PROFILE: (左)楽人「クク(QUQU)」クリエイティブディレクター(右)内田聡一郎「レコ(LECO)」代表

日本の美容シーンをけん引する美容師の1人で、「レコ(LECO)」を基軸に5店舗を経営する内田聡一郎さんが「天才」と評する美容師がいる。姉妹ブランド「クク(QUQU)」のスタイリスト、楽人さんだ。2020年の「クク」立ち上げから共に歩んできた2人だが、内田さんは楽人さんのどこに才能を感じているのか。2人の対談から、楽人さんのクリエイティブの源泉と内田さんが考える個性を生かした組織づくり、次世代の美容師に求める資質を探る。
「浦さんの一番弟子」から
独自のスタイルを確立
WWD:一緒に働き始めたのは「クク」が立ち上がった2020年。最初は互いにどのような印象を持っていた?
内田聡一郎「レコ(LECO)」代表(以下、内田):最初は「浦さん(浦さやか「クク」代表)の一番弟子」という印象が強かったですね。「クク」は浦さんを代表に迎えることを前提に立ち上げた姉妹ブランド。楽人は以前から浦さんと一緒に働いていて、立ち上げメンバーとして加わってくれました。当時は今と髪型も全く違っていて、もう少しかわいらしい(笑)アンニュイな雰囲気でした。まだスタイリストとして頭角を現す前だったので、どんなヘアデザインを作るかも分からなかった。最初は浦さんに近いスタイルを作るのかなと想像していましたね。
楽人「クク(QUQU)」クリエイティブディレクター(以下、楽人):僕はとにかく緊張していたのを覚えています。内田さんは美容業界でもファッションの分野でも有名でしたし、学生の頃から業界誌で作品を見ていて、「こんな作品を作りたい」と思っていた美容師の1人でした。初めて作品撮りをしたときも、内田さんの作品を参考にして作っていましたね。
WWD:そこからどのように印象が変わっていった?
内田:楽人がSNSで発信する投稿を見るようになってからですね。当時はInstagramが主流でしたが、もちろん浦さんから学んだ部分はありながら楽人の発信は明らかに違っていたんです。1、2年たつうちに、サロンワークにも本人の色が濃くなっていき、フォロワーも伸びていった。お客さまの層も浦さんとは全然違って、ラッパーやアーティストのお客さまも多い。サロンとして新しい層との接点を作ってくれたと同時に、外に向けたブランディングにもつながったと思います。どう見せたら今の時代にクールに映るのか、そこに対する感覚が非常に優れていると思いましたね。
楽人:僕はもともと飽き性でいろいろなことをやりたいタイプ。自分が好きだったものが世の中に広がり始めて、皆が同じようなことをやり始めると嫌になってしまう部分がありました。でも、入社式のときに内田さんから「もう少し一つのことをやってみたら」と言われたんです。それで、一つのことを継続してみようと思いました。
2020年ごろ、今ほど浸透していなかったY2Kが自分のスタイルにも合うなと思い、発信を続けました。それがすごく大きなきっかけになり、Instagramでも投稿するたびに数字がついてくる時期がありました。振り返ると自分の転換点でしたし、続けることの大切さを教えてもらったのは大きかったと思います。
内田:彼は僕が思っていた以上に反骨心が強いんだと思いました。浦さんの弟子として見られることに対しても、抵抗があったんじゃないかと感じます。もちろん浦さんから学んだものはあるけれど、同じことをやっていても道は開けない。そういう気持ちは会話や作るスタイルからも感じていました。

セミナーの常識を覆す発想
「天才」と評する理由
WWD:内田さんは楽人さんを「天才」と表現している。とくにどのような部分で感じる?
