PROFILE:(うるしばら・みきと)2001年生まれ、埼玉県出身。東京モード学園ファッションデザイン学科を3月に卒業。在学中、モード学園主催の未来創造展2026でモード大賞を受賞
(右)佐藤豪皇/アンレオCEO
PROFILE:(さとう・こお)2004年生まれ、青森県出身。東京モード学園ファッションビジネス学科を3月に卒業。在学中に合同会社アンレオを立ち上げた PHOTO:KAZUSHI TOYOTA
“ネオ・ソウルの女王”エリカ・バドゥ(Erykah Badu)の約1年ぶりとなる来日公演で、ステージ衣装の一つに選ばれたのは、モード学園を卒業したばかりの若きクリエイターによる作品だった。
「若い才能をサポートしたい」というエリカの思いから実現した今回の衣装提供。その一端を担ったのが、東京モード学園在学中に衣装リースを中心としたアパレル事業を手掛ける合同会社アンレオを立ち上げた、漆原幹人と佐藤豪皇の2人だ。今回エリカは、漆原氏が卒業制作展「未来創造展2026」でモード大賞を受賞した“スモウドレス”をまとい音楽フェス「ソウル キャンプ(SOUL CAMP)」に出演。さらに、“雪見だいふく”に着想したヘッドピースを「ビルボード ライブ(Billboard Live)」の東京公演で着用した。
世界的アーティストとの仕事を実現した2人に、作品がエリカの衣装に選ばれた経緯から、自らのクリエイションがステージ上で新たな表情を見せた瞬間、そして今回の経験を経て見据える世界への道のりまでを聞いた。
ステージで引き出された服の新たな表情
──まずは、エリカ・バドゥの来日公演で衣装が着用されることになった経緯から教えてください。
漆原幹人(以下、漆原):ある日、スタイリストの方からモード学園に「エリカ・バドゥが来日公演を行うにあたって、若い才能をサポートしたいと考えているので、衣装をリースさせてほしい」と連絡があったんです。どうやらエリカが、僕の卒業制作作品“スモウドレス”をSNSで見つけてくださったことがきっかけのようで、その後モード学園の東京校、大阪校、名古屋校の学生による他の作品とあわせて、実際に本人に見ていただきました。
──最初に話を聞いた時は、率直にどのような気持ちでしたか?
漆原:純粋にうれしかったです。世界で活躍することを目指しているので、その夢に向けた最初の一歩をつかめたような感覚がありましたね。
──実際にエリカ本人と対面して、自分の作品を見てもらった時の反応はいかがでしたか?
佐藤豪皇(以下、佐藤):エリカが衣装のある部屋に入ってくるなり、「そうそう、これが見たかったの」と真っ先に漆原の作品を手に取ってくださったんです。何度も「Beautiful」と言いながらクリエイションを褒めてくださったのが、とても印象に残っていますね。漆原にとっても、エリカのような世界的なアーティストから目の前で作品を評価してもらえたことは、その一言だけでも相当な刺激になったと思います。
──エリカも一目で惹かれた“スモウドレス”は、どのような発想から生まれたのでしょうか?
漆原:卒業制作展「未来創造展2026」のテーマが“JAPONISM ~To The World~”だったので、その名の通り、日本を代表する伝統文化の相撲をテーマに制作しました。ドレス全体のシルエットを袴に見立て、肩周りの構造で張り手を表現したり、ボディから垂れ下がるディテールで縄を表現したりしています。エリカ本人もそのテーマを汲み取ってくださり、「ソウル キャンプ」では四股を踏み、張り手をするような動きをしながらステージに登場してくれましたね。
──デザインとしての“相撲”を、エリカはパフォーマンスにも発展させたんですね。
漆原:そうですね。「未来創造展2026」でプロのモデルの方が着こなしてくださった時ももちろん良かったのですが、エリカはステージ上で完全に自分のものとして昇華してくださり、作品がさらに輝いて見えました。僕が完成させた時点の“スモウドレス”が100点だったとしたら、エリカが着ることで150点になったというか。モデルの方も洋服の魅力を最大限に引き出してくれる存在ですが、それとはまた別の方法で、服の魅力を引き出せる人が世の中にはいるんだということが知れましたね。
──エリカは、「ビルボード ライブ」の東京公演でも漆原さんの作品を着用して登場したそうですね。
佐藤:「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」のラッフルドレスにあわせて、漆原が制作したヘッドピースを着用していただきました。ヘッドピースは、「ソウル キャンプ」の後にスタイリストの方から「追加で何着か衣装を持ってきてほしい」と連絡をいただき、こちらから改めて提案した作品です。
漆原:ヘッドピースは、2年生の時に“雪見だいふく”をテーマに制作した作品ですね。540mものチュール生地を、すべて手作業でギャザーを入れて仕上げました。それと、今回のライブでは着用されていないのですが、着物をリメイクしたドレスも気に入ってくださり、“スモウドレス”とあわせて購入して帰られましたね。
──自分の作品が海を越えて評価された経験を通して、自分の強みだと確認したこと、逆に技術や経験で足りないなと感じた部分はありましたか?
漆原:自分の世界観や、純粋に好きで作ったものが海外でも評価されたことは、素直に自信につながりました。ただ、3月にモード学園を卒業したばかりなので、作品をどう発信していくのか、PRをどうしていくのかという部分には、まだ課題を感じています。
佐藤:漆原の作品をエリカに着ていただけたこと自体、彼のキャリアにとって大きな実績になったと思っています。実際、今回をきっかけに海外の著名なフォトグラファーから連絡をいただくなど、衣装デザイナーとして評価していただける機会も生まれました。一方で、今後は衣装デザイナーとして活動していくのか、それともコレクションブランドとして発信していくのか。どういう形で彼のクリエイションを世の中に届けていくのかは、まだ模索している段階です。作品を作り続けていくためには、それをどうビジネスとして成立させるかも考えなければいけない。制作にかかる時間と利益のバランスが取れなければ、漆原自身のキャパシティを超えてしまいますから。ただ、今回の経験を通じて、彼の才能が国内だけでなく海外でも評価される可能性を実感できたことは、本当に貴重な経験でしたね。
──今後、衣装を手掛けたいアーティストや、自分の中で挑戦したい表現はありますか?
漆原:日本で衣装が大きく注目される舞台のひとつは、NHKの「紅白歌合戦」だと思っています。なので、ひとつの分かりやすい目標として、いつかMISIAさんのように最後を飾るソロアーティストの衣装を手掛けてみたいですね。