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創業5年で売り上げ3倍 信頼で築いたスキンケアブランド「ファチュイテ」の現在地

PROFILE: 左:藤井明子/「ファチュイテ」ブランドディレクター 右:JUN/「ファチュイテ」商品開発

PROFILE: (ふじい・あきこ)1981年2月生まれ、神奈川県出身。大手航空会社のグランドスタッフとして20年間勤務する傍ら、美容インフルエンサーやモデルとして活躍。38歳で退職し、40歳の誕生日である2021年2月にスキンケアブランド「ファチュイテ」をローンチ。藤子の愛称で親しまれている PROFILE:(ジュン)大手百貨店化粧品ブランドで営業職やマーケティング職を経て独立。美容成分スペシャリストとして「ファチュイテ」の商品開発を担当している PHOTO: TAMEKI OSHIRO

インフルエンサーブランドが切磋琢磨する中、静かに、だが確実に、支持を集めているブランドがある。5年目に突入したスキンケアブランド「ファチュイテ(FATUITE)」だ。美容インフルエンサーやモデルとして活躍する藤井明子氏(以下、藤子氏)が手掛ける同ブランドは、派手なプロモーションに頼らずとも、確かなクオリティーと共感力で幅広い年齢層のハートをわし掴みにしている。利益を得ることよりも、“寄り添う”ことを重視した設計で快進撃を続け、選択淘汰の波を軽快に乗り越えてきた。

違和感から始まった、異業種3人の共創型スキンケアプロジェクト

2021年2月、「ファチュイテ」は異業種出身の3人によって立ち上がった。藤子氏は、空港のグランドスタッフとして約20年働きながら、美容インフルエンサーやモデルとしても活動。製品開発を担当するJUN氏は、大手化粧品メーカーで営業やマーケティングを経験し、美容成分に関する深い知見を持つスペシャリスト。そして、社長を務める林信吾氏は日本の製造スタートアップの海外支社長などを務めていたという、異色の経歴の持ち主だ。

藤子氏は、「インフルエンサーとしての最終目標は自分のブランドを持つことだった。でも、“ただの美容好きなインフルエンサー”である自分1人で作った商品は、ほしいと思えなかった。だから、それぞれの分野で信頼できるプロとチームを組んで、『他とは違う』と思えるスキンケアブランドを作りたいと考えた」と話す。そんな中で、知人の紹介で林社長とJUN氏に出会い、FATUITEを創業。スキンケアブランド「ファチュイテ」が本格的に動き出すことになる。

メイクではなくスキンケアを選んだ理由も、藤子氏らしい。「ファンデを塗るのがめんどくさくて(笑)。ノーファンデでも外出できるような肌がほしくて、肌の土台を整えることにハマった」。スキンケアに夢中になっていくうちに、ふと気づいた違和感がある。

「市場にある商品は、“私が本当に使いたいもの”とどこかズレを感じる。ならば、自分がユーザーを代表して『こんなものがほしい』を形にするブランドを作ろう」(藤子氏)。そう思ったのが、「ファチュイテ」の出発点だ。藤子氏のその“リアルなユーザー目線”は、今もブランドの根底にある。

“感覚×知識×寛容”の掛け算で生まれた
人気No.1美容液

主軸の“ブライテストシリーズ”は美容液や化粧水、クリーム、乳液など、幅広いラインアップをそろえる。中でも、スターアイテムはスプレータイプの高機能ブースター美容液“ブライテスト ファーストエッセンスa”(120mL、8910円)だ。21年2月の発売開始1時間で3000本が完売した実績を持ち、24年2月にはリニューアルを果たした。

そうしたヒットアイテムを次々と生み出しているのが、商品企画を担うJUN氏だ。「お風呂上がりは3秒以内に保湿したい」「エイジングケアも透明感も欲張りたい」「さっぱりとした使用感だけど、高い保湿力がいい」などの藤子氏から飛び出す“わがまま”、つまり要望を製品に落とし込んでいく。

これまでの多彩な経験を武器に、“藤子の感覚”をプロのロジックで処方設計へと昇華させる。林社長は「経営が成立する範ちゅうなら、口は出さない」というスタンスで2人の開発を全面的にバックアップ。JUN氏は既成概念にとらわれない自由な環境の中で、“ほしい”を“作る”に変える独自の手法を磨き続けている。

そして、その探究心は国内にとどまらない。ヨーロッパやタイなどの世界各国で開催される原料展示会にも毎年足を運び、最先端の美容成分や処方技術に、常にアンテナを張る。OEMの研究員と日々ディスカッションを重ねながら、配合比率から処方安定性まで突き詰め、インフルエンサーブランドの常識をはるかに超えるオリジナル開発を追求している。

JUN氏は「ファチュイテ」の“頭脳”としてただ要望を形にするだけでなく、言語化しきれない肌感覚や美意識すら読み解きながら、「誰もがほしかったけど、どこにもなかった一品」を世に送り出している。

2人を支える「ロジカルに寛容」な社長

PROFILE: 林信吾/FATUITE 社長

PROFILE: (はやし・しんご)1987年5月生まれ。早稲田大学を卒業後、約15年にわたり国内外複数のスタートアップ企業にて新規事業、事業開発、M&Aなどに従事。2021年にFATUITEを創業。 PHOTO: TAMEKI OSHIRO

ブランドの裏側を支えているのが、林社長だ。異業種出身ということもあり、化粧品業界の常識にとらわれないビジネス感覚を武器に、OEMのリサーチから直営店出店、さまざまな業務提携まで、多くの決断を下してきた。

「インフルエンサーとビジネスがしたい」。そう考えていたころ、藤子氏と出会う。最初に彼女へ伝えたのは「藤子さんが自分で会社を作って、僕を雇った方がいい」という逆提案だった。