内田:僕の中にはない発想を持っているところ。僕はどちらかというと合理主義的な部分があって、費用対効果も考えるんですけど、楽人はそういうことをあまり考えずに突き詰められる。その結果として、自分には想像できないものを作ることがあるんです。
ヘアカラーのタイアップセミナーだったら、カラー剤を使ってデザインを作り、「こういう色や技術が表現できる」とみせるのが“普通”。でも、以前北海道でセミナーがあったとき、楽人はヘッドピースを作り、それを使った表現をしたんですよ。半分が髪の毛で、半分が被り物のようなデザインで。ヘアショーなら分かるけれど、普通のセミナーでそこまでやろうとは思わない。既存のセミナーの形式を超えてしまうところが、僕からすると天才的だなと思います。
WWD:楽人さんはそのセミナーをどのような考えで作った?
楽人:基本的に固定観念を壊したいという気持ちがあるんです。従前の方法に倣いセミナーを実施する中で、「もっと新しいことをしたい」と思うようになりました。一度、オンラインのセミナーでいろいろな要素を詰め込んでみたら、もはや普通のセミナーとは言えないようなものができて。それが面白かったので、そこから良かったものを取り出しながら続けています。
「楽人をコピーすることはできない」
個性を生かす組織づくり
WWD:「レコ」「クク」には、それぞれ異なるテイストを持つスタイリストがいる。
内田:僕としては、個性を最大限発揮してもらいたいと考えています。ただ、組織として考えると、それが難しさにつながる部分もあるんです。同じ手法で人を育てて、技術や接客を再現できるようにした方がオペレーションは安定する。属人的にならない方がいいという考え方も当然ある。でも僕はそこに対してアンチテーゼを示したい。同じようなスタイリストが何人も育っても面白くないと思うので。
今のスタイリストたちはそれぞれ全然違うスタイルを作っています。自然発生的にそうなっていった部分が大きいんですけど、それが今はサロンの特徴になっていると思います。
WWD:一方で、個性やセンスを育てる難しさもある。
内田:技術は教えられるけれど、センスを教えることには限界があると思っています。例えば、楽人に憧れて入社してくる美容学生もいますけど、その人が楽人になれるわけではない。楽人の見た目や言動、これまで触れてきたカルチャーなど、いろいろな要素が組み合わさって今の楽人を形成しているのでそれをコピーすることはできないんです。だからこそ、本人が持っているものをどう生かすかが大事になる。ただ、自分の個性を追求するのは簡単なことではないんですよ。少し尖ったことをやるだけでは成立しないし、それを長く続ける覚悟やプライドも必要になる。
WWD:お二人自身はセンスを磨くためにどのようなことをしている?
楽人:インプットしようと意識しているわけではないんですけど、いろいろなものを見るようにはしています。特にアニメや音楽が好きで、昔の作品を掘ることも多いですね。SNSで自分が知らなかった作品に出合うこともあります。
内田:僕も作品を作るためにインプットしている感覚はあまりないですね。音楽でもファッションでも、単純に好きだから調べている。気が付いたら夜中の3時、4時になっていることもあります。そうやって自分の中に蓄積してきたものが、何かを表現するときに断片的に集まって、アウトプットになる。そういうものの集合体がセンスなんだと思います。
WWD:これからの美容師にはどのような資質が必要だと思う?
楽人:まず、自分のことを発信するのがうまい人ですね。今の若い子たちは、動画で自分を紹介したり、自分が好きなものを発信したりすることを自然にやっているのですごくいいなと思います。あとは、ずっと新しいものに興味を持っている人。新しいものを見つけたり、作ったりすることが好きな人は強いと思います。
内田:僕は採用や若手の育成の経験を経て、センスやその人の人となりはすごく大事だと思っています。技術は入社してから教えられますけど、その人が持っている感覚やバックボーンを後から変えるのは難しい。だから採用の段階でも、言葉の選び方や話し方などを見ています。
もう一つ大事なのは考え抜ける人かどうか。楽人の一番の特徴もそこだと思っていて、自分が作りたいものに対して妥協しない。納得するまで手を動かすし、頭を動かし続ける。もっといいものがあるんじゃないかと考え続けるんです。
組織としてすごく大事にしている部分もそこ。でもそれをこちらが強制することはできないし、強制されてやることではないと思っています。自分が結果を出したい、自分の作ったものを評価してもらいたいという気持ちがあって、初めて続けられるものだと思うんです。未来の自分に対する先行投資という感覚ですよね。
美容師からアーティストへ
クリエイティブとビジネスを両立する組織
WWD:今後、楽人さんに期待することは?
