ファッション

「マイケル コース」は45周年の節目、「トリー・バーチ」「プロエンザ スクーラー」は不完全さを抱きしめる 【2026-27年秋冬NYコレ ダイジェストVol.01】

2026-27年秋冬ニューヨーク・ファッション・ウイーク(以下、NYFW)は2月11日から16日までの公式スケジュール期間中、60以上のブランドがショーおよびプレゼンテーションを開催しました。近年稀に見る厳しい寒さに見舞われた今季のNYFWですが、その前半の模様をハイライトでお届けします。
 
同日に実施した「コーチ(COACH)」のショーリポートは別途掲載しているので、こちらもぜひご一読を。

創業デザイナーからバトンタッチの新生「プロエンザ スクーラー」がお披露目

創業デュオデザイナーであるジャック・マッコロー(Jack McCollough)とラザロ・ヘルナンデス(Lazaro Hernandez)が2025年春夏コレクションを最後に退任し、その後任として「ディオティマ(DIOTIMA)」のデザイナー、レイチェル・スコットが2025年1月にクリエイティブ・ディレクターに就任しました。昨年9月に発表したコレクションはデザインチームとの協業によるものだったため、今シーズンがスコットにとって100%自身のビジョンを反映させた正式なデビューコレクションとなります。

今シーズンは、「プロエンザ スクーラー(PROENZA SCHOULER)」における新たな女性像を体現するワードローブが提示されました。人々に軽々しく迎合しないニューヨークの女性、そしてグローバルに活躍する自立した女性をイメージしたコレクションです。一見すると隙のない完璧な女性像に映りますが、忙しい日にはドレスにわずかなシワが寄ってしまう、そんなリアルでささやかな不完全さまでをも、デザインに落とし込んでいました。

「プロエンザ スクーラー」の創業デザイナーの二人がこれまで築いてきた、アートや現代文化を背景とするコンセプチュアルな姿勢は健在であり、これみよがしなデザインに頼らずとも内面から静かに滲み出る強さ、ブランドを象徴するテーラリングの存在感は確かに継承されていました。ファーストルックに登場したドレスを筆頭に、カッティングや布使いによって柔らかな膨らみや流れるようなドレープを生み出した、女性らしいアイテムの数々。ただし、ふたりが描いてきた自立したクールで知的な女性像に比べると、今シーズンはどこか“余白”を感じさせます。そこには、隙とも言える、いい意味での不完全さが宿っていました。

ブランドの象徴でもあるテーラードは、レディライクなディテールや女性らしさを引き立てるカッティングによって、構築的でありながらも、それに縛られない軽やかさを併せ持っていました。女性デザイナーであるスコットだからこそ引き出せるニュアンスとも言えるでしょう。夜に咲く蘭の写真にペイントが施され、再加工されたプリントは手仕事と現代の技術を掛け合わせた表現だと言います。そのプリントが用いられたドレスにはフリンジやグロメットがデザインのように配され、スコットが得意とするクラフト感も融合されていました。同様に、ドネガルニットやクラッシュ加工を施したシルクなど、素材に奥行きをもたらすアプローチにも、プリミティブな質感とクラフトを得意とする彼女の強みが随所に表れています。技巧を誇示するのではなく、あくまで静かに個性を滲ませる。新章の「プロエンザ スクーラー」を鮮やかに印象づけました。

「トリー バーチ」の継承から生まれる新たなエレガンス  パーソナルな記憶をツイストし、モダンに更新

「トリー バーチ (TORY BURCH)」のコレクションは、毎シーズン、ニューヨークの最新スポットや象徴的なロケーションで発表されることが多く、ショーの舞台そのものにも自然と期待が高まります。今回会場となったのは、世界的オークションハウス「サザビーズ」が新本拠地とするブロイヤー・ビルディング(旧ホイットニー美術館)。コレクションノートには、「混沌や絶望の時代にあっても、なお何が持続するのかを見つめる瞑想。歴史や実用性によって培われてきたクラシックを、私たち自身の物語や経験を通してパーソナルへと昇華する。そこにこそ、本当のスタイルの源がある」と記されていました。トリーの父親が愛用していたコーデュロイパンツや、バーチのスタイルアイコンでもある園芸家のバニー・メロン(Bunny Mellon)の旧宅で見つけた結び目モチーフのクッションから着想を得た「バニー ノット」のバッグも披露しました。クラシックの再解釈とは、こうして誰かの記憶と結びつき、静かに更新されていく。その積み重ねが、いま女性たちが本能のままにまとう佇まいへとつながっていることを表現していました。
 
ランウェイに登場したアイテムは、どこか懐かしさを帯びた色や素材を用い、繊細な刺しゅうが施されていました。インドの職人が手作業で仕上げたバドゥラ刺しゅう、ブラッシュ加工とウォッシュ加工によって趣を添えたシェットランドウールのセーター、かつてのパーティを思わせるノスタルジックな肉厚のサテンドレス。伝統的な技法を用いながらも、スタイリングの妙によって、女性が「すぐにでも着たい」と感じるルックへと昇華されているのは、「トリー バーチ」ならでは。
 
