ファッション

徹底的美学追求の「サンローラン」と絡み合う視線と誘惑にドキドキする「トム フォード」、「リック・オウエンス」は敬意を評してアヴァンギャルド!? パリコレ編集長のひとりごと

皆さん、こんにちは。「WWDJAPAN」の村上要です。2026-27年秋冬のパリ・ファッション・ウイークが開かれています。「WWDJAPAN.com」では注目ブランドを続々リポートしていますが、ここでは、そのほかのコレクションを一挙にダイジェストでご紹介。今回は私の頭の中を皆さんにご紹介するイメージでしょうか?編集長の“ひとりごと”に最後までお付き合いいただければ幸いです。今日は、3つのブランドについて呟きます。

サンローラン
イヴ・サンローランの美学徹底追求
今回は、スモーキングにフォーカス

さぁ、毎回同じようなスタイルを連打することで、そのスタイルの源流がイヴ・サンローラン(Yves Saint Lautent)にあるということに加え、圧倒的な世界観やアティチュードを発信しているのが「サンローラン」。「買える・買えない」や「着られる・着られない」は別として(別としていいのか⁉︎とも思いますが)、ブレない世界観の発信により、日本でも若い世代の注目は高まっている印象です。

今回はタキシード、中でも今から60年前にサンローランが提案した女性向けのタキシードの「スモーキング」をランウエイに大量に送り出しました。クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)はかつて、「スモーキングは、女性たちに力を与えた」と語り、昔、この服を身に纏った女性は「スキャンダラスだった。(当時の既成概念とは乖離していたから)人々は悲鳴を上げ、わめき散らした。憤慨すべき出来事だった」としています。さらに「このメゾンの歴史がもたらすノスタルジアを乗り越え、現代的なものにしたい」として、自身にとっても何度目かのスモーキングスタイルに再び挑戦。今回は大迫力のピークドラペルながら、最小限の芯地で仕上げているのでパワースーツというイメージとは一線を画しています。

もう一つ集中的に打ち出したのは、ラテックスコーティングしたレースのスリップドレスのシリーズ。ギュピールレースを贅沢に用いて、スカートやカーディガン、胸元を大きく抉ったラウンドネックのトップスにも仕上げています。カラーリングはブラウンやオレンジ、マスタードなど、秋冬らしく。寒い時は、この上から、豪華なフェイクファーのコートを纏いましょう(笑)。ここに撫で付けた髪で作ったシニョン、スモーキーアイ、ダークリップ、そしてバックストラップのスティレットと大ぶりのバロック調のネックレス、それでも足りない時はアビエイターのサングラスをつければ、「サンローラン」ウーマンの完成です。

多様性の時代に、皆を同じようなスタイルにすることについては、異なる意見があるかもしれません。また再解釈しているとは言えど、これほどまでに頑なにイヴ・サンローランのスタイルを追求するだけでは、その広がりを印象付けるのは難しいでしょう。でもアンソニーは、サンローランの美学の追求に挑む。なぜなら、それは圧倒的だから。毎シーズン、そんな覚悟を感じます。

トム フォード
絡み合う視線と誘惑とエロスで
コミュニケーションが生まれる

ハイダー・アッカーマン(Haider Ackermann)による「トム フォード(TOM FORD)」は、セクシーではなく、誘惑的です。いやもちろん肌の露出は多く、男性でも女性でも美しき肉体を露わにすることも少なくありませんが、創業デザイナーのトム・フォードによるある意味単純明快なセックスアピールに比べると、もっと艶(つや)っぽく、艶(なま)めかしい。私たちは、その艶かしさに抗えず、近づいてしまい、間近で見たり触れたりしてしまったら、たちまち虜になってしまう。そんな男性像と女性像を描きます。

