ファッション

スタンディングパインでグループ展「PORTRAIT」が開催 “ポートレート“の肖像表現から逸脱しながらも本質に向き合う

スタンディングパイン(STANDING PINE) 東京では、7月5〜26日に、グループ展「PORTRAIT」が開催される。同展には、エミリー・アンダーセン、トビアス・カッペル、櫻井啓裕、トマ・ジラン、ルーカス・フォレット・セリンスキ、平川典俊の6名が参加する。

同展は “ポートレイト“からイメージされる、伝統的な肖像表現から逸脱しながらもその本質にあらためて向き合うことがテーマ。参加作家の作品がイメージや記録、身体性、セクシュアリティ、時間といった多層的な要素を内包し、それぞれが人と作品との関係性に新たな視点を投げかける。

エミリー・アンダーセンは、廃墟となった産業施設や都市のインテリア空間を静謐な視点で撮影し、日常の中に潜む詩情や記憶の痕跡を映し出す作品を制作している。また、1980年代からポートレート写真を撮り続けており、今回はナン・ゴールディンをはじめ、数多くの著名な作家、詩人、映画監督、俳優、建築家たちを被写体とした作品を展示する。彼女の映し出す世界には、雰囲気や詩的な表現への美意識が一貫して息づいており、さらに、写真というメディアを通じて、肖像という言語、時間という概念、記憶の表象を探求し、日常を静止画として捉えるプロセスを丹念に研究し続けている。

写真が現実を写すだけのメディアではなくなった現在において、トビアス・カッペルは、イメージ制作の新たな可能性を探求する。アナログとデジタルの中間領域を横断する作品は、ジャンルの境界を超えながら、視覚表現の真正性や最終性に問いを投げかける。「impssbl’s nthng」は、オールインワン・プリンターの機能を用いて制作されたシリーズ「brother」の一作であり、スキャンや複製の過程で生じるノイズやエラーを積極的に取り込みながら、機械が視覚情報をどのように「見て」「理解するか」を遊び心と批評性をもって探る。

櫻井啓裕による「Untitled (#5)」と「Untitled (#7)」は、2002年にパリのファッションショーで撮影されたバックステージの情景をもとに構成された作品。オートクチュールの舞台裏に漂う緊張感や高揚感、モデルの繊細な表情を記録を超えた視点でとらえた。これらの写真は、23年を経て、記憶と時間が交差する静謐なナラティブとして立ち上がる。また、最新作では、「匿名性」と「集団性」そして「不在の気配」を通して人間の存在の輪郭を描き出し、アーティストは不在ながらも、その余韻に身を浸す彼らの姿は、記憶や感情の中に刻まれた「肖像」として浮かび上がる。そして、霧の中に浮かび上がる群衆は、それぞれが孤立しながらも、全体としては1つの感情の塊のように見え、個人は輪郭を失い、集合的な「気配」や「感受性」だけが立ち現れる。

空間全体との関係性に呼応し、そのネガティブスペースを浮かび上がらせるように設置されるトマ・ジランの立体作品は、彼のドローイング作品に通底する、平面と奥行きの錯覚のあいだで生まれる視覚的相互作用と対をなす。空間そのものを1つの自律したアイデンティティーとして捉えるとき、そこに設置されたこの作品が立ち上げる空間的な存在感は、まるで空間そのもののポートレイトを描き出しているかのようだ。

ルーカス・フォレット・セリンスキの作品は、身体を束縛と解放の場として見つめ、クィア・セクシュアリティに焦点を当て、快楽のニュアンスと身体体験による強烈な感覚について考察する。そして、ジュエリー制作やテキスタイル、アナログ写真、手焼きプリントといった手作業を重視した技法を用いることで、身体をめぐる感覚的な体験を表現している。より親密な世界を描き出したモンタージュ写真シリーズ「La Petite Mort」では、快楽、愛、死といった根源的なテーマに詩的にアプローチし、感覚の極限に触れるような瞬間を繊細に捉え、アナログモンタージュ写真、多重露光、シルクスクリーン、写真をほかのメディウムに移行するフォトトランスファーといった技法を駆使しながら、BDSMの恋人や友人たちを映し出した視覚的なイメージと、裸身であり、官能的である一般的な芸術彫刻を重ね合わせることで、プライベートで親密な刹那と典型的な身体表現との対話を生み出す。

平川典俊は、ユング心理学における「アニマ」の概念を出発点に、女性が自身の内に抱える男性像=アニマを被写体として演じることに着目した写真シリーズ「The anima’s talent」を制作。アニマを単なる女性像の元型ではなく、内面に潜む男性性として捉え、女性がその役割を引き受けることで、逆説的に「内面に存在しない女性性=他者としての男性性」を演じるプロセスが浮かび上がる。同シリーズでは、歌舞伎や宝塚といったジェンダーの演技的伝統にも言及しながら、快楽やアイデンティティの構造にアプローチする。今回の出品作では、南明奈がその「アニマ」の被写体を演じ、写真の中で女性性と男性性の揺らぎを可視化する。

同展を通して、それぞれの作家の作品と対峙するなかで浮かび上がる「差異」は、鑑賞者の個人的な記憶や経験と結びつきながら、肖像という表現形式のあり方を静かに問い直す。オープニングレセプションが7月5日の17:00〜19:00に開催する。

■PORTRAIT
会期:7月5〜26日
会場:スタンディングパイン東京
住所:東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA ART COMPLEX I 3階
時間:12:00〜18:00
休日:日曜、月曜、祝日

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