内田:僕は、楽人にアーティストとしてどこまで確立できるのかを追求してほしいと思っています。もちろん日々のサロンワークは大事ですけど、彼は美容師という枠組みだけで生きる人ではないと思う。自分の表現を追求して、それがアートとして評価されるような存在になってほしい。どう広げるか一緒に考えていけたら面白いと思っています。
WWD:内田さん自身は今後どのようなサロンや組織を作っていきたい?
内田:5年後、10年後にこうなりたいということは、あまり決めないようにしています。会社経営としての長期的な目標設定はもちろんありますけど、自分の夢や理想は流動的でありたいんです。何がかっこいいのか、何が面白いのかは時代によって変わっていくので、そこに対して判断するスピードは持っていたい。
ただ、一言でいうと、すごく面白い美容室だとは思われたいですね。美容室としても面白いし、組織としても面白い。でも、それがちゃんとビジネスとして循環している。そういうバランスを大事にしたいんです。クリエイティブなことだけをやっていても、それで食べていけなければ続かない。だからこそ、カルチャーを生み出す人たちがきちんとビジネスとしても成立させられるプラットフォームを作りたい。独自性のあるサロンやクリエイティブに強いサロンが、長くビジネスとしても成立している。それを体現する組織にしていきたいと思っています。
楽人:初めて聞いた話で驚きました(笑)。僕もクリエイティブが強いサロンであり続けてほしいし、自分もその一員としてそういう場所を作っていきたいです。
個人としては、33歳までに何か記憶に残るものを作りたいと思っています。以前は27歳で作品を残した人たちが好きだったのですが、今は33歳。庵野秀明さんが「エヴァンゲリオン」を作った年齢ですし、その歳には自分も美容師として、世の中の記憶に残るものを改めて作りたいと思っています。
海外出店よりも、日本で生み出したカルチャーを海外へ
WWD:海外展開については今どのように考えている?
内田:自分たちだけでの海外の出展は今はあまり現実的ではないと感じています。数年前よりも海外との接点が増えて、現地で活動している日本人美容師の知り合いもたくさんいる。そういう人たちから理想だけではなく現実的な話も聞くようになりました。今は日本にいながらできることが増えていて、逆に海外に行くことでできなくなることもあると感じています。海外に出店すること自体が必ずしもかっこいいわけではないと思うんです。
もちろん、海外に行きたいスタッフが経験を積めるような仕組みは作りたい。ただ、僕自身は日本のカルチャーが好きなので、海外の土壌に自分たちを合わせていくよりも、日本で作ったものを海外の人たちに評価してもらえるような形がいいと思っています。海外に行ってゼロから始めるのではなく、日本から生み出す力を大きくしていく。その方が今の自分たちには合っているんじゃないかと思います。
◼︎「レコ(LECO)」
時間:火〜土曜 11:00〜21:00/日曜・祝日 11:00〜19:00(月曜定休)
住所:東京都渋谷区渋谷1-5-5 デュラス青山 B1F
インスタグラム:@lecotokyo
「レコ(LECO)」公式サイト
◼︎「クク(QUQU)」
時間:火〜土曜 11:00〜21:00/日曜・祝日 11:00〜19:00(月曜定休)
住所:東京都渋谷区渋谷1-5-10 小笠原ビル 2F
インスタグラム:@ququtokyo
「クク(QUQU)」公式サイト