ビジネス
特集 熱を帯びるサウナ市場 第6回 / 全7回

博報堂ケトルがクリエイティブで銭湯を救う 堀田湯の復活劇

有料会員限定記事

平日の午後2時。待ってましたとばかりに老若男女が暖簾を潜っていく。ここは、東京都足立区西新井。豆腐屋や理髪店、雀荘が立ち並ぶ昔ながらの商店街にある銭湯、堀田湯だ。一番風呂に浸かるお年寄りたちを横目に、ファッションタトゥーを入れ、髪の毛をフェードに刈り上げたいかにも最近の若者たちが露天側にあるサウナに一目散に向かう。想像していた街の銭湯とは180度違い、随分と賑わっている。それもそのはず、80年以上続く老舗銭湯だった堀田湯は、2022年4月のリニューアルオープン以降、客足が6倍以上増えた(600人/日)。そのリニューアルの目玉が、ととのえ親方が監修したサウナである。(この記事は「WWDJAPAN」2023年9月18日号からの抜粋に加筆をしています)

老舗銭湯の廃業危機を乗り越えろ

堀田湯は、アールイズ・ウェディングの創業者である堀田和宣さんの実家だ。堀田さんからリニューアルを任された博報堂ケトルの皆川壮一郎クリエイティブ・ディレクターは、「堀田さんは弊社のクライアントの代表だった。21年の夏頃、堀田さんから西麻布の焼鳥屋に呼ばれて、突然『俺の実家は銭湯をやっているんだけど、両親が高齢で閉めようか悩んでいる。銭湯を続けるか賃貸マンションにするかコインパーキングにするか、どれがいいと思う?』と聞かれた。迷わず『銭湯がいいと思います』と答えた」と、経緯を振り返る。

東京都の銭湯は、2687軒だった1968年をピークに、各家庭に内風呂が普及したことで減少に転じた。22年には470軒ほどにまで落ち込んでいる。東京都が定めた520円という入浴料で、収益構造的にも限界があり、高齢とともに廃業するオーナーが後を絶たない。

「リニューアルすることになり、堀田さんを中心にチームを作った。その中で大きなきっかけをくれたのが高円寺の老舗銭湯、小杉湯の3代目・平松佑介さんだ。堀田さんと同じように家業の銭湯を継いだ平松さんから『家業を事業にしないといけない』と教えてもらった。そこでまず取り入れたのが、広告の手法。鏡の下にある鏡広告は、東京の銭湯ではほとんど見かけなくなったけど、視聴率100%の広告と言われている。そこをまず売りに行った」。現在、鏡広告には、サントリーや花王といった大手メーカーから「ティーティーエヌイー(TTNE)」や「ゴッドセレクション(GOD SELECTION)」などのサウナブランドやファッションブランド、土屋鞄をはじめとする地元企業まで、多くの広告が入っている。

月に1回の頻度で、イベントも積極的に行い、“ビオレu”との「ビオレ湯」や“マウンテンデュー”との「山雫湯(まうんてんでゆ)」では、アメニティーやドリンクを無料配布。“クラフトボス ミルキープレッソ”とのコラボでは、足立区で働く人1000人を無料招待するなど、話題を作った。

サウナがあるから若者が来て、街が活気づく

その上で重要な収益源となるのがサウナだ。「サウナの値段設定は自由。入浴以外のマネタイズが現実的には必要で、サウナを入れた。サウナをオプションで付けるのもお客さんの自由だけど、単純に客単価が2倍になった」。若者を呼び込み、銭湯復活の鍵になるサウナは、ととのえ親方と一緒に厳密に設計された。「ととのえ親方が初めて監修した銭湯サウナだと思う。露天風呂のある堀田湯の面白い敷地を生かして、中庭を眺めながら入れるロウリュ式薬草サウナ、露天水風呂、広々した外気浴スペース、そして内風呂で、四角関係を作った」。水風呂をあえて東京最深の160cmにしたのも、メディアに興味を持ってもらうためというPRのプロらしい発想だ。街全体を盛り上げるために制作した「西新井マップ」を無料配布し、周辺のお店やおすすめのスポットを紹介した。

銭湯やサウナにクリエイティブは必要なのか。「やりすぎは良くない。最初は建物をぶっ壊して、デザイナーズ銭湯にしようと考えていたけど、堀田さんと風呂に浸かって考えていたら全然違うなと思った。まず、お風呂に入る人の気持ちになったら、必ずしもおしゃれにしたりかっこよくしたりする必要はない。隅から隅までクリエイションが行き届いた銭湯は、気が休まらないから。だからできるだけ、元あった建物を生かしてリニューアルした。銭湯やサウナは、『ケの日のハレ(日常の中の非日常)』。まずは地元の人が毎日、清潔に来られるというのが一番重要だった。それが堀田湯のスローガンでもある“この街を、温める”ことに繋がる。銭湯だといえば、それ以上でもそれ以下でもないけど、ここが街の中心で、熱源で、老若男女、いろんな人が集まる場所なんだと価値化させた。ガチガチに作り込まず“余白”の部分を残したことで、企業がそこに便乗してくれ、イベントをやれば全く違う顔になる」。

話題を作れば働き手も増え、現在は、35人ほどの学生アルバイトが常時5〜6人でシフトを組んでいる。家業は事業になり、確実に新しいマネタイズが生まれているのだ。

サウナの語呂合わせとして、サウナーから神聖な数字として扱われる37(サウナ)番の下駄箱を開けると、扉の裏には、サウナーが貼っていったステッカーが、まるでタギングのようなあんばいで、ところ狭しと貼られている。サウナーから近所の人まで、老若男女に愛される街の熱源、それが堀田湯だ。

■堀田湯
住所:東京都足立区関原3-20-14(東武スカイツリーライン 西新井駅から徒歩7分、隣にコインパーキング7台分有り)
営業時間:平日14:00〜24:00、土・日・祝日8:00〜24:00
定休日:第2木曜日
料金:入浴/大人500円、中学生300円、小学生180円、幼児80円
サウナ/男性450円、女性300円
手ぶらセット(入浴+サウナ+シャンプー+ボディソープ)男性1300円、女性1150円

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

“カワイイ”エボリューション! 2026年春夏ウィメンズリアルトレンド特集

「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。