
県内外で定評のある“沖縄コスメブランド”を紹介する企画の第6弾。今回は沖縄県内の食品加工業者から廃棄されていた材料を採用することで、付加価値の高いコスメへと生まれ変わらせた「オリオン コスメティクス(ORION COSMETICS)」をピックアップ。古波藏利菜「オリオン コスメティクス」代表に取材した。
――:古波藏さんはもともと神奈川県の出身で、東京大学で助教として化学を研究されていたとか。沖縄に移住したきっかけを教えてください。
古波藏利菜「オリオン コスメティクス」代表(以下、古波藏):はい、東京大学では助教として化学を教える一方、研究者としても14年ほど有機化合物全般を研究していました。ただ、もともと植物由来の化合物や原料も研究したいという思いもあったことから、いちど大学を離れてみようと考えまして。その後、自然に恵まれた研究環境を探して石川県、長野県、沖縄県のなかで移住地の候補を探したのですが、沖縄は街並みに自然が溶け込んでいて、人と自然が調和しているなと感じたのです。それが私の目指している社会に近いイメージでもあったことから、2020年に沖縄に移住することになりました。
――:「オリオン コスメティックス」を立ち上げたきっかけは?

古波藏:もともと化学実験操作の中でも“蒸留”がとても好きでして(笑)。なので、沖縄では身近な植物である月桃の蒸留水から作りはじめて、レモングラスやハーブを混ぜたりなど、鍋の中でいろいろなブレンドを試しました。そのレシピを“手作り化粧品”としてワークショップで紹介していたのが化粧品作りのきっかけです。
その際、化粧品作りで必要な素材は県内の食品加工業者が破棄される素材、たとえば製糖工場のさとうきびの灰やハーブティ農家の規格外茶葉などを譲っていただいていたのですが、沖縄はそういった工場や農家が多いことから、声をかけてみると意外に化粧品の素材となるものが多く集まりまして。そこで、この素材をアップサイクルすることで、もっとたくさんの人に使っていただきたいと考え、「オリオン コスメティクス」の設立に至りました。
――:では、ブランドの代表的なスキンケアについて教えてください。
古波藏:人気製品である“廃棄豆から生まれた珈琲バーム”は、地元農家の未完熟珈コーヒー豆を採用したバームです。もともと県立浦添商業高校の女子高生から「未完熟で廃棄されているコーヒー豆をなんとかアップサイクルできないか」と相談を持ち掛けられたことがきっかけでした。そこで、紫外線防止効果や肌荒れをケアする作用のあるポリフェノール、クロロゲン酸を豊富に含むコーヒー種子エキスを抽出しつつ、そこにバージンセサミオイルやミツロウを加えることで、全身に使えるマルチバームとして完成させました。バームでは珍しく、珈琲のやさしい香りが特長なので、さまざまな世代の人に愛用してもらっています。
――:スキンケアだけでなく、洗濯用洗剤も開発されたとか?
古波藏:はい。洗濯用洗剤「キビ ウォッシュ(KIBI WASH)」は製糖工場で砂糖を生産する過程で生じる“灰”をアップサイクルすることで開発しました。“灰”の成分を水に抽出するとアルカリ性の水溶液になり、これが衣類に付着した皮脂やタンパク質の汚れを落とします。弊社が行った洗浄力調査でも醤油やケチャップなどの落ちにくい汚れも、一般的な洗濯用洗剤と同様のレベルでの汚れ落ちを確認しており、植物由来ながら充分な洗浄効果を発揮します。また、2024年には沖縄県優良県産品としても認定されたこともあり、県内外のお客さまから大変ご好評いただいています。

――:今後の展開を教えてください。
古波藏:スキンケア、洗剤はもちろん、ドラッグストアで売られているようなパーソナルケアを自然由来の素材で開発していきたいと考えています。たとえば、沖縄には島豆腐を作る工場がたくさんありますが、聞けば大豆のゆで汁やおからは破棄されているとか。大豆にはサポニンという界面活性成分が含まれていて、水に溶かして混ぜると泡がたつ特性があります。こういった特性を生かせば、新しい洗浄ケアを開発できるはず。このようにアップサイクル原料ありきで、新しいパーソナルケアを開発していきたいと考えています。