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「シャネル」も注目する“パイナップルから作るレザー”、ロンドンのスタートアップ創業者が語るその意義

 パイナップルの葉の繊維からレザーに似たテキスタイルができることをご存知だろうか。英国ロンドンを拠点とするスタートアップ企業のアナナス・アナム(ANANAS ANAM)が開発した“ピニャテックス(Pinatex)”は、環境負荷が極めて低い天然由来素材だ。「シャネル(CHANEL)」が先日、帽子に用いたことでも注目を集めている。また、これまで「H&M」はジャケットを、ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)はスニーカーで商品化している。

 “ピニャテックス”は廃棄物同然のパイナップルの葉を原料に、水や薬品をほぼ用いずに作られる。開発したカルメン・ヒホサ(Carmen Hijosa)=アナナス・アナム創設者は、もともとラグジュアリーブランド向けにレザーグッズを作っていたというが、なぜ彼女は“パイナップルレザー”に取り組むに至ったのか。9月17~19日にフランス・パリで開催されたファッション素材見本市「プルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION)」でヒホサ創設者に話を聞いた。

WWD:“ピニャテックス”開発に取り組む前は、レザーグッズのデザインや製造に携わっていたとか。

カルメン・ヒホサ=アナナス・アナム創設者(以下、ヒホサ):もともとレザーグッズの中でもラグジュアリーブランド向けのハンドバッグを作っていました。レザーグッズを手掛ける中でコンサルティングも行うようになり、サプライチェーン全体を理解することが必要だと考えました。そうして、原料を調達していた南米やフィリピンを訪れたのが1990年代のこと。そのときに非常にショックを受けました……。ラグジュアリーグッズを作る原点があまりにひどかったからです。臭いもひどければ、水の汚染もひどい。そのように環境に悪い影響を与えているだけでなく、働く人々が病気になっていました。レザーはサステイナブルではないと肌で感じたのです。

フィリピン政府からの依頼で同国での産業を考える

WWD:どうやってパイナップルに行き着いたのですか?

カルメン:90年代後半の頃は世界銀行のコンサルタントをしていました。そのときにレザーの知識が買われて、フィリピンのアートやクラフトをサポートする組合から、同国で何か産業を起こせないかという依頼がありました。国にある資源を生かすことを考え、また、伝統的な手法でナチュラルな糸を用いたモノ作りができないかと考えました。しかしながら当時の私にはテキスタイルの知識が乏しかったので、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art)で学ぶことにしました。

WWD:一からテキスタイルを学んだということ?

ヒホサ:ええ。博士号まで取りました。そうして考えついたのは、繊細な繊維でメッシュが作れないか――ということ。それをコーティングすればレザーのようなものができるのではないかと考えました。パイナップルの葉は強くて、なめらかさや柔らかさもある。繊維も細くできる。いろんなリサーチを経て最もパイナップルが最適だと行き着きました。

WWD:フィリピンはパイナップルの産地でもある。

ヒホサ:フィリピンには300年前からパイナップル繊維を使った編み物があることは知っていました。その歴史ある産業をどう発展させるかをも考えていました。パイナップルの葉は繊維として用いられてきたもののその量は少なく、多くは焼却処分されていました。肥料としても一部使っていたようですが、繊維が硬いので分解に時間がかかり、あまり有用ではなかったのです。

WWD:あの硬い葉っぱからどのように作るのですか?

ヒホサ:まず、フィリピンの伝統的な機械を用いて葉っぱから繊維を引っ張り出します。その後、繊維を水で洗います。この時点で繊維は緑色をしていますが、天日干しすると白くなります。その後、(糊のようにねばねばした)ガミング成分があるのでバクテリアに食べさせます。ここからが特別なプロセス。たくさんの繊維を並べ何千本もの針を当ててフェルト状にします。このニードルパンチの工程まではフィリピンで行い、その後スペインでコーティングとタンブラー乾燥といった2次加工を行います。この2次加工においては水は使いません。普通の染料ではなく、レジン(樹脂)にピグメント(色素)パウダーを加えたものに繊維を浸したらそれでおしまい。あっという間に繊維に染み込みます。水を使うのは、葉っぱから引っ張り出した繊維を洗うときと、機械を洗うときのみ。製品1平方メートルあたりに使うのは約480枚の葉で、パイナップル16~26本分です。

WWD:開発に7年かかったとか?

ヒホサ:いいえ、約10年かかりました。アイデアを形に変えるのは容易ではありませんでしたね。当初は賛同してくれる方もいませんでしたし。さまざまな人を説得するのに時間がかかりました。

「一人一人が日々の選択を全力で行うこと」

WWD:「シャネル」との取り組みで販路は広がっていますか?

ヒホサ:ええ、売り上げは伸びています。今、生産量を増やすために設備を整えているところです。ファッション製品だけではなく、インテリアや車のシートにも用いることができますから。それから、強度や燃えにくさなどの改良もさらに進めています。

WWD:現在の生産量は?

ヒホサ:155cm幅のものが月産で2000~2500mです。

WWD:ファッション業界はどうあるべきだと考えますか?

ヒホサ:今、サステイナビリティーは言葉が一人歩きして、トレンドのようになっていると感じます。まず企業がやるべきは、工程などを透明化することでしょう。正直であるべきです。そしてサプライチェーン全体に責任を持つこと。

それから、ファッションだけではなくてすべてにおいて、誰もが一人の人間として、根本から見直して意識を変えていくことが大切ですね。一人一人が日々の選択を全力で行うこと。一人の力、一人の強さを認識してほしいです。10枚買うのか1枚買うのか、どういった原料でどのように作られているかを深く考えて選択してほしい。地球が悲鳴を上げている今、そうしないと変わらないし、向き合わなければ、結局私たちとその子どもたちに返ってきます。より人間らしさを追求すべきなのではないでしょうか。