
プレミアム・フレグランス市場がかつてないほどに盛り上がっているもう一つの理由は、ファッションを中核とするラグジュアリーブランドの参入にある。各社は数万円の価格帯で、さまざまな香りを選んだり重ねたりできるラインを、下記の通り昨年の下半期から今年の上半期にかけて相次いで新発売もしくはリニューアル。香水専業もしくは香水を中核とする“メガニッチ”ブランドと戦う。その背景を探った。(この記事は「WWDJAPAN」2025年6月23日号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋です)
「バーバリー(BURBERRY)」

トレンチコートと同素材のキャップ
“バーバリー シグネチャー”(全9種、各100mL、各3万6000円)は、2月26日発売。時代を超えて紡がれてきた英国の伝統と芸術をイメージした9つの香りで、完璧に手入れされた美しい庭園から、荒々しい手つかずの自然や壮大な風景までを表現した。レザーの結び目には最高級のイタリアレザーを、蓋にはトレンチコートのボタンと同じ素材を使用することで、ブランドの洗練された美しさを表現。
「ディオール(DIOR)」

創業者のシルエットにちなんだ22種
“メゾン クリスチャン ディオール”を“ラ コレクシオン プリヴェ”(全22種、各50mL、各2万5300円/各100mL、各4万5100円/各200mL、各6万3140円)として、2月7日にリニューアル発売した。クリスチャン・ディオール(Christian Dior)が生涯で手掛けた22種のシルエットになぞらえ、全22種の香り。フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)=ディオールパフューム クリエイションディレクターが手がけている。
「グッチ(GUCCI)」

今春、オードパルファンに3種を追加
オードパルファン“ザ アルケミスト ガーデン”に3月26日、“バニラ フィレンツェ”と“フィオーリ ディ ネロリ”“オスマンサンスネクター”の3つの香りを加えた。価格は各5万50円(100mL)。ベストセラーの“ティアーズフロム ザ ムーン”を含めて、現在オードパルファンは13種類。さらに3種のフレグランスオイル(20mLで6万1820円)と、3種のフローラルウォーター(150mLで3万6080円)を販売中。
「ジル サンダー(JIL SANDER)」

ルーシー&ルーク夫妻が陣頭指揮
ブランド初のプレミアムフレグランスコレクション“オルファクトリーシリーズ 1”(全6種、各100mL、各4万3780円)を1月28日に発売した。着想源は“目に見えない自分自身”で、これまでブランドを手掛けたルーシー&ルーク・メイヤー(Lucie & Luke Meier)=前クリエイティブ・ディレクターの指揮のもと、ジュリー・マッセ(Julie Masse)とマチルデ・ビジャウイ(Mathilde Bijaoui)、ポール・ゲラン(Paul Guerlain)、ナタリー・ローソン(Nathalie Lorson)、ベレニス・ワトー(Berenice Watteau)の5人の調香師が集った。
「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」

黒の“レプリカ”はオードパルファン
昨年9月26日、オートパルファンの“レプリカ オードパルファン ソウル オブ ザ フォレスト”と“同 ダンシング オン ザ ムーン”“同 フライング”の3種を発売。価格はいずれも100mLで3万1680円(7月17日の価格改定後は3万2890円)。既存のオードパルファン(右の3種)に比べて8000円以上高い。夏には運命の肌の香り“アイディアル ワン”と聖なる煙の香り“セレスティアルウィスパー”を発売。
「プラダ ビューティ(PRADA BEAUTY)」

ブランドのレザー、パターンを採用
香りの芸術を追求したフレグランスコレクション“プラダ オルファクトリー”(全10種、各100mL、各5万3900円)の容器デザインをリニューアルして2月5日に発売した。ボトルのキャップには、ブランドを象徴するサフィアーノレザーを使用。付属のポーチには、香りの世界観に合わせてアーカイブの象徴的なパターンを採用した。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)共同クリエイティブ・ディレクターの創造性を反映。
「ヴァレンティノ ビューティ(VALENTINO BEAUTY)」

