3月21日に開催された、世界のトップブレイカーたちが集い、世界最高峰の技を競い合ったブレイキン(ブレイクダンス)のワールド・チャンピオンシップ「FUJIFILM instax™ Undisputed」。昨年のWDSF世界ブレイキン選手権2025優勝も記憶に新しい日本のトップブレイカーShigekixや若き天才HIRO10など、国内の強豪や世界のダンサーたちが鎬を削った本大会は、ソロバトル男子ではHIRO10が、クルーバトル5vs5では世界ランキング1位の日本のトップクルー“Body Carnival”が見事優勝を果たすなど、日本勢のブレイキンにおける強さを示した大会となった。
だが、ダンス、特にブレイキンにおける素晴らしさは競技としての勝ち負けだけではなく、各々の世界観の表現や自身の示したいパフォーマンスの完成度にも見られる。世界のトップブレイカーたちは、その部分で自身のカルチャーをファッションで表現している。それは単なる衣装としてのファッションではなく、自己表現とパフォーマンスをつなぐ“装置”としての服のあり方だ。4人のトップブレイカーに、それぞれのファッションのあり方について聞いた。
Shigekix「服はブレイキンの入口であり出口」
PROFILE: Shigekix
日本を代表するBボーイ、Shigekixのスタイルは、「ナイキ ACG(NIKE ACG)」を軸にしながらも、スポンサーの要素や自身の美意識を織り交ぜた構築。スポンサーであるレッドブルのキャップや同じくスポンサーの「G-ショック(G-SHOCK)」という、プロアスリートらしいコーディネートに「エルメス(HERMES)」のシェーヌダンクルのブレスレットといった異なるレイヤーのアイテムが同居している。
中でも象徴的なのが、「ナイキ ACG」のシェルジャケットに対するこだわりだ。単なるスポンサーアイテムとしての着用ではなく、「自分自身でも過去のアーカイブを古着屋などで掘り下げて買っている」という。だが試合においては「今日着ているのは現行モデル。過去のアイテムやスタイルは好きでも、アイテムによっては重さがあって勝敗を巡る競技では不向きな場合も多い。そういった意味では、試合で着るのはやはり最先端のもの」と、その軽さ、機能性を評価する。動きと造形を前提にした「機能美」への志向は、アスリートとして必須だ。
彼が繰り返し語るのが、ブレイキンにおけるシルエットの重要性。同じムーブでも服によって見え方が劇的に変わる。彼はそれを「モーションキャプチャーのデータに何を着せるかに似ている、同じ動かし方でも見え方は変わるし、人によって見せたい方法も違う。ダボついたパンツは動きをダイナミックに見せるが、タイトなシルエットは足運びなどのディテールを際立たせる」と説明する。身体の動きはデータとして同じでも、外側のフォルムによって“作品”としての印象が変化するという認識だ。
さらに、ファッションはメンタルにも作用する。自分が「イケている」と思えるかどうかが、その日のパフォーマンスに直結する。そこに加えて、先述の動きやすさという実用性、そして観客への見え方という視覚的戦略。この三層が重なり合うことで、彼のスタイルは成立している。
また、彼の特徴は「トレンドからの距離感」にもある。自身では「あまりシーンの中で流行しているスタイルをそのまますることはない。キャップが流行っていたらビーニーを被り、オーバーサイズが流行ればタイトシルエットにするなど、意図的にハズしを作ることが多い。私服もコテコテのストリートではなく、シェルジャケットにスラックスや革靴を合わせたり、デニムや白Tシャツにテーラードジャケットを合わせるような格好をかっこいいと感じる。それが競技上にも現れた結果、今のスタイルになっている」と語る。
最後にShigekixは「ファッションは入口であり出口」と言った。そのダンサーのストロングポイントは実際にダンスを見なければわからないように思えるが、その登場した瞬間のファッションやオーラ、表情は、観客の印象をかなりの部分決定づける。そして、踊り終えた後に、こういったダンサーだからこういう格好をしていたんだとその意味が理解される。ブレイキンにおけるファッションの持つ役割を明確に理解しているのも、Shigekixの強みの一つに見えた。
フィル・ウィザード「オン/オフの二面性を両方楽しみたい」
PROFILE: Phil Wizard
フィル・ウィザードのスタイルは一見ミニマルだ。「ルルレモン(LULULEMON)」と「サウル ナッシュ(SAUL NASH)」のコラボレーションによるブラックのセットアップは、装飾を削ぎ落としながらも、プリーツやロゴの配置といった細部で個性を宿す。そこにレッドブルのキャップと履き込まれた「ナイキ(NIKE)」のスニーカーを合わせることで、アスリートとしてのリアリティが加わる。
