実用的なスタイルで知られていたルイーズ・トロッター(Louise Trotter)さえ、わずか2シーズン目でここまでドラマティックなコレクションを作りたくなってしまうのだろうから、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」というブランドの職人技は、相当なものなのだろう。ルイーズは、「私は、最高の職人たちと仕事をしている。仕事の中心は、クラフトマンシップへのこだわり」と話したが、その職人とは、皮革や、それを編み込んだ“イントレチャート”のスペシャリストだけではない。2026-27年秋冬シーズン、ルイーズは職人たちの仕事から、ファーストシーズンに続いて「手仕事で心まで編み込んで」、洋服の素材を大革新。素材の組成とシルエットで軽やかなアウターウエアを繰り出し、今シーズンのミラノで一番ドラマティックなコレクションを生み出した。
元来「ボッテガ・ヴェネタ」は、「自分のイニシャルだけで十分」という哲学を掲げた“控えめなラグジュアリー”のブランドだ。クワイエット・ラグジュアリーがピークを迎えている今は正直、これまでの路線を継続しても良かったはずだ。ところがルイーズは、「着飾るのは楽しい」と話し、マリア・カラス(Maria Callas)らの女優と、何より暮らし始めて1年近くになったミラノで暮らす男女の装いに刺激を受けたと話す。
彼女は、「ミラノには、建築と雰囲気の双方で荒々しさがある。建物はパリに比べれば簡素で、天気の悪い日も多い。しかしドアを開けて中に入れば中庭など美しい場所があり、そのさらに奥には官能性と誘惑が存在している。人々も同じ。そしてイタリアの素晴らしいところは、人々が本当にドレスアップしていること。そういう風景は、今や世界のどこでも見ることは難しい。人々は自分自身のためにドレスアップするが、それはコミュニティーのためにもなる。誇りと敬意の表れ」と話した。簡素な建築の奥に潜む美しい空間、当初の関係は希薄かもしれないが仲良くなれれば素晴らしい人たち、そして普段は何気ない日常着でも特別な日には装うことを楽しむ国民性ーー。こうしたケとハレのような関係性は、「控えめなラグジュアリー」を標榜してきた「ボッテガ・ヴェネタ」が敢えてドラマティックになることで描き出せると考えた。
ショー会場は、劇場。そこでルイーズはドラマチックな洋服を通して、劇場を訪れた際の喜びの表現を試みた。ベースは、人間でいう肌に相当する皮革。そこに天然から高機能繊維までを編み込み、「2つを区別できないようにしたかった」という。前回同様、リサイクルしたムラーノガラスから、同じくリサイクルシルク、そしてニットやシアリングまで、「クラフトマンシップこそが私たちの技術で、テクニックこそ私たちのシンボル。職人と仕事をして手と心で生み出す洋服はとても集合的だし、アイデアを探求し試してみようという意欲が湧いてくる」として、さまざまな素材と加工でボリュームたっぷりのアウターを次々と生み出した。
対極を成したのは、曲線と直線を組み合わせた彼女らしいセットアップや、コンパクトなニットに端正なパンツルックのスタイルだ。ルイーズは、「ミラノの生活はとても速く、人々は忙しく動き回っている。だから軽くしたかった。今回のスーツの構造は、本当に軽い。できる限り軽くした。最初のコレクションからの反省でもある。私たちは常に反省し、改善に努め、そこから何を学べるか、何を活かして今後につなげるかを考えるのが仕事だから。スーツのような仕立てる服で、何かを表現したかった。仕立ての服は一種の鎧のようだが、今回の洋服は肩がとても丸く、柔らかい」という。
ルイーズは現職に就任して以降、ブランドを創設したレンツォ・ゼンジアーロ(Renzo Zengiaro)から軽さと柔らかさに関する教えを授かったという。そこから学んだ教訓は、「仕事に行っても、女性がダンスに出かけられるような靴やバッグを作ること」。軽さと柔らかさは、徹頭徹尾に及び、その躍動感がドラマ性をさらに掻き立てている。