
ビューティ賢者が最新の業界ニュースを斬る
ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、美容成分を重視する傾向と、それによって生じる原料生産地への意識の変化の話。(この記事は「WWDJAPAN」2025年4月28日 & 5月5日からの抜粋です)
PROFILE: 渡邉弘幸/ウカ代表取締役CEO

【賢者が選んだ注目ニュース】

韓国の美容アプリ「ファへ」の機能に驚かされた。口コミや成分の機能・配合目的が分かるだけでなく、要注意な成分が含まれていれば、そのリスクまで具体的に知ることができる。アレルギーなどセンシティブな情報も明示されており、ユーザーが自身で判断できるのは大きなメリットだ。国内の美容口コミアプリではカバーされていない領域で、先進的だと感じた。
ちょうど同じタイミングで「日本経済新聞」で、化粧品の購入動機が機能性や成分重視へとシフトしており、低価格帯よりも高価格帯の化粧品への支持が高まっているという記事を読んだ。特に基礎化粧品においてその傾向は顕著で、日本に限らず世界的に低価格帯よりも高価格帯の化粧品の成長率が加速しているという。
こうした成分や機能性を重視する流れの中で、「ファへ」は多言語対応を進めることでさらなる支持を得ていくだろう。またメーカーの成分開示が進んだり、アレルギーを引き起こすジアミンのような成分が禁止されたりなど、消費者を守るような動きが広がっていくことに期待している。肌につけるものの安全性が、食料品と同じレベルで問われるようになるのはとても好ましいことだと思う。
その一方で「緑豆」や「コエンザイムQ10」など、よく知られた成分が含まれていればそれでいいという消費者も増えるのではと予想している。そうなるとマジョリティーな成分はレッドオーシャン化が進み、次の競争はオリジナル原料の安全性やリジェネラティブであるか否かにシフトしていくと感じている。
コスメの世界でも産地ブランディングが価値になる
篠原テキスタイルの取り組みは、僕たちが沖縄県石垣市で取り組んでいることの先行事例だと感じた。ウカでは3年ほど前から石垣のヘナ農家と協業して生産・加工し、ヘナカラーをサロンでもホームケアでも提案している。僕は3月に石垣市を訪れ、市庁舎を借りてヘナ農家を増やすためのイベントを開催した。島民が約5万人と言われる石垣市だが、300人の農家の人が参加してくれた。
イベントではかねてから発信してきた「ケミカルなヘアカラーのオルタナティブ」としてのヘナの商機をあらためて伝えた。実際にウカのヘナを生産してくれている農家の人にも登壇いただき、リアルな声を届けることができた。
石垣市の中山義隆市長は2022年の選挙で、「ヘナを石垣の名産にする」ことを公約に掲げてくれ、協力関係を築いてきた。イベントでは苗のサポートやふるさと納税の活用、ヘナの粉砕・乾燥機の購入費用の支援など、行政とタッグを組んだサポート体制についても伝えた。ヘナカラーによってジアミンアレルギーに悩む人を救うだけでなく、石垣の人たちともポジティブな側面を分かち合うために、みんなで考えるいい機会になったと思う。
篠原テキスタイルの事例が目に留まったのはウカとしても同様の取り組みを続けていきたいという思いがあるからだ。市場価格でみるとインド産のヘナは100gで1000〜1500円で流通しているのに対し、ウカが取り扱う石垣産のヘナは約5000円。4倍の価格ながら、あっという間に売り切れる。この違いはブランディングがもたらす価値といえる。
日本だけでなく東南アジアでもヘアカラー比率が高まる今、アレルギーの発症が低年齢化している。ヘアカラーのオルタナティブとして、オーガニックひいてはヘナのニーズは増していくはずだ。そうなったときに、「日本産」や「石垣産」というブランド力は選ばれる理由になる。
「ファへ」の話とも重なるが、成分への関心が高まれば、原料の産地にも自然と目が向くようになるはずだ。アパレルでは記事で取り上げられた「福山のデニム」、食では「大間のマグロ」や「有明の海苔」など、産地に根差したブランディングがいくつも思い浮かぶ。コスメの分野でも取り組む必要があるだろう。
海外の原料では、「モロッコのアルガンオイル」や「ブルガリアのダマスクローズ」「イスラエルのデッドシーソルト」など思い浮かぶものがさまざまある。ウカとしては「石垣のヘナ」や「下田のクロモジ」(ヘアケアシリーズに配合)などを、地元の人と連携して発信していきたい。地元の生産者に敬意を払い、土地を汚さず侵すことなく、お互いの生きる道を守りながら進めること。これこそが本物のフェアトレードだと考えている。
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