このモダンに再解釈されたクラシックなアイテム同士のミックスは、女性が主体的に装いを選ぶ姿勢、そして自立した女性像を体現しています。一貫したテーマを保ちながらも、スタイリングには多様性があり、その自由さもまた印象的です。毎シーズン、素材の豊かさにも目を見張りますが、今季もまたクラフト感あふれる素材を多用することで、ブランドの深化を改めて感じさせました。

「アシュリン」が描写する日常から考える服づくり 装いとは、崇高でありながら生活に寄り添うオブジェ

「アシュリン(ASHLYN)」の今シーズンのテーマは「バナキュラー(Vernacular)」。「土着の」「その土地固有の」という意味を持つその概念を、デザイナーのアシュリン・パーク(Ashlyn Park)は、日常に根ざした存在としての服に投影します。韓国出身のパークは、アメリカの多様なバナキュラーにも目を向けました。歴史や思想、そしてクラフトが交差し重なり合う場所としてその概念を捉え、そこで得たインスピレーションをデザインへと昇華しました。昨年、「ヴォーグ・ファッション基金」と「アメリカン・エマージング・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」という二つの大きなタイトルを受賞したこともあり、今シーズンのコレクションには大きな期待が寄せられていました。会場もその期待を反映するかのように、熱気に包まれていたように感じます。
 
衣服を「崇高でありながら、生活に寄り添うオブジェ」とコレクションノートに記している通り、今シーズンのジャケットやスカートは構築的なフォルムを持ちながらも、身体をやさしく包み込む曲線が印象的です。メンズ出身という背景もあり、得意とするテーラリングでは、あえて内側の構造を見せるこれまでのテクニックが随所に見られました。なかでも目を引くのは、立体的で複雑なパターンから生み出される独特のフォルムです。派手な装飾に頼ることなく、緻密に計算されたパターンワークが織りなすドレープやシェイプこそが、「アシュリン」が提示する、生活に寄り添うオブジェの本質を物語っています。
 
女性らしさを際立たせるパターンの中に、コーディネートされたメンズライクでルーズなシルエットのトラウザーズが抜け感を加味し、全体の均衡を保っていました。カラーパレットはフレッシュなイエローからスタートし、後半は緊張感のあるモノトーンが続くことで、よりフォルムに焦点が当たったようです。大きな賞を受賞した後のコレクションの重圧から解放されたのか、デザイナーはフィナーレの後の挨拶で感極まっていました。ニューヨークの中でも着実に力をつけて活躍しているアジア人デザイナーなので、個人的にはこれからも頑張ってほしいなと思っています。

回復力と煌めきが交差するニューヨーク 実用と昂揚をまとう「マイケル コース」

ニューヨーク・ファッション・ウィークは新人デザイナーを育む土壌を備える一方で、大御所の存在が力強く、ファッションシーンを牽引しているのも事実です。今シーズン、「マイケル・ コース(MICHAEL KORS)」はブランド設立45周年を記念し、ニューヨークを象徴する文化的ランドマークのリンカーン・センターでコレクションを開催しました。

ショー前日に行われたプレビューで、デザイナーのマイケル・コース(Michael Kors)は今季についてこう語っています。「困難に直面しても立ち上がる世界で最も回復力のある街、ニューヨークと、私の45年のキャリアを重ね合わせました。多様性と回復力こそがニューヨークの本質であり、それはブランドを支えてきた精神でもあります。この街は荒々しくもあり、煌びやかでもある。その二面性こそが魅力であり、私のクリエーションにも通じています」。「ニューヨーク・シック」と記されたコレクションのムードボードには、コースが影響を受けたというリチャード・アヴェドン(Richard Avedon)やアーヴィング・ペン(Irving Penn)の作品をはじめ、アイコン的存在のケイト・モス(Kate Moss)やリアーナ(Rihanna)の写真、さらにエンパイア・ステート・ビルディングやリンカーン・センターといったニューヨークを象徴する風景が並んでいました。ニューヨークは常にコースのクリエーションの源泉であり続けてきました。幾度となく困難を乗り越え、回復してきた街は彼のクリエーションを力強く鼓舞してきたのでしょう。

コレクションでもニューヨークが持つ陰陽をデザインに落とし込んでいました。ブランドの中核を担うテーラリングは柔らかな素材使い、アシンメトリーで建築的なパターンを取り入れることで洗練された印象を残していました。また、煌びやかさ、高揚感を誘うアイテムも通常のシーズンに比べて多かったです。モデルが歩くたびにフェザーが揺れるジャケットやコート、クラフトマンシップが光るハンドカットによるフローラル装飾のスカートも目を引きました。毎シーズン、気候変動に対応し、屋外と屋内で着脱が簡単にできながらエレガントさを損なわない提案をしてきたコース。常に実用性を重んじ、着る人が感じる高揚感を大切にしてきた「マイケル・コース」。45周年のあゆみの中で現在顧客は第三世代にまで及ぶとのことです。ショーのフィナーレを飾ったのは、90年代を象徴したクリスティ・ターリントン。その佇まいは、レジリエンス(回復力)とエレガンスを体現するコースの女性像と重なりました。

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