
メンズで芽生えた「愛着」という流れ、端的にいえば昔を想起させるレトロのムードや、多少の汚れは気にしなかったり修理しながら愛用し続けたりのムードを醸し出すビンテージ加工は、2026-27年秋冬ウィメンズのミラノ&パリ・ファッション・ウイークでも広がりを見せている。そんな流れを決定的にしたのは、「クロエ(CHLOE)」。クリエイティブ・ディレクターのシェミナ・カマリ(Chemena Kamali)は「献身」をテーマに、「衣服がどのように感情を宿し、記憶を運ぶことができるか?」に挑戦。自身も子育てに励む彼女は、母親の娘への「献身」を洋服で表現し、まるで思いさえ受け継いだ洋服により、ウィメンズシーンでも「愛着」という価値観の存在を発信した。
ベースは、まさに継承していく民族衣装さえ思わせるフォークロアだ。これまではカワイイ「クロエ」にシェミナが加える一匙のスパイスの印象だったが、今シーズンが全面的に押し出した。レトロカラーに転じたシフォンのマキシスカートに合わせた、胸元でプリーツを寄せたボウブラウスにはレトロな小花柄などの刺しゅうをプラス。さらには陶器で作ったチューリップのペンダントをあしらう。フォークロアのムードを増すため、今シーズンはシープスキン素材を多用してニーハイブーツなどを提案。さらにはレザーパンツやウエスタン風のバックルベルトで甘さを緩和しつつ、ここでも継承されるが故の愛着が生まれる文化を表現した。
1つのハイライトは、まるで母親が子供に手編みして贈ったのか、それとも祖母から譲り受けたものをアレンジしたりリペアしたりして長年愛用し、そろそろ子どもに引き継ごうとしているかのようなニットだ。正直、モードではない。レトロなハンカチーフのような素材で作った楊柳パンツとはマッチしているが、ブラックレザーのスキニーパンツとはミスマッチなアイテムだ。だが、これこそが今シーズンの「クロエ」の本質の1つ。可愛らしさだけではなく、そこに子を思いながら、時間と労力を注ぎ込んだ手仕事は母親の子供への「献身」を物語るし、それを独自に着こなすムードは逆に子供の母親への「献身」を想起させる。
シェミナにとってフォークロアとは、「一体感であり、コミュニティー」だ。人は手仕事によりつながり、手仕事に思いを込めるからこそ、手仕事の洋服はつながりを生み、コミュニティーが育まれる。そこに母子の思いを加えた。
ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)やフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)、クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)が「クロエ」手掛けた頃から、10〜30年が経過している。元祖「クロエ」ファンには、娘を持ち、愛着がある「クロエ」の洋服を娘に贈るケースもあるだろう。実際、今年復活した“パディントン”では、そんな継承の物語があるという。そんな豊かなストーリーに、今回のコレクションは更なる思い出をもたらしてくれそうだ。