ハイダーからは以前、確か「ベルルッティ(BERLUTI)」時代だったと思いますが、「ただの洋服と、ラグジュアリーやデザイナーズと呼ばれる洋服の違いって、わかるかい?」と聞かれたことがあります。「なんですか?」と答えると、彼は「ラグジュアリーやデザイナーズの洋服からは、コミュニケーションが生まれる。『素敵な洋服ね』『触ってみてもいい?』『着心地はどうなの?』ーー。そんなコミュニケーションが始まるんだ」と教えてくれました。これは、結構今でも「その通りだな」と思っており、私たちのような人間は、そこに高付加価値があるんだと信じています。

今シーズンの「トム フォード」のコレクションは、まさにそんな演出でした。モデルは順番に、同じようにランウエイ歩くのではなく、自由に行ったり来たり。そしてすれ違うモデルたちに誘惑的・魅惑的な視線を送ります。

彼らが身に纏うのは、切り端をジグザグにしたフェティッシュはレザーのセットアップや、ボタンを第4(‼︎)くらいまで開けたクレリックシャツと合わせたピークドラペルのセットアップ、腰履きのパンツとウエストをヘビのように這う細いベルトのアイコン化してきたスタイルなど。ピッチの異なるストライプでゼブラ柄を描いたモヘアのツインセットや、PVCとクロコダイルをコンバインしたレインコートなどは、ハイダーが言う「コミュニケーションが生まれる」スタイルです。見たら絶対、「PVCとクロコダイルを切り返してるの?なんで⁉︎」って聞きたくなりませんか(笑)。PVCのスカートからは、ブルーのシャツとレースのシュミーズの裾が覗きます。これもまた、思わず凝視したり、3度見くらいしたりしてしまいそうです。

今回のショーは、モデルの視線が絡み合い、それぞれが発信する誘惑が交差し、結果空間全体を触れ難い、でも触れてみたいという独特のムードに包まれました。

リック・オウエンス
伝統と社会的価値観をリスペクト
しながらアヴァンギャルドを貫く

リック・オウエンス(Rick Owens)は今回、マレーネ・ディートリヒ(Marlene Dietrich)の人生に感銘を受けたと言います。第二次世界大戦の前は、その美貌とセクシーな歌声で名声を獲得。戦時下にはナチスドイツを嫌って故郷を離れ、アメリカ軍の慰問団として活動。その後は母国ドイツではバッシングにさらされつつも、諸外国では歌手としてナイトシーンで活躍した人物です。戦前の「鋼鉄のように輝かしい性的挑発者として」のリスペクトのパートでは、レザーやウール、のほか、防弾チョッキなどに用いられるケブラー繊維で、細くて長いIラインのシルエットを提案。このシルエットには、「愛の神殿」や「光の塔」という意味を込めています。

続く「戦時中の義務と奉仕の模範として」のリスペクトのパートでは、首元に雨除けのチンストラップをあしらったり、ノースリーブのコートにはトレンチコートのようなガンフラップを重ねたりのミリタリーウエア。そしてラストは、後年のディートリヒを思わせる豪華なファーコート(とはいえ、その中がダメージデニムなのは、このブランドらしさです)やベロア素材のタッキングドレスでフィナーレを迎えました。

リック様と言えば、そのアバンギャルドなスタイルやショーの演出に注目が集まりがちですが、実は継承される伝統やサステナビリティ配慮しているのは、まだ大勢が知らない隠れポイント。今シーズンも、メランジウールは日本の尾州地方にある工場とイタリアのアルプス山脈の麓に位置する織物工場で織り、ケブラーさえイタリアのコモにあるパフォーマンスウエアを専門とする3世代続く家族経営の工場で織られているそう。サステナビリティでも、排水が最小限になる工場を選定しています。

つまりアヴァンギャルド=特異的ではあるけれど、ユニバーサルな価値観や業界が長く守ってきたもの=普遍的へのリスペクトは忘れない。このブランドは、そのバランスを絶妙に保っている、社会に敬意を抱きながらアバンギャルドを貫いているところがカッコ良いのです。

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