提案したワケは、インフルエンサーが自分のブランドの権利を持たずに所属会社の都合で苦しむ姿を数多く見てきたからだ。林社長には「才能のある人は正しく認められるべき。自分はそのサポートに徹したい」という思いが強くあった。この姿勢は、FATUITE創業後も変わっていない。「会社の利益は、信頼の先に自然とついてくる」と信じ、藤子氏とJUN氏が“本当にほしい”と思うものを自由に開発できるよう、最大限サポートしている。

さらに、その支えは商品開発にとどまらない。ブランド立ち上げ当初は、3人の間で「実店舗は出さない」「販路も広げない」「小さく自由に続けていく」という“鉄の掟”のような方針があった。ところが、ブランドが育つにつれて、ユーザーとの距離が縮まり、期待の声に直接触れる機会が増えていく中で、3人の気持ちにも少しずつ変化が生まれていった。

かつては「やらない」と決めていた実店舗出店に踏み出すきっかけは、突然やってきた。「あるブランドが退店するらしい」と藤子氏とJUN氏が聞きつけ、「ここ空くみたいだから、館に連絡してみて!」と林社長にひと言。

林社長は「……俺かい(笑)!」と心の中でツッコミを入れつつも、半信半疑で電話をかけたところ、渋谷スクランブルスクエアとあべのハルカス近鉄本店への出店が本当に決まったのだ。チームの気持ちの変化を素早く受け止め、現実に落とし込む林社長の“怖いもの知らず”なフットワークが、FATUITEの可能性を大きく押し広げている。

売り上げは初年度から約3倍に成長
“選ばれるブランド”へ進化

販路は公式ECと直営2店舗に加え、24年以降は「イセタン ミラー メイク&コスメティクス(ISETAN MIRROR MAKE & COSMETICS)」を皮切りに、「フルーツギャザリング(FRUIT GATHERING)」や「アミューズ ボーテ(AMUSE BEAUTE)」などの百貨店系セミセルフチャネルにも販路を広げ、ブランド認知と購買導線の構築を着実に進めている。

JUN氏は「百貨店ブランドから『ファチュイテ』に乗り換えてくれるお客さまが多い。価格帯や世界観との親和性が高いと感じている」とのこと。その言葉通り、「イセタン ミラー」各店ではスキンケア部門の売り上げ上位にランクイン。ブランドの“選ばれ方”が、少しずつ変わってきている。

「ファチュイテ」の売り上げは、初年度から約3倍に急成長。同社によると、全国の百貨店で開催してきたポップアップイベントでは、化粧品カテゴリーにおいて歴代記録を更新し続けているという。「ファチュイテ」ならではのブランドロイヤルティーが数字に表れてきた。

特筆すべきは、リピーター率だ。オンラインとオフラインを合わせて約8割に上るが、あえて定期購入は導入していない。「必要なときに、必要なものを、自分の意思で選ぶ。それが化粧品の一番楽しい瞬間だと思っている」と、JUN氏は話す。

MSDと資本提携 
だが“本質”は変わらない

着実に成長を続けてきたFATUITEは25年5月8日、さらなる飛躍に向けてMSD企業投資会社(以下MSD)傘下のSPC(買収目的会社)と資本業務提携を結んだ。このパートナーシップは、スケールを急ぐためではない。“長く愛されるブランド”であり続けるために、そして、チームとユーザー双方にとって安心できる体制を築くために、必要な選択だった。

提携先をMSDに決めた理由について、林社長は「私達の意見や提案を否定せず、“わがまま”をちゃんと受け入れてくれた。MSDには、柔軟性と理解力があった」と語る。MSD側もまた、FATUITEの“人”と“思想”に共感してくれたという。互いに「一緒に働きたいと思える相手かどうか」を大切にしていたからこそ、このタッグは成立した。

提携を機にまず取り組むのは、運営体制の強化だ。これまで林社長が担っていた経理などのバックオフィス業務や販路開拓、OEM先との折衝など、膨大な業務を少しずつ分担していく。林社長は「卸先やお客さまが増えるほど、コミュニケーションも複雑になる。だからこそ、今はまずチーム体制を整えることに専念したい」と語る。

一方で、FATUITEの核となっている思想は、これからもブレることはない。売るための製品ではなく、“本当にほしいものだけを作る”。創業時から貫いてきたそのシンプルな方針こそがFATUITEの原点であり、今後も揺るがないブランドの芯であり続ける。

“仲間”と共に歩む、次なるステージ

「毎日が文化祭みたい。3人で新しいことにチャレンジして、問題があれば納得がいくまで話し合って解決する。気付いたら、とても良い関係になっていた。よく『成功の秘訣は?』と聞かれるけれど、私はいつも“仲間”と答える。そのくらい2人のことは信頼しているし、感謝しかない」(藤子氏)。

3人からスタートしたチームは、今や約30人規模にまで成長。OEMや外部パートナーについても、林社長は「スペックや価格ではなく、“人”で選んできた」と言う。「何者でもなかった私たちを信じて、手を貸してくれたサプライヤーやデザイナーなど取引先各社がいたから、今がある。その存在には、感謝してもしきれない」と笑顔で話す。

FATUITEはこれから、さらなる挑戦のフェーズへと進む。スキンケアカテゴリーの拡充、販路の拡大、アジアを中心とした海外展開。そして、25年7月には初のサプリメントをリリース予定だ。スキンケアの枠を超えた、より自由でシームレスなセルフケアを提案していく。

インフルエンサーブランドから脱却し、“わがまま”を原動力に、本当にほしいものだけを真正面から届け続ける。ブランドとしての“質”で勝負する、その姿勢が共感を超えた信頼を獲得し、FATUITEは新たなステージへと歩みを進める。

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