ファッションを愛する彼の特徴は、競技上でのファッションを明確に“ギア”として捉えている点にある。スケーターにとってのボード、ボクサーにとってのグローブのように、ブレイカーにとっては服そのものがパフォーマンスの一部になる。見た目が整うことで自信が生まれ、その自信が動きの精度や大胆さに影響するという、極めて実践的な考え方だ。
その一方で、オンとオフの切り替えは明確だ。競技時は、発汗や可動域を考慮し、ジーンズや硬い素材は排除するが、私服では別。日常では、「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」のローファーや「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」「ネイバーフッド(NEIGHBORHOOD)」のアイテムなど、機能性とは無縁のファッションも積極的に取り入れる。そんな時の彼は、ただファッションを愛する1人の若者に戻る。彼はこの二面性を「スーパーヒーロー」に例える。ステージに立つときの装いは戦闘服であり、日常の服はもう一つの人格を表現するもの。機能的な服も、デザインに特化した服もそれぞれの振れ幅を楽しむこと自体が、彼にとってのファッションの醍醐味でもある。
HIRO10「経験をオリジナルにするファッション」
ステファニー「世界の出会いを着こなしに」
PROFILE: HIRO10、Stefani
HIRO10のファッションは、基本的に動きやすさに帰結している。「私服と試合や練習で着る衣服を分けてこなかった」と語る彼のスタイルは、「ミズノ(MIZUNO)」の“プロフェシー”とトップスの色をリンクさせ視覚的な統一感を重視しつつ、スポンサーである「エクストララージ(XLARGE)」のカットソーを取り入れたスタイル。バギーパンツを愛する彼の根底にあるのは、「形の美しさ」に対する強い意識だ。ブレイキンにおいては、技の難易度以上に、その見え方やラインの美しさが重要になる。脚の長さや全体のプロポーションを補正しながら、動きをより美しく見せるため、自然にそのスタイルが定まった。
また、彼はベーシックなスタイルを「自分の質感」に変換することを重視する。誰もが知る動きや服装であっても、自分の身体を通すことでオリジナルにする。「バギーパンツは細かい形は見せづらい」としながらも、「細身のパンツでは技が力なく見える。以前から僕の強みはパワーだと周りに言われていて、それを最大限発揮するのがワイドシルエットだと学んだ」と、過去の経験に裏打ちされた確かさを語った。
そんな彼も、「最近はブレイキンとは違うファッションも楽しむようになった」と語る。革靴やローファーなど、踊りには適さないシューズを履き、ハイブランドのアクセサリーを身につけるのも楽しくなったのは「彼女のおかげ」と語る姿には、等身大の若者らしさがあった。
ウクライナの女子トップブレイカー・ステファニーは、韓国で買ったオーバーサイズのフーディーと「シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)」のバギーパンツを基軸としたストリートスタイル。そこに「リーボック(REEBOK)」と「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」コラボの足袋スニーカーといった組み合わせは、各地を転戦し飛び回る彼女が出会ったお気に入りのアイテムが散りばめられている。
彼女にとって重要なのは、快適さと視覚的な強さのバランスだ。競技時はスポーティーで機能的な服を選びつつも、「どう見えるか」は常に意識されている。その象徴が、ステージ環境に応じた色選びだ。本大会でも「白いフロアであればダークトーンを、暗い空間であれば明るい色を選ぶ。私の動きがよりよく見えるようにするために。当日はコーディネートを幾つか持っていき、その場で選ぶ予定」と語っていた。
日常でも変わらず「私のシンボルはバギーパンツ」と語るステファニーは、現在の日本のストリートカルチャーをバックボーンとしたブランドを好み、日本で試合することはそう言ったブランドのファッションを見れるのも楽しみだという。日本のブレイカーたちと踊り、ファッションも含めた多様なカルチャーを学んでいくことを心待ちにしている彼女の信条が、現在の彼女を作り上げているのかもしれない。
ファッションは「見せ方」を設計するもう一つの技術
4人に共通しているのは、ファッションを単なる装飾ではなく、ブレイキンの「見せ方を設計する技術」として捉えている点だ。それは感情を高め、身体のラインを補正し、観客の視線を導く。そして踊りと結びつくことで、はじめて意味を持つ。
ブレイキンにおいて、ファッションは技と同列にある。それ故に、彼らのファッションは同質ではなく、それぞれの経験や信条から本当の意味での「オリジナリティー」を持つものとなるのだろう。