
2027年春夏メンズ・ファッション・ウイークを襲った欧州熱波は、ミラノからパリへ持ち越されただけでなく、フランスの観測史上最高気温を更新するなど、もはや災害レベルに達していました。照りつける日差しを避けるためのショー会場の変更や開始時刻の繰り上げ、会場では冷たいドリンクと扇子を振る舞い、巨大扇風機を設置するなど、各ブランドも暑さ対策に追われていました。
われわれ「WWDJAPAN」の取材班も現地のえげつない暑さにぐったりしながらの取材でしたが、パリメンズはビッグメゾンのデザイナー交代が落ち着き、新体制の本格始動を感じさせる見ごたえあるコレクションが満載でした。現地取材を担当した藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員と本橋涼介ヘッドリポーターによるパリメンズのダイジェストVol.3をお届けします。
遊び心全開の「ジュンヤ ワタナベ マン」
“ブリンブリン”な着こなしを再解釈
藪野:「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」のテーマは、“BLING BLING BLING”。「ブリンブリン(BLING-BLING)」と言えば、過剰な装飾やきらめく宝飾品を見せびらかすような着こなしやライフスタイルを指すヒップホップカルチャー由来のスラングですが、ラッパーたちが好んできたような“成金”的な派手なジュエリーとトラックスーツをベースにしました。
今季もさまざまなブランドとのコラボレーションが登場(その数なんと16)しましたが、中でも目を引いたのは「カッパ(KAPPA)」や「ニードルズ(NEEDLES)」との協業によるトラックスーツ。ストリート感あふれるアイテムをテーラリングの仕立てや生地、デザインと掛け合わせることで、異なる世界を巧みに融合しました。そこに合わせたのは、ジュエリーデザイナーの奥田浩太さんによるビジューやメタルパーツがたっぷりとあしらわれたベースボールキャップや、パールとチェーンのネックレス。さらに、「ジュンヤ」らしい解体・再構築の手法を生かしたテーラードアイテムや「リーバイス(LEVI'S)」コラボのジーンズ、「カーハート(CARHARTT)」とのワークウエアなどを交えることで、メンズスタイルのコードを自在に横断する自由なスタイルを提案しました。
先シーズンはクラシックなドレスアップを軸にしたストイックなクリエイションを見せましたが、今季は打って変わって遊び心全開。その振り幅の広さと、それでもなお一目で「ジュンヤ」と分かる揺るぎない美学をあらためて感じました。
「ミハラ」は夏への屈折した思いを
砂と日差しの色、歪みで表現
本橋:「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」の2027年春夏のテーマは“エンドレス サマー(ENDLESS SUMMER)”。しかし、プレスリリースに添えられた三原康裕デザイナーのステートメントは、「私は夏が嫌いだ。」という一文から始まります。
「幼い頃からサーフィンに親しんだ私の発言にあなたは戸惑うだろう」――確かに、三原さんはサーファーとしての一面もありますし、夏が嫌いだなんて到底説得力がありません。三原さんはそこから、「一時も離れない夏の記憶が体にまとわりついている」「開放感ある夏の景色が私から緊張感を奪う」「夏という季節が私の全てに呪いのように影響を与えている」と続けます。抽象的に表現しているものの、つまり「夏は否応にも開放的に『させられて』しまう」。自分で自分を保てなくなってしまうから、「好きすぎて嫌い」と拒絶してしまう。学生時代の恋愛みたいな感覚でしょうか?(笑)。
今季のコレクションは、そんな三原デザイナーの夏に対する屈折した思いを、デザインやスタイリングの「歪み」や「ズレ」によって「ミハラ」らしく表現しました。会場は、銀のティンセルカーテンで両脇を覆われたランウエイ。その奥から姿を現す55体のルックは、サンド、ベージュ、トープ、カーキといった「砂と陽射し」を思わせるアースカラーで統率されています。肩の力が抜けたジャケットやシャツには、「ミハラ」の真骨頂であるレイヤードやパターンのズレが随所に忍ばせられていました。
ギンガムチェックや細いストライプのセットアップ、襟を大きく開いたポロシャツ、ボードショーツを彷彿とさせるショートパンツ、そして素肌に重ねたニットベスト。丈の異なるシャツを重ねて裾からもう一枚をのぞかせたようなギミカルなトップスや一見スカート丈に見えるラップ状のボトムなど、巧みな違和感の演出は今季も健在です。真夏の開放感にあえて緊張感をもたらすIラインのロング丈のトレンチやコートが登場したのも意表を突かれましたね。
