
宮岸涼/「ドルセー」青山本店 ストアマネージャー
200年の歴史を持つフランスのフレグランスメゾン「ドルセー」は、2020年に日本に再上陸し、東京・青山に路面店をオープンした。日本で唯一の直営店である青山本店でストアマネージャーを務めるのが宮岸涼さんだ。19年からフレグランスブランドで販売員としてのキャリアをスタートしたが、それ以前は全く異なる業種に就いていた。「大学生くらいからファッションが好きで、それこそ死ぬほど服を買っていました。その一環で香りの世界にハマり、他業種を経てフレグランスに関わる仕事がしたいと思い転職しました」。30歳での転身だったが、畑の異なる販売員という業種にハードルはなかったという。「不安はありませんでした。フレグランスが好きだったから、ただそれだけです」と言い切る。(この記事は「WWDJAPAN」2026年8月24日号からの抜粋です)
BEST POINT
新たな発見を提供し、体験価値を高めるヒアリング力
宮岸さんの接客の強みは提案力と表現力の2軸だ。「すごく調べて来店してくださるお客さまも多い。SNSのアルゴリズムによって、おおよその正解を導き出せる時代です。でも、新しい発見と出合いを提供できるのは販売員しかいないと思っています」。針の穴に糸を通すように、お客さまが気づいていないところに手を差し伸べることが販売員の醍醐味だと語る。
宮岸さんの接客の土台となるのがヒアリングだ。香りをまとうことでどんな自分になりたいのか、イメージや気分、好みなどを会話の中から拾い上げていく。「香料や調香など、香りを難しく伝えることは簡単です。でも、実際にどんな香りなのか、誰もがイメージできるように表現することを大切にしています。例えば、この香りはニットを羽織ったような肌触りで柔らかく香ります、とか」。香りを伝えるためにファッションに例えることもあれば、素材、食べ物、風景、質感など、五感に訴える言葉で香りを表現することもあるという。

インフルエンサーや著名人のユーチューブ企画で「ドルセー」が取り上げられた際に宮岸さんが出演することも多い。その繊細な表現で紡がれる言葉や丁寧な接客を見て「宮岸さんに接客してもらいたい」と店舗を訪れる人もいるという。こうしたSNSなどをきっかけに初めて訪れる人から、フレグランスに詳しい人まで、客層も幅広い。そうした幅広い客層に香りの魅力を届けるため、宮岸さんは言葉だけでなく、所作にも工夫を凝らす。まるでバーテンダーのようにボトルをくるりと回すと、アクセサリーが音を立てる。「例えば、電車の中で誰かがスマホを落としたら、音のほうに視線が集まりますよね。パフォーマンスでもありますが、音によって手元に意識を向けてもらうことで、言葉が入りやすくなります」。言葉や表現を重んじる宮岸さんらしいテクニックだ。
再来店する人も多いという。「彼氏に褒められた」「仕事で評判が良かった」といった報告は、宮岸さんにとって大きなやりがいの1つだ。「自分の提案がちゃんとその人の生活の一部になったことがうれしい」。宮岸さんは自身をドラマ「HERO」の久利生公平に例え、「目の前のことに愚直に向き合う人物。自分も大きな目標を掲げて突き進むよりも、目の前のことに日々愚直に取り組むことの方が向いていると思うんです。お客さまの『あの人から買ってよかった』『お友達連れてきました』が続いていって、死ぬときにやってて良かったなと思えたらそれで良い」と笑う。