2026年1月7日、高島屋堺店が61年にわたる歴史に幕を閉じた。
閉店時間の夜7時近くになると、1階正面玄関前には最後の瞬間を目に焼き付けようと大勢の客が詰めかけた。安全面への配慮から特別なセレモニーは行われなかったが、シャッターが下りる前、並司(なみ・つかさ)店長が集まった客を前にあいさつした。「温かい堺の町で61年間お世話になりました。高島屋堺店ではなく、堺の町の高島屋、そう言われるように歴代がんばってまいりました。たくさんの温かいメッセージをいただき、われわれがずっとめざしていた目標、夢が本日かなったように思います」。店長の感謝の言葉に応えるように、来店客からは「ありがとう」のかけ声と温かい拍手が送られた。
顧客から7000枚のメッセージカード
この日は朝から来店客約500人に高島屋の花でもあるバラの切り花を一人一人に手渡しした。5階の特別会場に設けられた「堺タカシマヤ61年の歩み展」では、開業からの歩みを振り返る写真パネルやいろんな姿のローズちゃん人形のほか、顧客からのピンク色のメッセージカードと思い出の写真が展示された。
「生まれた年が同じ。屋上のプレイランドが懐かしくて泣けてきました」「生まれたときから当たり前のようにあった高島屋が閉店するのはとても悲しい」「幼い頃、母と一緒に来てワクワクした気持ちを覚えています」「堺の高島屋と共に成長してきました。思い出がいっぱい」「家族の祝い事や喜び事においしいもの、記念になる品を求めた懐かしい日々にありがとう」など、懐かしい思い出とともに閉店を惜しむ声で埋まり、会場の壁面は一面ピンクに彩られた。
手作りのメッセージボードを掲げていた泉南市在住の男性は「ほぼこの店と同い年。祖父母、父母の三世代で利用してきた。百貨店だからと、ここに来るときはいつもよそ行きの服だった。思い出は数え切れない」と、感慨深げに話した。かつて同店婦人服売り場で働き、青春そのものだったという女性の姿も。「1980年入社以来11年勤め、いろんな人との出会いもあって楽しかった。バブルのときはいまでは考えられないほど売れた。働いていた場所がなくなるのはやはり寂しい」と、率直な思いを口にした。
南海高野線沿線に住む62歳の女性は、高島屋ブランドへの安心感と、それがなくなることへの不安感を語った。「堺市内で少しきちんとしたものを買うならここが一番だった。難波や梅田まで出るには距離があった。当たり前にあった風景がなくなるのは不安だが、次の展開に期待している」。
61年間の感謝を伝える1年にしよう
並店長は閉店発表当時の心境を「正直に言えば、最初は悔しさの方が大きかった」と振り返る。発表直後は、スタッフも含めて下を向いてしまう時間が多かったという。2020年度以降、営業赤字が続く中での判断だったが、「地域に支持されてきた店を閉じる」という事実の重みは小さくなかった。
一方で、閉店までに約1年という時間が残されていたことが、店長としての姿勢を定める契機になった。「この1年を単なる撤退準備の期間にはしたくなかった。全員で顔を上げて、お客さまに61年間の感謝を伝え切る時間にしようと決め、日々の接客や売り場運営に向き合ってきた。本日、多くの温かい言葉をいただき、今は感無量です」と語った。
並店長は1993年に入社し、大阪店の紳士服売り場に配属された。当時の堺店に対する印象は「店の規模は小さいが、少数精鋭の店舗運営をしていた。非常に上質な顧客が多く、本当にいいものが好まれる店というイメージがあった」。2024年3月に同店店長に就任。中元や歳暮の繁忙期に1時間以上待たせてしまうこともあり、他店だと苦情が返ってくるところ、堺店では「帰り際に『ありがとう』と言ってくださるお客さまが本当に多かった」という。その積み重ねが堺店独自の空気をつくってきた。
高島屋堺店は南海高野線堺東駅前に1964年に開業。1991年度に売上高が約300億円とピークを迎えたが、直近の2024年度は102億円まで落ち込んだ。長期低迷の要因については「顧客ニーズの多様化に加え、売り場面積約2万5000平方メートルという物理的制約、コロナ禍による消費行動の変化が重なった」と説明する。日常使いは堺店、ハレの日は電車で15分ほどの大阪店という使い分けが定着し、利益構造の調整が難しくなったことも影響した。
それでも並店長は「百貨店は単に物を売る場所ではなく、人生の節目に寄り添う仕事」と言い切る。7000枚を超えたメッセージカードを見て「お客さまの生活や人生の一部に少しでも関われてお役に立てたことが伝わってきて胸を打たれた」。
地方百貨店の再編が進む中、高島屋堺店の閉店は、地域密着型店舗が果たしてきた価値と、その持続性の限界を同時に浮かび上がらせた事例と言える。2031年創業200周年を迎える同社が、デジタル技術も活用しながらその課題に立ち向かい、地域から求められる百貨店の基盤を確立できるかが今後注目される。