月額制のファッションレンタルサービス「エアークローゼット」は、約300ブランド・50万着の中から、スタイリストがユーザー一人一人に合わせて選んだアイテムを自宅へ届ける。着用の有無を含めたフィードバックを継続的に収集し、提案精度の向上に生かしてきた。生成AIの進化により、ファッションビジネスにおいてもデータ活用の重要性は一層高まる。一方で、個人の感性や嗜好が大きく作用する領域において、データはどこまで機能するのか。エアークローゼットの天沼聰社長兼CEOが、その現在地を語る。
PROFILE: 天沼聰/エアークローゼット社長兼CEO

スタイリングは、長らくセンスの仕事だと言われてきました。私自身も、その前提は正しいと思っています。ただ一方で、サービスとして多くのお客さまにパーソナルスタイリングを提供しようとしたとき、センスだけに依存するのは難しいなと感じました。
「エアークローゼット」は、サブスクリプション型のレンタルサービスです。もちろん気に入ったものは購入もできますが、軸にあるのはパーソナルなスタイリング体験を提供し、ファッションを楽しんでもらうことです。
お客さまには、登録時にカルテを作成いただきます。体型やサイズに加えて、好みのテイスト、利用シーン、チャレンジの度合いなども含めてお聞きします。カルテをベースに、スタイリストが洋服を選び、自宅へ配送します。そして、レンタルのたびにフィードバックをいただきます。デザインはどうだったか。カラーはどうか。サイズ感や着心地はどうだったか。そして、「着たかどうか」。着なかった場合、「なぜ着なかったのか」まで取得します。
レンタルサービスの素晴らしいところは、こうしたお客さまからのフィードバックをいただけるところです。毎回4段階でレーティングしてもらっており、この数値と販売にまで至ったかどうかで、お客さまの満足度を測っています。つまりスタイリストの提案に対して毎回グッド/バッドがつくんです。定性コメントも多くいただけています。
サービス開始当初、雑誌やテレビで活躍されているスタイリストの方々にも参画いただきました。ただ、正直に言うと、評価が伸びないケースも少なくありませんでした。スタイリングとしては、とてもきれいなんです。でも、お客さまからすると「自分には合わない」と感じられてしまう。これはなぜなのか。そこが最初の大きな問いでした。
そこで分かったのは、スタイリングの良し悪しは、センスだけの問題ではないということです。その人に「似合う」ものを提案してこそ、お客さまに着てもらえるようになります。しかし、「似合う」だけでも足りないんです。
いくら周囲に「似合っている」と言われても、好きでなければ着られない。逆に、多少似合っていなくても、好きであれば着られる。そう、「似合う」と「好き(着たい)」は一致しないんです。これ、当たり前のようでいて、やってみると本当にそうだなと実感します。それがファッションの面白さでもあります。
だからこそ、パーソナルスタイリングは、「似合う」を提示するだけでは不十分です。「好き(着たい)」と思っていただけるかどうかまで含めて、設計する必要があります。
そして、サブスク型レンタルでは、いわゆる「接客」がありません。その場での会話も、空気感もありません。その代わりに、なぜこのスタイリングなのか、どういう意図なのかを、メッセージにしてオンラインで伝えます。分析と言語化の力が重要になります。ここは、対面とはまったく違う難しさだと感じています。
私自身は、感性自体は数値化できるのではないか、“センスの仕事”とされてきた領域もデータをもとに分解し、改善していけばいいのではないかと考えています。
当然ながら、ひらめきみたいなものは人の手に委ねたいです。データを基に、全てのパーソナルスタイリングを一点一点スタイリストが選ぶというハイブリッドが、現在における最適解と考えています。
スタイリストの「意思」が問われる
では、私たちはそれをどう実現しているのか。スタイリストは、過去にどのような要素が評価され、何が合わなかったのかを、グッド/バッドで整理して確認でき、そのデータをもとにスタイリングを行います。回数を重ねるほど、傾向が見えてきます。このデータを読み解く分析力が、まず非常に重要なポイントです。
ただ、膨大な情報を人だけで処理するのは難しい。そのため、AIや機械学習も活用しています。スタイリストはそうしてまとめられたものを確認しながら、次にお送りするアイテムを選びます。
アイテム側のデータも同様に整備しています。1点ごとに、百数十種類あるタグの中から当てはまるものを付与しています。素材やストレッチ性、シルエット、着用シーンなど、目視だけでは分からない情報も含めて、データとして持たせています。
スタイリストが洋服を選ぶ画面では、これらをもとにアイテムが自動でソートされます。サイズが合わない可能性があるものや、季節に合わないものは除外されます。条件に合うものが上に出てくる設計です。合わないものを選ぶとアラートが出るようになっています。
ここで重要になってくるのが、「こういうものを着てみてほしい」というスタイリストの意思です。条件や好みに合うものを一定数出すところまではデータをベースに制御されています。スタイリストはそこからお客さまのためのアイテムを選びます。もちろんソートもかけられます。それでも無数にある選択肢の中から何を選ぶかに、スタイリストのセンスが問われます。
かつて長年利用してくださったお客さまが退会されるということで直接ヒアリングをしたことがあります。「『私の好みをすごくよく分かっている』と思うものが毎回届くけれど、『これなら自分でも探して買えるな』と思ってしまった」と言われ、「似合う」「好き(着たい)」以上を求められる場合があると学びました。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。
