ファッション

仏マクロン大統領は、なぜ天皇陛下に「ペキニエ」の時計を贈ったのか?

フランスのエマニュエル・ジャン=ミシェル・フレデリック・マクロン(Emmanuel Jean-Michel Frederic Macron)大統領が3月31日から4月2日まで、G7議長国としての国賓待遇の公式訪問で来日した。高市早苗首相との首脳会談に加え、2日には皇居の御所において、天皇皇后両陛下とご会見ののち、昼食をともにされ、約1時間半にわたり懇談された。
 
両陛下とマクロン大統領にとっては7年ぶりの再会。このとき大統領は天皇陛下に特別な贈り物をされた。それがフランスの時計ブランド「ペキニエ マニュファクチュール(PEQUIGNET MANUFACTURE)」の腕時計“アティチュード・インペリアル“。フランス最高峰のウオッチメゾンがこの日のために一品製作した特別な機械式時計だ。
 
この時計、時計愛好家なら唸ってしまうディテール満載だが、なかでも素晴らしいのが文字盤。フランスの強さを象徴する「樫の木」と、日本の優雅さを象徴する桜の木。この2つの枝がアーティストのフィリップ・ジャカン=ラヴォー(Philippe Jacquin-Ravot)氏の手描きの細密画で美しく交差するように描かれている。これは「絶えず更新され続ける日仏の友好関係」を象徴したのだという。
 

天皇陛下に贈った時計は
フランス時計産業復興の象徴

ところで「フランスからの贈答品がなぜ時計なの?」と思った人もいるはず。高級時計といえばスイス。フランスの時計ブランドに関心があるのは、日本でもよほどの時計マニアだけというのが現状。だからあなたのその感想は当然だ。それでもマクロン大統領は、天皇陛下への贈り物にこの時計を選んだ。なぜならこの時計には「フランスの時計産業を復興したい!」という、フランスで時計産業に関わる人々の悲願が込められていからだ。
 
実はフランスは15〜17世紀にかけて世界最先端の時計王国で、スイス時計のルーツはフランスにある。スイスのジュネーブで時計作りが始まったのは16世紀、1530年代から1540年代にかけてのこと。当時の時計師たちの多くはフランス語で「ユグノー」と呼ばれるプロテスタント(新教徒)で、フランス当時の王朝とカトリック教会の苛烈な宗教弾圧からジュネーブに亡命した。

また日本では知られていないがフランスの時計師は、イギリスの時計師と同様に時計の進化に大きな貢献をしている。18世紀から19世紀にパリで活躍した天才アブラアン‐ルイ・ブレゲ(Abraham-Louis Breguet)は有名だが、実はブレゲ以外にも時計の歴史に燦然と輝く偉大な時計師は多い。だが1970年代のクォーツショックでフランスの時計産業、特に高級時計作りはほぼ壊滅。才能あるフランスの時計師たちの多くは、スイスに働く場を求めた。ジュネーブもそうだが、なにしろスイスはフランスのすぐ隣。「時計の谷」として有名なジュウ渓谷のようにスイスの時計企業はフランスとの国境沿いに数多くあり、スイスの給与が高いことから、フランスの人たちは今なお数多く毎日国境を超えてスイスの時計産業で働いている。
 

シンプルな見た目でも
ムーブからベルトまで特別版

今回、天皇陛下に贈呈された時計を作った「ペキネ」は、そんな“かつての時計王国”フランスで1973年に時計師エミール・ペキニエ(Emile Pequignet)が創業した時計ブランド。2000年に会社を引き継いだ経営陣が「フランスの偉大な時計作りの伝統を取り戻したい」という熱い思いから高級時計作りに取り組み、11年には国際特許をいくつも取得した画期的な自社製ムーブメントを開発。これを機に「フレンチ・マニュファクチュールの復興」(※マニュファクチュール=自社一貫生産体制を持つ時計会社のこと)を宣言。高い技術力やフランスらしい洗練されたデザインで時計愛好家から高い評価を受けている。

14年には、古くから受け継がれた稀少なノウハウや伝統的技術を有する「無形文化財企業」の認定をフランス政府の経済産業雇用省から取得している。つまり「ペキニエ」は機械式時計製造の分野でフランスNo.1の存在。だから贈り物に選ばれたのだ。
 
スイスの時計製造の中心地ル・ロックルやラ・ショー・ド・フォンのすぐ近くにあるモルトーという街にあるペキニエ本社で作る時計は、文字盤以外はシンプルだが、フランス政府から天皇陛下への特別な贈り物だけにメード・イン・フランスへのこだわりが満載。具体的には自社製ムーブメントやリュウズ、ストラップのバックルに施される刻印を特別にフランス共和国のモノグラム「RF」に変更。ストラップはジャン・ルソー社の手縫いのアリゲーター製、ギフトボックスもフランス東部の街ブザンソンの会社による特注品だ。まやムーブメントでもブザンソン天文台の精度認定に合格するなど、普通のモデルにはない手間と時間を費やしている。これはフランスの時計関連産業とその職人たちの最高峰の技術を結集して作られた、フレンチ・ウオッチの誇りと未来への情熱が凝縮された1本なのだ。
 
パリのメゾン・エリゼ美術館でも現在レプリカが一般公開中のこの時計。もしあなたがフランス大好きなら、ぜひ「ペキニエ マニファクチュール」の時計をネットでチェックしてみては?

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