ファッション

2018年「LVMHプライズ」特別賞獲得の「ロック」 「セリーヌ」出身デザイナーのブランド哲学とは?

 今年「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」の特別賞を受賞したロック・ファン(Rok Hwang)の「ロック(ROKH)」が著しい成長を見せている。ロンドンを拠点に2016年に始動した同ブランドは1年で45の取引先を獲得し、現在は約120へと数字を伸ばす。そこには「ネッタポルテ(NET-A-PORTE)」やドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)、英百貨店セルフリッジ(SELFRIDGES)などが名を連ねる。今年特別賞を受賞した後はさらに注目を浴びることとなったが、「急成長を望んではいない、着実に一歩ずつ顧客とともに成長させていく」と語っていた。コレクションの中ではときに大胆なデザインを試みるが、ビジネスにおいてはかなり慎重なようだ。

 韓国系アメリカ人のファンは、18歳でロンドンの名門校セント・マーチン美術大学(CENTRAL SAINT MARTINS)」でメンズとウィメンズのデザインを学んだ。フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)の「セリーヌ(CELINE)」デビューコレクションから3年間デザイナーとして経験を積み、その後はフリーランスのデザイナーとして「クロエ(CHLOE)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の仕事を請け負った。

 「僕はいつだって急いでいない。ブランドを立ち上げる時も、計画性を持って来るべきタイミングを待っていた」と、急速に進むファッション業界を俯瞰するように立ち上げ当初を振り返る。現在もビジネスにおいては確固たる計画を優先しながら、成長を見込んでいるという。デザイナーであり経営者としての顔も持つファンに、ブランドや発表したばかりの2019年春夏コレクションついて聞いた。

—19年春夏コレクションのテーマは?

ロック・ファン「ロック」デザイナー(以下、ファン):毎シーズン、決まったテーマは設けていない。春夏、秋冬、プレ2回の年4回の各コレクションは物語のようにつながっていて、全てが一つのコレクションだ。現代社会に生きる女性のワードローブの中で、シーズンにこだわらず自由に組み合わせ、着用の選択肢がいくつもあるアイテムを気分に合わせて着て欲しいと思っている。

例えば、ドレスはボタンの付け替えによって体にゆるやかに沿うか、ボリュームを与えることができる。ノッチ付けの襟とスリーブの取り外しでいく通りも表情を変えるシャツ。シグネチャーであるベストセラーのトレンチコートは、ガーバーディーンの素材を使って、解体と構築を繰り返したもので、ドレスのようにもシャツのようにも見える仕立てだ。テーマはないが、今季は女性の多面性や感情の移り変わりに感化され、流動性のあるデザインが多い。女性の“本能”を美しいと感じたからだ。

—「ロック」のコンセプト、女性像は?

ファン:「ロック」が示すのは、自然体で、官能的で、若々しい、新しいエレガンスの概念。ユースが持つ曖昧なフェミニニティーとマスキュリニティーをミックスさせ、繊細で成熟したテイストに仕上げている。決まった女性像はないが、「ロック」は全ての女性に向けた洋服ではなく、僕たちが創る美学に共鳴する人に向けている。共通言語のようにその美学を理解できる人と、物語を紡いでいきたい。

—ビジネス面においては非常に慎重な姿勢を取っている印象だ。新規の取引先とは話し合いを重ねてイメージを共有することを重要視するそうだが、そのような考えに至ったのはなぜ?

ファン:ファッションは自己表現という意味では芸術的側面もあるが、もちろんビジネスとの強いつながりを持っていなければ成り立たない。さらに、ビジネスを支えるのは、取引先や顧客とのコミュニケーションであり、共同作業のようにブランドを構築していくことこそ、最も強固なビジネス戦略だと信じている。そのためには、ただ取引先の“数”に焦点を当ててはいけない、目の前にいる人間、さらにその奥にいる人々と美学を共有することこそが重要だと考えている。

「ロック」を立ち上げたのは、僕自身の視覚言語とコミュニケーションを探求するためでもある。2017年からプレコレクションをスタートさせ、各シーズンの商品数も増やしてはいるが、規模を大きくしても美学が揺るがないように、コミュニケーションに重きを置いている。みんなで創り上げるという意味で、「ロック」は僕のブランドだが、僕だけのブランドではない。

—そのようなビジネスの考え方については、業界で働いた経験から得た?

ファン:いや、コミュニケーションを重要視するのは、僕が昔から持っていた考えだ。言語以外で、心を通わせてコミュニケーションを取れる手段をいつも探求してきた。幼少期は音楽や写真に最も関心があり、それが一つの手段のようだと感じていたが、自然にファッションへと変化した。今でも音楽と写真が着想源になることはしばしばあり、プライベートではビンテージのフィルムカメラで撮影するのが好きで、そうした言語以外のコミュニケーションツールの相互作用によってコレクションを制作している。「セリーヌ」などいくつかのブランドで働いた経験で、洋服の構造やチーム形成について学んだが、自分の言語を生み出し、ストーリーを構築するのは全く別のアプローチが必要だ。

—今後の展望は?

ファン:まだ発表できないのだが、来年は視覚言語を別の形で表現することになる。ショーかプレゼンテーションの開催も計画しているが、何事も急いでいない。洋服を通して美学を共有できる人々と、新しい冒険ができることに期待している。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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