皆さん、こんにちは。「WWDJAPAN」の村上要です。2026-27年秋冬のミラノ・ファッション・ウイークが終了しました。今シーズンは、ミラノこそ新デザイナーによる新コレクションが目白押し。「WWDJAPAN.com」ではすでにそれらをリポートしていますが、ここでは、そのほかのコレクションをダイジェストでご紹介。今回は、私の頭の中を皆さんにご紹介するイメージです。編集長の“ひとりごと”に最後までお付き合いいただければ幸いです。今日も、3つのブランドについて呟きます。
「マックスマーラ」
着想源はあの「カノッサの屈辱」の
立役者。一体どんな人物なのか⁉︎
今シーズンは、中世ヨーロ ッパにおいて大きな影響力を誇った統治者のマティルデ・ディ・カノッサ(Matilde di Canossa)に着想源を得たと言います。あの「カノッサの屈辱」のカノッサです。トスカーナ地方の伯女だった彼女は、神聖ローマ帝国の皇帝にとらえられ、兄、義父、夫、そして母を相次いで失います。「カノッサの屈辱」とは、教皇グレゴリウス7世とドイツ皇帝ハインリヒ4世の争いに起因するもの。マティルデは一貫して教皇を支持し、ハインリヒ4世の接近を知ったグレゴリウス7世を彼女の住むカノッサ城で保護したのです。ちなみになぜ「屈辱」かといえば、そもそもハインリヒ4世は破門を恐れてグレゴリウス7世に近づき、カノッサ城で許しを乞わなければならなかったから。つまり「カノッサの屈辱」は、マティルデが教皇グレゴリウス7世を自らの城で保護しなければ起こらなかったかもしれないのです。その後マティルデは、ハインリヒ4世が反撃を始めると、教皇派として参戦します(以上、それなりに調べました。こういう背景を理解するためにも、私はイタリアとフランス史の書籍を結構読んでいます。歴史は美意識を形作りますからね)。
どうです?「マックスマーラ」が無難とか、コンサバだけで片付けられる存在ではないこと、理解できたでしょうか?そして女性ながら広大な領土を収め、卓越した外交手腕を持ち、信念を持って戦うマティルダには、自立のために忙しい毎日を送っている女性なら共感する部分があるでしょう。「マックスマーラ」は、こういう時代を切り拓いてきたり、今の時代にこそ大事な価値観を体現してきた女性に着想を得ているからこそ、女性の共感を得られるのだと思っています。
マティルダは1081年、上述した教皇側と皇帝側の戦いに敗れて領土を失うと、その後は教皇グレゴリウス7世と、皇帝ハインリヒ4世が収めていたドイツ諸侯との連絡役として活躍します。対立関係にある2つの陣営の間に立って平和をもたらす女性へと変わったのです。
それからちょうど900年後、「マックスマーラ」はヴァージンウールとカシミヤを混合したビーバー仕上げの生地で、オーバーサイズシルエットのアイコンコートの“101801”を発表します。ということで今回のキーアイテムは、こちらの“101801”。オーバーサイズのコートに合わせるのは、キャメル、カシミヤ、アルパカを用いたダブルフェイスの素材で作ったボディコンシャスなドレスや、ジップアップのフーディ、Gジャンなど。自立した女性像を描くべく、ウルフやフォックス、ライオンなどの動物の色を選びました。
エンドユーザーがマティルデの精神にほだされて買うとは限りませんが、こうして生まれた洋服はまさに女性のためであり、凛とした気品が漂っているはず。「マックスマーラ」は、こうした気品で、近年女性のファン層を拡大しているのでしょう。
「トッズ」
トッズが駆使する「AI」は
人工知能じゃなくて、職人知能
「トッズ(TOD’S)」も、最近波に乗っています。こちらが支持される理由は、(他のラグジュアリーブランドと比較したときの)“高見え”。その背景には、職人の長年の経験で培われたノウハウや美意識が存在します。良き素材を、職人たちが良きシューズやバッグ、洋服に仕上げているのです。
そこで「トッズ」は近年、自分たちのコアバリューをAI、アーティフィシャル・インテリジェンス(人工知能)ではなく、「アーティザナル・インテリジェンス(職人知能)」と称してコレクションを生み出しています。誰かの何かをラーニングするのではなく、職人が品質や専門性、細部にこだわり、主体的に手を動かして自ら学ぶことに価値を見出しているんです。
「アーティザナル・インテリジェンス(職人知能)」を標榜してから、クリエイティブ・ディレクターのマッテオ・タンブリーニ(Matteo Tamburini)の役割は、デザイナーというよりはコンダクター、指揮者のようになりました。主役はあくまで素材。それを手仕事により軽やかに柔らかく仕上げて、布帛と変わらない洋服に仕上げることで、レザーならではの高級感が漂うスタイルを生み出します。
先シーズンから引き続くのは、ナッパレザーを薄くすいて、まるでシルクスカーフのように扱ったドレス。大きな四角形(贅沢!)に切り出したレザーをバイアスに裁って、プリントしたりサイドにトリミングを入れたりしながら、シンプルなドレスに仕上げます。レザーなのに柔らかいから、優雅なドレープを描くのです。足元は、モカシンの上にストレッチレザーのニーハイを合わせたようなブーツ。ドレスのプリント、同じく重ねるのではなく横にかがり縫いするから重たさが生まれない運針、そしてセカンドスキンのようにピッタリと足に吸い付くストレッチレザー……。全て職人による素材の選択眼と加工技術、成型技術による賜物でしょう。
ジャケットは、マッテオが大好きな細くて長いシルエット。肩は大きく張り出し、ウエストは細くくびれるので、そこからもやはり美しいドレープが生まれて“高見え”します。落ち着いた色合いのニット、ブランドケットで仕立てたポンチョ、一方でシボ感のあるレザーを使ったブルゾンなど、素材と表情は豊か。こういう“ツルン”とした見た目ではなく、起毛感とか温かみを醸し出すことも、人工知能に対抗する職人知能のアプローチではないか?と思うのです。
「ドルチェ&ガッバーナ」
もはや歌舞伎十八番が連発で
アイデンティティーを主張
さてミラノのラストは、「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE &GABBANA)。今回のスペシャルゲストは、マドンナ(Madonna)でした。
「アイデンティティー」と銘打ったコレクションは、まさにブランドの本質を“ど直球”に表現したコレクション。素晴らしい仕立てのスーツは、今シーズンは前身頃と後ろ身頃がほとんど同じデザイン。つまり背中側にもラペルがあって、ポケットがあって、ボタンがあってというパターンです。これまで他のブランドでも時々見かけたアイデアですが、さすが「ドルチェ&ガッバーナ」のそれは、完成度が違います(とはいえ、これを買って着るか⁉︎というのは、また別のお話w)。その下から覗くのは、エロティックなレースが覗く、シルクサテンのペチコート。今季はマクラメやクロシェ編みを交えながら、手仕事の尊さを発信しました。
ピンストライプのセットアップ、マスキュリンなチェスターコート、シフォンの花柄ワンピース、バギーシルエットのダメージジーンズなど、「ザ・『ドルチェ&ガッバーナ』」なスタイル。とはいえ、何か新しさがないと、このシーズンに買う意味を見出すのは少し難しそうな気もします。