
ウワサの新作時計、「スウォッチ(SWATCH)」と「オーデマ ピゲ(AUDEMARS PIGUET)」のコラボレーションから生まれた“ロイヤル ポップ”の姿が公開された。発売日は明日に迫る。
まさかの懐中時計だった“ロイヤル ポップ”
多くの予想は、「半ば当たり、半ばハズレ」
筆者をはじめ世界中の時計ジャーナリストやメディアの予想は、半ば当たり、半ば外れた。最大の“ハズレ”は、“ロイヤル オーク”がモチーフなのは当然だが、腕時計ではなく懐中時計だったことだ。
それ以外は予測通りだった。ケース素材は“ムーンスウォッチ”と同じバイオセラミックという環境に優しい樹脂。そして“ロイヤル”という名前通りの「オーデマ ピゲ」の“ロイヤル オーク”同様の8角形ケースに、6本のビスで留めた8角形のベゼル。文字盤が本物の“ロイヤル オーク”と同じ「プチ・タペストリー」と呼ばれる格子状パターンというのも予想通り。カラーバリエーションも、“ポップ”というネーミングにふさわしい。チェリーレッド&ピンク、ホワイト、グリーン、ライムグリーン、ブラック&ホワイト、ネイビー、ブルー&パステルブルー、グリーン&ピンク&イエローの8色展開は、「スウォッチ」らしい。ムーブメントも「スウォッチ」の機械式自動巻きムーブメント「システム51」がベース。ただ懐中時計用として手巻き化され、パワーリザーブ(時計の動力源である主ぜんまいの残量)の表示機能が追加されている。つまり「ぜんまいを巻く必要があるかどうか?」がわかる。この点は、特に時計好きの人たちにとって「期待を超えるサプライズ」のひとつだ。
良心的な価格設定
では価格はどうだろう。12時位置にリュウズがある「レピーヌ」タイプ(※これは懐中時計の呼び方)が5万7200円、3時位置にある「サボネット」タイプが6万1600円。「オメガ(OMEGA)」の“スピードマスター”とのコラボモデルでクォーツ式の“ムーンスウォッチ”(4万円台~)よりは高い。でも「ブランパン(BLANCPAIN)」の“フィフティ ファゾムス”とのコラボモデルで同じ基本ムーブメント「システム51」を搭載する機械式の“スキューバ フィフティ ファゾムス”と比較すると少しお手頃で、サボネットタイプは同額の価格設定になっている。「オーデマ ピゲ」の“ロイヤル オーク”が3針モデルで最低でも400万円台からであることを考えると、価格設定はかなり良心的と言える。
両ブランドの期待は
“スウォッチブーム”の再来!?

続いて「スウォッチ」と「オーデマ ピゲ」はどんな世代をターゲットに、どんな目的でコラボレーションしたのか改めて考えてみたい。両社にとっていちばんの狙いは、「時計業界における最大級の話題作り」。加えて「オーデマ ピゲ」の狙いは、これまでの顧客とはまったく異なる一般消費者、特に若い世代に対する「オーデマ ピゲ」と“ロイヤル オーク”の認知度向上であることは間違いない。
「スウォッチ」にとっても、ブランドの認知向上は当然だ。率直に言って2000年以降の「スウォッチ」の認知度は決して高くない。それなりに認知しているのは、おそらく1990年代に日本や世界で起きた“スウォッチブーム”を少しでも経験した40代までだろう。
「スウォッチ」が狙っているのはおそらく“スウォッチブーム”の再来だ。当時は時計ではなく誰もが買えるカジュアルなファッションアイテムとして、ポケットマネー(おこづかい)で買えるポケットサイズのアートとして大流行した。そのブームは世代を超えたファッションアイテムであり、社会全体を巻き込んだ凄まじいカルチャーブームだった。毎月のように多彩なデザインやカラー、さまざまなジャンルのアーティストとコラボした大胆な新作が限定版で登場。キース·ヘリング(Keith Haring)はもちろん、駆け出しでも話題のアーティストとのコラボモデルも続々と発売し、それを手に入れるために長い行列ができた。価格も1万円を切るものがほとんどだったから、高校生から大学生、社会人の大人まで「コレクターも多かった。専用ホルダーやランヤード(長さ違い)、卓上スタンド化キットなど、モジュール的な使い方ができる点も含めて、買い替え・買い増しの動機を組み込んだ設計になっているのは、まちがいなくそのためだ。
この時計を「オススメしたい人」は?
一方、「オススメできない人」は?
では“ロイヤル ポップ”はどんな人にオススメなのか。それはチャームやアクセサリー、カスタマイズやストリート文化で育った、それを楽しんでいる若い世代。具体的には「Z世代」や、それに続く「α(アルファ)世代」だ。“ロイヤル ポップ”8モデルはどれも、目にしただけで元気になれるヴィヴィッドなカラーだし、ストラップ付きの懐中時計として首から下げて見せる使い方が前提なので、ファッションアイテムとして楽しみたい人に向いている。インパクトのある、カジュアルスタイルのアクセントとして楽しめる。
また機械式時計が好きな時計好きにとっても“ロイヤル ポップ”は、遊び心のある“外し”のアイテムとして楽しい。現行品の懐中時計はどれもレトロというか懐古趣味のアイテム。3ピーススーツでウオッチポケットに収めて「時間を知りたいときに取り出して見る」のが前提だ。でも“ロイヤル ポップ”なら、首から気軽にぶら下げてガンガン使える。手巻きだから「リュウズを巻く楽しみ」もある。ここまで気楽に使える懐中時計は今の時計市場には他にない。懐中時計の新しい可能性がここから広がっていくと面白いし素晴らしい。
一方、オススメできないのは「ずっと使える、飽きの来ない機械式時計が欲しい」という時計ファンや、「投資の対象として買う」という人たち。飽きの来ない機械式時計が欲しいという方には、数年越しでお金を貯めて本物の“ロイヤル オーク”を購入するか、最近続々と登場している10万円台から50万円台の「ネオ·クラシック」と呼ばれるカテゴリーの腕時計をオススメしたい。価格を超えた価値、つまりコストパフォーマンスも素晴らしいし、時代を超えたデザインのものばかりだから。
また「投資の対象としての購入」もオススメしない。初期に発売されたものなど一部のモデルは確かに中古市場で、確かにプレミア価格で取引されている。だが、ほんのごく一部だからだ。