のカール・ショイフレ(Karl Scheufele)3世が、1860年創業のジュネーブの時計会社ショパールのポール=アンドレ・ショパール(Paul-Andre Chopard)と出会ったこと。買収話はたった30分ほどでまとまり、ショイフレ一家がドイツ・フォルツハイムで培った圧倒的なジュエリー技術と、「ショパール」が持つスイス伝統の時計技術とブランド力が合体したジュエラー&ウオッチメイカーの基礎が固まった。
ジュエラー&ウオッチメイカーとして時計界をリードする存在へと飛躍するきっかけは、1996年。ファミリーの4代目で現・共同社長のカール‐フリードリッヒ・ショイフレ(Karl-Friedrich Scheufele)が中心になった完全自社開発設計ムーブメント“L.U.C”の誕生だった。なお、L.U.Cとはムーブメントを手作りしていた(=マニュファクチュール)だったショパールの創業者ルイ‐ユリス・ショパール(Louis-Ulysse Chopard)の名前の頭文字を取ったもの。このムーブメントで創業当時の“マニュファクチュール”の座を取り戻したことになる。翌97年にはこれを搭載した“L.U.C”コレクションが登場。ここから機械式複雑時計の開発に精力的に取り組み、時計愛好家、コレクターにとって絶対に見逃せない存在になっている。また同社は88年以来、オフィシャルタイムキーパー(公式計時)を務めるイタリア伝統の公道レースイベント“ミッレ ミリア”の名でスポーツウオッチコレクションも展開。こちらも時計市場で高い支持を得てきた。
10月、この“ミッレ ミリア”の日本限定モデルの発表イベントのために、ショイフレ家4代目カール-フリードリッヒ・ショイフレ現共同社長の長男で、ファミリーの5代目で後継者と目されるカール-フリッツ・ショイフレ(Karl-Fritz Scheufele)が来日した。
WWD:大人気のラグジュアリー・スポーツウオッチ“アルパイン イーグル”の企画に関わったことで知られているが、現在「ショパール」ではどのような仕事を担当している?
カール-フリッツ・ショイフレ(以下、ショイフレ):現在は父の下で主にメンズのウオッチコレクション、特に“L.U.Cコレクション”とマニュファクチュールでの業務を担当している。チームを率いて次の新作を準備したり、次代キャリバーのデザインやアーキテクチャを開発したり、マーケティング・商業活動に携わったり。具体的には“アルパイン イーグル”と“L.U.C”の製品開発を担当している。
WWD:幼少期から時計に囲まれていたと思うが、記憶に残っている時計は?
ショイフレ:いちばん最初の記憶は、腕時計ではなく掛け時計。自宅にはたくさんの掛け時計があり、メカニズムや構造がパッと見て分かりやすく心惹かれた。毎週末に父が家中の掛け時計を見て回ってはぜんまいを巻き上げる姿がすごく印象に残っている。昔も今も、いつでも「チクタク」という時計の音に囲まれている。
WWD:時計を生涯の仕事にしようと思ったのはいつ?
ショイフレ:時計を家業にする家庭に育って幼少期から時計に囲まれていたのが、私が好きになったのは実は14歳のとき。徐々に好きになったのではなく、ある日を境に大好きになった。ある週末、父に誘われて独立時計師フィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)氏のアトリエを訪れた。父がデュフォー氏にオーダーしていた時計の受け取りに同行した。そのとき、父と一緒にアトリエで何時間も過ごし、デュフォー氏が時計作りの仕事やアトリエの様子など、たくさんのことを見せてくれた。その体験を通じて「時計って本当にすごい、素晴らしい」と感銘を受け、「これからの人生を時計作りに捧げたい」と強く思った。
WWD:それ以前は、何か別の仕事をしたいと思っていた?
ショイフレ:何も考えていなかった。家業に関わりたいという思いと、実際ファミリービジネスに入って何らかの役割を担って現場で働くこととは別だから。父や家族は、私が時計好きになったことに安心したと思う。でも当時は大学も卒業していない、まだ社会経験もまったくない子ども。「時計作りに生涯を賭けよう」と決意するには、またしばらく時間がかかった。
WWD:家には素晴らしい車もあったはずだ。
ショイフレ:ええ、車は食卓で常に話題にだった。ファミリービジネスには、ファミリーだからこそ得られる学びや、家族間で継承されていく価値観があります。その価値観は、大学や会社で学ぶ専門的・技術的な知識と同じくらい重要だ。今はクラフツマンシップや、時間をかけて正しい方法でモノ作りを行うことの大切さについて考えている。日本の職人技、たとえば漆や庭師の仕事も同じだろう。
時計を1本買う人も、複数本買う人も、
機械式時計を買う人は「コレクター」
WWD:時計作りの今後は?
ショイフレ:いまもっとも力を入れているのは、インハウス(自社内)でのメティエダール(伝統工芸技術)能力の開発と強化。現在、スイスのフルリエとメイラン、ドイツのフォルツハイムに約40種類の異なる職人技が分散しているが、統合し自社での時計製造能力をさらに高めていく。プラチナケースの溶接技術、グランド・フー・エナメル、マイクロエングレービング、寄木象嵌といった装飾技術をさらに進化させてたい。技術面では、より複雑かつ精巧なメカニズムの開発を続けている。
WWD:高級時計市場の現状と今後については、どう考えている?
ショイフレ:正直5、10年後の市場を正確に予測できる人はいないだろう。ただ私がいま感じているのは、顧客が感じる「価値」とブランド側が提示しようとする「価値」にはかなりの乖離がある。時計に限らずラグジュアリー業界全体が値上げを続けているが、製品の価格上昇に見合うほど手仕事や仕上げが向上していないケースが見受けられる。ただコレクターの声に耳を傾けると、独立系ブランドや本質的で真摯なモノ作りを行う時計ブランドや製作者が評価されている。「この価格で、これほど見事な手仕事の製品が買えるのか」という感動や価値を提供することが重要だ。将来はコレクターを顧客の中心に据え、彼らが手作業のマニュファクチュール・ウオッチに何を求めているのか?ブランドの能力をもって何を提供できるか?を常に考える時代になる。
私たちにとっては、時計を1本買う人も、複数本買う人も、全員が「コレクター」。機械式時計を買うと決断した時点で、その人の心の中には「本来存在しなくてもいいかもしれない貴重なものを大切に保護・所有したい」というコレクター魂が宿っている。それが1本目でも、価格が手頃なエントリーモデルでも、私たち時計ブランドは「ひとりのコレクター」「私たちのファン」として敬意を払い長くお付き合いをするべきだ。私も父も、購入金額に関わらず、私たちの時計を購入し時計作りを応援してくださるファンが何よりも大切な存在だと考えている。この姿勢は業界全体で共有されるべきだ。