リリースの末尾には、6月に逝去された英国のデザイナー、ナイジェル・ケーボン氏への追悼の意も添えられていました。「友人 Nigel Cabourn氏へ。ぜひ空の上から、今回のコレクションをお楽しみいただけますと幸いです」(原文ママ)。ブランドの代名詞とも言えるオリジナルソールのスニーカーは、彼との初期の協業がブレイクスルーの大きな契機になったそう。三原さん言葉には、深い敬愛の念がにじんでいました。
メンズ100周年の「ランバン」
ピンクの什器に、キャンディカラーのスニーカー
本橋:
今季、メンズウエア部門の創設100周年という記念すべき節目を迎えた「ランバン(LANVIN)」。創業者ジャンヌ・ランバンが帽子から始まり、ウィメンズ、そしてメンズへとクリエイションの幅を広げ、1920年代に本格化させたテーラリングの歴史が背景にあります。アールデコ100周年とも重なる今季は、あえて明確なシーズンテーマを掲げず、「100周年という大枠の中で1920年代を見つめ直す」というアプローチを採用しました。
金縁の鏡と寄せ木張りの床が往時の薫りを残すクラシカルな一室。そこへアーカイブ写真をコラージュした壁面や積み上げられたブラウン管テレビ、さらにショッキングピンクの什器とブルー&ホワイトのスニーカーを配し、「ブルーを引き立てるためのピンク」という視点のもと、過去・現在・未来をひとつの空間に同居させるシュールなインスタレーションが目を引きました。
コレクションで注目は、20〜30年代のアーカイブから抽出されたグラフィックの数々。レジメンタルストライプをそのままシャツに落とし込み、猫のモチーフや、サイコロを思わせる幾何学柄を随所に散りばめる。ピンクのジャケットにブルーの幾何学柄、ライトブルーのダブルジャケットにパープルといった具合に、ピンクとブルーの鮮やかなコントラストがコレクション全体を通奏低音のように流れます。そこへ、宙に浮いた目や手をあしらったシュルレアリスム的なモチーフが、新たなエッセンスとして加わりました。ボルドーのレザージャケットにショッキングピンクのスカーフを巻き、キャメルのコートにはあえてデニムを合わせる。ペイズリー柄のシャツ、フリンジ付きスカーフ、スネーク柄のローファー、グリーンのスニーカーなど、ワークウエアの引用も含めて非常に多くの要素が詰め込まれていますが、絶妙なスタイリングバランスによってモダンで洗練された印象へと昇華しています。
今季初となる「ジョンスメドレー(JOHN SMEDLEY)」との協業も。クラシカルなフィッシャーマンセーターを起点に、シルエットはジョンスメドレーの精緻な作りを踏襲しつつ、色彩や柄でランバンのエッセンスを注入。ブラウンにライトブルーの多重ストライプ、ネイビーの波形ジャカード、クリーム色の鹿の子編みポロなど、多彩なモデルが並びました。10月にはウィメンズ版の展開も控えているそうです。
「アンダーカバー」流の日常着に
ミヒャエル・ボレマンスの作品をのせて
藪野:「アンダーカバー(UNDERCOVER)」は、高橋盾さんがここ数シーズン続けている日常着の提案を今季も継続。より上質な素材使いやリバーシブル仕様、そして「BUT BEAUTIFUL」コレクションに由来し最近の定番となりつつあるうねったシームや外側に付けたタグなどのディテールを生かして、リラックス感のあるアイテムをそろえました。
「ポイゾネス・プランツ(毒のある植物)」と題したコレクションのポイントとなったのは、2015-16年秋冬ウィメンズや2016-17年秋冬メンズでも用いたベルギー人画家ミヒャエル・ボレマンス(Michael Borremans)の油絵。コレクション名に通じる花の静物画をはじめ、軍服をまとった青年や暗い表情を浮かべる女性などの作品をプリントやパッチとして取り入れました。そのキャンバスとなるウエアは、テーラードのセットアップやワークブルゾン、軽いパディング入りのアウターから、ゆったりしたカーディガンやシャツ、ショーツ、ジーンズまで。アクセサリーには「キジマ タカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」と制作したパナマハットや、小さなドットをあしらった「ドクターマーチン(DR. MARTENS)」のレースアップシューズ、ボレマンスの作品をのせたクロッグサンダルや「ヴァンズ(VANS)」のスリッポンスニーカーなどをラインアップしています。
高橋さんの普段の着こなしや今のライフスタイルが映し出されたようなクリエイションから感じるのは、日常に根差したリアリティーと「アンダーカバー」らしいどこかダークで影のある雰囲気。そのバランスの探求が今の気分のようです。