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「ブルネロ クチネリ」が創業者の映画をローマでプレミア試写 「人間主義的資本主義」を支える痛みに迫る

ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」は12月4日夜、イタリア・ローマで映画「ブルネローー先見の明を持つ偉大な人」のプレミア上映を開催した。場所は、ローマの撮影スタジオのチネチッタ。同施設で最大のスタジオの落成式典を兼ねたものだ。

映画は、ブランドを創業したブルネロ・クチネリが自らの半生を語る自伝と、幼少期から起業するに至るまでの過程をイタリアの俳優たちが演じた映像を融合した。「ニュー・シネマ・パラダイス」などを手掛けたアカデミー賞受賞監督のジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore)が監督、「ライフ・イズ・ビューティフル」などの映画音楽を作曲して同じくアカデミー賞を受賞したニコラ・ピオヴァーニ(Nicola Piovani)が音楽を担当した。2人に映画の制作を依頼したクチネリは、「多くのドキュメンタリー映画を見てきたが、題材は亡くなった人ばかり。私は、生きているうちに、自分の声を吹き込みたかった」と思いを語る。上場企業のブルネロ クチネリ社がイタリアの映画会社などと共同制作した映画について、クチネリは具体的な投資額は明かさなかったが、「コミュニケーション費用の一部として計上する。この映画は、私のブランドを世界に広め、理解してもらうのに役立つだろう」と話した。

トルナトーレはクチネリ自身の回想を含め、家族や友人、同僚らのインタビューを撮影しながら、彼の両親や親族ら人格とキャリア形成に影響を与えた人物たちを演じた俳優の撮影を交え、およそ2時間の作品を3年以上の歳月を費やして仕上げたという。クチネリは、「トルナトーレには締め切りを設けずに映画を作ってもらった。創造性に期限はつけられないから」と話した。一方のトルナトーレは、「与えられた自由はまるで、クチネリが亡くなり、口を出せなくなったかのようだった」と冗談めかして3年間を振り返りつつも、「撮影の際も一度も口出しせず、完成したらすぐに見てGOサインを出してくれた」と謝意を表した。トルナトーレは撮影に臨むまで、クチネリについては全く詳しくなかったという。この映画も、「最初はドキュメンタリーでも映画でも広告でもなく戸惑ったが、さまざまなエレメントが融合した実験的な作品に仕上がった」と話す。

若きクチネリを演じたのは、イタリアの俳優のサウル・ナンニ(Saul Nanni )。サウルは撮影に際して、「ブルネロ クチネリ」が拠点を構えるウンブリア州ソロメオ村に数カ月滞在し、自身が演じるクチネリを詳しく観察したという。クチネリは、「訛りや地域独特のジェスチャーを見てもらいたかった」という。

プレミア上映には、イタリアのジョルジャ・メローニ(Giorgia Meloni)首相、マリオ・ドラギ(Mario Draghi)前首相のほか、そして「ブルネロ クチネリ」のアイウエアを手掛けるエシロール ルックスオティカ(ESSILOR LUXOTTICA)のフランチェスコ・ミレリ(Francesco Milleri)最高経営責任者のほか、ジェシカ・チャステイン(Jessica Chastain)やジェフ・ゴールドブラム(Jeff Goldblum)、クリス・パイン(Chris Pine)、エドガー・ラミレス(Edgar Ramirez)、カイル・マクラクラン(Kyle MacLachlan)、ジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)ら、多くのスターが来場した。

「人間主義的資本主義」を支える痛みに迫り、
才覚を身につけた仲間とのカードゲームシーンを何度も

「ブルネロ クチネリ」のファンの多くは、利益の地域還元やエシカルなモノ作りに代表される「人間主義的資本主義」な崇高なビジネスに心酔しているだろう。しかし映画は、クチネリが「人間主義的資本主義の基盤をなす要因となった痛み」にフォーカスを当てる。その痛みとは、「父が仕事場で侮辱され、目を潤ませていた光景を見て感じた痛み」。彼は、「あの潤んだ目は、単なる個人的な痛みではなく、人間としての尊厳を傷つけられたことを訴えていた。どんな人も、人間としての尊厳は保たれるべき。魂に一生残されたこの傷は、私にとっての命法となった。この痛みを糧に、人間の道徳的・経済的尊厳のために一生働きたいという意欲が掻き立てられた」と振り返っている。

父の侮辱を糧としたクチネリは、親族や仲間がいるコミュニティでビジネスの才覚を学ぶ。映画でも度々登場する、近所のバールで仲間と興じたカードゲームだ。クチネリは、「バールではさまざまなことを学んだが、特にカードゲームには大きな情熱を傾けた。カードゲームで数学的な感覚を磨き、世界で通用する法則を学んだ。どれだけディスカウントしたら、利益はどう変わるのか?など、今の仕事にも生きている」と語った。映画は家族と暮らす街で、仲間と興じたカードゲームを通して才覚を身につけたクチネリが、ビジネスを軌道に乗せて今に至るまでの過程を振り返る。そして幼少期の自分と向き合い、「人間主義的資本主義」を和やかに語るいつもとは全く違う、怖いくらいに真剣な眼差しでカードを切るクチネリの姿で終了した。この映画そのものこそ、彼が後世に真剣に伝えようとしているメッセージなのだ。

ジェシカ・チャステインは、「彼は生涯、家族や地域社会、そして職人技に身を捧げている。育った価値観を捨てることなく、世界的なラグジュアリーブランドを築き上げた。自分のルーツや出身地、そして道徳観を忘れると、この世界では迷子になりがち。特に現代のような時代においては、重要なことだ」と語った。

映画は、12月9〜11日まで、イタリアで上映される。日本での上映や公開を期待したい。

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