PROFILE: 小林琢磨/社長

2025年1月1日付でポーラの社長に就任した小林琢磨社長は、これまでディセンシア、オルビスの事業構造を改革し大きな成果を創出している。ポーラでもその手腕を生かし、さらなるブランド価値向上と中長期的な顧客基盤構築推進のため経営を“サイエンス”していく。
「Science. Art. Love.」を合言葉に
ブランド価値を最大化
WWD:24年の取り組みとその成果は。
小林琢磨(以下、小林):直近まで経営をしたオルビスは、非常に好調な1年だった。売り上げ比率が高いスキンケアの中で最も高価格帯の製品が、売り上げや販売個数、客数の面で突出した成果を挙げることができた。中価格帯を主戦場とするオルビスにとって、一番高い製品が売れているのはとても稀有なこと。これはお客さまにブランドの付加価値を認められている証ともいえる。特に高価格ラインの“オルビスユー ドット”を中心に、高付加価値の美容液などのクロスセルが奏功。これにより全体の売り上げが大きく伸長した。また、エイジングケアシリーズ“ショットプラス”を立ち上げ、ドラッグストア市場への参入を果たした。オルビスはこれまで、ダイレクトマーケティングを主軸に展開してきたが、同シリーズはスキンケアラインとして初めて直販を行わない形態を採用。社内でも議論を呼んだが、生活者の購入生活圏に直接アプローチする必要性を考慮し決断した。
WWD:オルビスは18年から「量より質」のリブランディングで構造改革を行い、成果を出している。ポーラではどう取り組んでいく考えか?
小林:基幹ブランドの「ポーラ」は、24年9月までの実績では販売チャネルの店舗数減少による顧客接点の縮小が響き、国内事業全体で前年を下回る業績だ。加えて、海外事業においても中国大陸を中心に景気減速の影響が続き、売上高・営業利益共に前年を下回る厳しい状況となっている。しかし、“現場の強さ”は当社の競争優位の源泉。ポーラの合言葉でもある企業理念「Science. Art. Love.」は、その精神を的確に表現している。コロナ禍を経て生活者の価値観や購買行動が変化した一方、化粧品市場におけるEC比率の上昇は約2割にとどまった。このようにリアル店舗で購入したい人が大半の中、当社で活躍する地域に根付いた約2万3000人のビューティディレクター(BD)の存在は大きな財産である。「日本はおもてなしの国」と言われているが、人口減少による人手不足でAIの投入や隙間時間に働けるバイトアプリも盛んになり、満足な接客は受けられなくなりつつある。その中でブランドと共に何十年もの間歩み続けてきた愛を持ったBD組織を有することは、大きな強みだ。汗と資源の上に成り立つ差別性が独自性となる。
WWD:ダイレクトセリングの強みをさらに生かしていくためには。
小林:ポーラは創業からダイレクトセリングでブランドポートフォリオを築いてきたため、直接つながるお客さまとの解像度が高い状態。OMO戦略を推進し、新規顧客獲得から高LTV(顧客生涯価値)化までの転換促進を実現するブランド体験「One POLAモデル」の構築に注力している。23年から全チャネルを対象とするメンバーシッププログラム「ポーラ プレミアム パス」を始動し、顧客IDを統合したことにより国内で共通のサービス体験の提供が可能となった。この先は、一本化したIDから次に何を生み出すべきかを課題としている。
WWD:どのような構想か。
小林:ダイレクトマーケティングでは顧客のRFM分析(Recency=最終購入日、Frequency=購買回数、Monetary=購買金額)を実施しているが、例えばレスポンス率が下がっている場合、どこに手を打つか、どこを訪問すべきかなどを現場責任者であるコンサルタントと本社が一緒になり考えていくべき。ポーラのすごい点は、業績が下がっている時もブランドの資産価値は下がっていないこと。これは、製品の技術価値やクリエイティビティ、そして強い製品知識と愛を持って活動する販売現場の強さなど積み重ねてきた独自性があるから。これらのベースをもとに一本化した顧客IDを生かしながらコンサルタントと本社が一丸となり経営をサイエンスしていくことが重要だと考えている。
WWD:製品やブランドポートフォリオにおける課題は。
小林:すでに製品企画の開発力が非常に高く、ブランドの資産価値も高い。この強みは変えずにさらに強化していくことに注力するべきだと考えている。また、ハイプレステージブランド「B.A」については、グローバル市場で十分に競争力を発揮できる水準に達している。加えて、国内市場では若年層の富裕層が増加しており、ここにもチャンスがあるとみている。
WWD:25年は強みを伸ばしていくことに注力する。
小林:生かしきれていなかったブランド資産価値や現場の資産を高めていく。これを前提に、経営やマーケティングを“サイエンス”していく。ダイレクトセリングの強みを生かしてきたことはオルビスで経験済み。この得意分野をポーラでも築き上げていきたい。
実現の可能性はゼロじゃない私の夢
学生時代は東宝でバイトし、年間200本以上を観る映画マニア。紀里谷和明監督の引退作「世界の終わりから」の制作総指揮を務めた経験を持つ。かつてはクリエイティブの才能がないと諦めたが、また映画監督や映像制作に挑戦したい。
1929年に静岡市で創業。企業理念である「Science. Art. Love.」を軸として、「B.A」「リンクルショット」「ホワイトショット」「アペックス」などのスキンケアやメイクブランド、エステなどの美容サービスを展開。創業者の「最上のものを一人一人にあったお手入れとともに直接お手渡ししたい」という思いを大切に、一人一人の顧客と向き合い、美を提供
ポーラお客さま相談室
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