ローマ宮殿の7つの場所の香り
新作フレグランスコレクション“ヴァレンティノ アナトミー オブ ドリームス”(全7種類、各30mL、各2万2000円/各100mL、各5万7600円)を2月5日に発売。ローマ宮殿にあるプライベートシアター、バロック様式のバンケットルーム、美しい庭園、秘密の階段、フィッティングサロン、屋上、隠し部屋の7つの場所に着想した香りをそろえた。ガラス製のキャップには、スクエア型のスタッズをあしらった。
「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」

クチュールコレクションをリニューアル
クチュールフレグランスコレクション“ル ヴェスティエール デ パルファム”(全11種、各75mL、各3万6300円/各125mL、各5万600円)を4月25日にリニューアル発売した。イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)のワードローブと彼が創る唯一無二の世界観にオマージュを捧げている。大胆なローズによる透明感溢れる繊細さとクールでスパイシーな香りが織り成す “ブラウス”など。75mLサイズも販売を開始した。
ラグジュアリーブランドは香水専業ブランドを凌駕するのか?
ラグジュアリーブランドが積極的にプレミアム・フレグランス市場に参入するのは、各社が香水、特にオードパルファムを“新エントリーアイテム”と定義するからだ。
今から15年ほど前まで、ラグジュアリーブランドのエントリーアイテムと言えば、バッグと長財布を中心とする革小物だった。ところが原材料費や人件費の高騰、そしてラグジュアリーブランドがそれぞれを唯一無二の憧れの存在に押し上げようとする“エレベーション戦略”などにより、こうした商材の価格は高騰。バッグはもはや50万円を大きく超えるものも珍しくないし、財布も10万円を超えている。ラグジュアリーブランドの世界では「憧れの存在と思っていただいているが、 “高嶺の花”で終わってしまっている」(とあるラグジュアリーブランドの関係者)などの声が聞こえるようになり、以降各社ははやりのスタイルを鑑みながら新しいエントリーアイテムの開発を進めている。
まず注目を集めたのは、スニーカーとキャップだ。その後、コスチュームジュエリーや、カチューシャやバレッタに代表されるヘアアクセサリーなどが続く。現在はスカーフ(アンダー10万円)とサングラス(5万円前後が一般的)、それにバッグに“ジャラ付け”するチャーム(数万円〜)がMZ世代の購買意欲を刺激する新エントリーアイテムだろう。
そしてフレグランスは、スカーフやサングラス、チャーム以上に重要な新エントリーアイテムとなった。「ディオール」などに刺激を受け、各社は長らく存在し続けマスにも響いてきた1万円前後の香水だけではなく、3万〜5万円前後のプレミアム・フレグランスに商機を見いだして“2本柱”戦略をスタート。特徴あるボトルの製品について大々的に広告を打ってヒットすると香りを拡大させる前者に対して、後者は最初からある程度のラインアップをそろえながら“知る人ぞ知る”的なイメージを大事に育成している。トップ調香師の起用やトワレからパルファムへのインテンス化など、“メガニッチ”なフレグランスブランドの成功体験を柔軟に取り入れながら、ファッションで確立したアイコニックなモチーフなども採用している。
ラグジュアリーの世界では、いわゆる「シャネル(CHANEL)」や「ディオール」「グッチ」「プラダ(PRADA)」などの総合ラグジュアリーブランドが専業ブランドを駆逐や凌駕してきた歴史がある。例えばバッグの世界では一時期専業のアフォーダブル・ラグジュアリーブランドは後塵を拝したし、シューズの世界でも専業ブランドには次世代富裕層やインバウンドの増加というアフターコロナの恩恵を享受しきれなかったブランドが数多い。こうした過去を考えると、ラグジュアリーブランドの存在感はプレミアム・フレグランス市場でも高まりそうだ。ラグジュアリーブランドも潮目を迎えた状況を考えると、フレグランスに今以上に傾倒するブランドは増えてもおかしくない。コティ(COTY)とライセンス契約を結んだ「マルニ(MARNI)」や「エトロ(ETRO)」、ロレアル(L'OREAL)による「ミュウミュウ(MIU MIU)」などはおそらく、この市場に参入するはずだ。
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